脚本初心者への指針(文章#47)

ライターズルームでは「初心者禁止事項」を設けていますが、禁止ばかりされて「じゃあ、どう書けばいいんだ!」と悩んでしまう方もいるかと思い、大きな方針として3つ挙げてみたいと思います。

オリジナリティのあるシーン

作者=あなたにしか書けないオリジナリティのあるシーン。

作家はプロアマ問わず、これを考えつづけなければいけません。

シーンとはざっくりいえば「舞台」「シチュエーション」「キャラクター」等の組み合わせです。

たとえば、ラブストーリーで「校舎裏に呼び出してラブレターを渡して告白」。

こういった、過去に何度となく使い古され、誰にでも思い付くようなシーンを「クリシェ」と呼びます。

今どき、こんなシーンを書いても全く魅力的には見えません。こんなシーンを無自覚に書いていたら初心者です(あえてクリシェを使うという応用テクはある)。

とはいえ「誰も見たことがないような素敵なシーン」など簡単に浮かぶものではありません。

せめて一工夫を入れて欲しいのです。

一例ですが(極めて安直な一例ですが!)

舞台を変える
→校舎裏ではなく、こんなところで?という珍しい場所を考える。

シチュエーションを変える
→告白されるという雰囲気を出さずに唐突に思いを告げる。

キャラクターを変える
→ラブレターではない、そのキャラクターらしい珍しい告白の仕方を考える。

単に珍しさを狙うと、奇抜すぎたり、マンガ的(あるいはコメディ的)になりリアリティが無視されます。

それでも、クリシェよりは面白味がある場合もあります。

このあたりのバランスはたくさん書くことと、作品を鑑賞することで引出しを増やすことで、経験を積むなかでしか身につかないと思います。

鑑賞しているだけでは書けるようにはならない。書いているだけでは引出しは増えない。

たくさん観て、たくさん読んで、たくさん書くしかないのですが、常に「クリシェを避けよう」というアンテナを立てておくことが大切です。

アンテナを立てていないと、せっかく面白いものに(日常で)遭遇しても見逃してしまいます。それでは一般の観客と同じ。

作家は常に「創作のアンテナ」を立てて生活しましょう。出会ったときはメモも忘れずに。

リアリティのあるセリフ

ライターズルームは実写ドラマを中心に据えているので、セリフのリアリティは重要です。

初心者はとかく説明的・マンガ的なセリフになりがちで、役者が演じるためのセリフになっていません。

日本はアニメが強いせいか、映像ドラマでも説明的な傾向があるので邦画を基準にしてはいけません。

裏を返せばリアリティのあるセリフを書けるようになれば、脚本家として一歩抜け出せるともいえます。

なお、アニメでは作画の都合などから説明的にならざるをえないときがあります(演劇でも)。

マンガのセリフも、小説的な文字表現との中間で、役者が喋るためのセリフではありません。

こういったものは、同じ「セリフ」といっても使用意図が違うので、ちゃんと区別して参考にしてください。

リアリティのあるセリフを書くのがむずかしいので、マンガ/アニメ的なセリフを基準にしていると一生、上達しません。

また、アニメ・マンガと地上波テレビドラマなどでは「キメゼリフ」が有効なときもあります。

ですが、リアリティのない土壌からでてくる「キメゼリフ」はキャッチコピーになりがちで作り手が思っているほど「キマってません」

名ゼリフと呼ばれるようなものは、シーンやキャラクターの魅力が土壌となって生まれています。

キャラクターの性格や心理を突きつめていくと、書いているうちに、このキャラクターにしか言えないような表現が芽を出します。

そういう中から、自然と「キメゼリフ」に育っていくものがでてくるはずです。

まずは「リアリティのあるセリフ」を目指してください。

では「リアリティのある」とは、どういうことか?

身近にいる人がふつうに喋っているようなセリフです。書き言葉と話し言葉の違いも言わずもがな。

自分で声に出して読むことを推奨しています。「生身の人間がそんなしゃべり方をするか?」という自問自答を常にもちましょう。

ただし「リアリティのある」セリフです。完全に「リアルなセリフ」である必要はありません。

たとえば専門家の用語。完全にリアルに徹すると観客がついていけなくなります。

けれど、プロフェッショナルなキャラクターが素人くさい喋り方をしているとチープに見えます。

このあたりは、用語や知識の問題だけでなく、キャラクターの思考方法などにも関わります。

すなわち「そんなこと言わないだろ~」だけでなく「そんなことしないだろ~」というリアリティです。

「専門家」など書けないと逃げる人も多いですが調べればいいだけです。調べ方のテクニックも身についていきます。

弁護士や裁判官を描くのに司法試験をとらなくてはいけないわけじゃありません。

シーンに関連のある部分ををしっかりと調べれば良いのです(もちろん仕事なら監修もつきます)。

初心者がラブストーリー、ファンタジー、SFなどに逃げ勝ちなのは取材力の低さからくるのかもしれません。

最低限、調べるのは当たり前として、「リアリティのあるセリフ」のためにはウソをつくことも必要です。

一般人でも知っていたり、ちょっとググれば分かるようなことで、ウソをついたらすぐバレます。

かといって、調べた内容をなんでもかんでも説明したら、物語としてはうんざりです。

専門家にとって当然でも一般人はには説明が必要なことを、ざっくりとウソをついてしまう方が物語としてはうまくいく場合があります。

コンプラ等も含めて問題がないか検討の上でウソをつくのはむしろテクニックです。

バレないウソは良いウソ。そもそも、物語はフィクションです。

ウソをどれだけ本物のように語れるか、それこそがリアリティ。リアルは参考資料です。

それでも、絶対にウソをついてはいけないものがあります。

キャラクターの感情です。これについては絶対にウソをついてはいけません。

語り出すと長くなるし、すぐに身につけるのは難しいので、ここでは詳しく書きませんが、キャラクターアークに繋がる物語の本質的な部分であることは留意しておいてください。

演出的なト書き

ト書きをシンプルにわかりやすく書くように。これは基本中の基本です。

映像を観るような流れ方で、読んでいけるのは理想的な脚本です。美辞麗句を楽しむ小説ではないのです。

シンプルなト書きを書くための目安としてト書きは「一行、一人の一動作」という言い方をしています(目安。絶対じゃないですよ?)。

書き方の問題なので、ちょっと慣れればすぐに身につきます。

目指すべきは「演出的な」ト書きです。

映像的という言い換えもできますし、感情的なという言い換えもできます。時間的とも言えるかもしれません。

テンポよく、かつ、物語として意味のあるト書きにして欲しいのです。

「説明的ト書き」というのはあります。

柱の直後には場所の雰囲気を伝えるためのト書きが入りますし、誰がいるかをセットアップしたり、持ち物や背景をきちんと伝えておくための「説明的ト書き」です。

これらを、ただ説明のために書くのではなく「演出的に使えないか?」と考えるのです。

たとえば、柱で外観を立てたら、これから起こるシーンの予兆になっているとか(クリシェな例:ホラーで暗い館に雷が鳴る)、キャラクターの服装を書いたら、その人物の性格や過去に根ざしているとか。

部屋に音楽が流れているなら、どんな音楽かに意味がなければいけません。

物語として無意味なら、わざわざト書きに書かなくて構いません。書かなくても撮影限場では良いように処理してくれます。

ト書きに書くからには、物語に意味があるものを指定してほしいのです。

「動作的ト書き」もあります。

「男、席を立つ」のようなキャラクターの動きを示すト書きです。

こういったト書きでも、無意味なタイミングの動きを書いてはいけません。

小説ではないのだからディテールは役者に任せれば構いません。ト書きに書いたところでストーリー上の意味がなければ演出で変わってしまうことは大いにあります。

「なぜ、そのタイミングで席を立ったのか?」に意味がでるようにキャラクターの演出的に使うのです。それが描写です。

これもキャラクターアークに関わることなので難しいとは思いますが、脚本家が目指すべきものです。

まとめ

言いたいことはたくさんありますが、まずは初心者のための3つの指針として示しました。

「オリジナリティのあるシーンを目指す」(=クリシェを避ける)

「リアリティのあるセリフを目指す」(=説明ゼリフを避ける)

「演出的なト書きを目指す」(=無意味なことを書かない)

どれも理解するのは簡単でも、理解したからといって書けるわけではありません。

頭で理解しても、体で表現するには繰り返しのトレーニングが必要です。

頭ばかりを使って(考えすぎて)体を動かさないのもいけませんが、体ばかりで頭を使わない(指針を意識しない)のもいけません。

自分の中で、バランスをとりながら、たくさん読んで、たくさん観て、たくさん書いてください(たくさん遊ぶのも大事ですね)。

緋片イルカ 2023.7.24

※補足:
キメゼリフについて触れましたが、コピーライター的なセンスは、タイトルなどにも有効ですし、文章を生業にする者として磨いておいて損はありません。

むかしに読んだものですが、印象に残ってる本です。

最近は、もっとわかりやすい本があるかもしれません(こっち界隈の書籍は詳しくないです。いい本があったら教えてください)。

コピーライトの上手い下手の判断は怪しいところがありますが(プロの仕事=すべて良いみたいになりがち)、意識的に読んでいればセンスが磨かれることは間違いないでしょう。

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