「本音マシーン」

 Y博士は失恋の痛手を抱えながら研究室にこもっていた。
「人が愛し合えないのは本音を言い合えないからだ。私の本音が伝わりさえすれば彼女だって…。」
 その気持ちはY博士の新たな研究課題となった。人が愛し合うことができれば世界平和にもつながる。彼の気持ちは高尚なテーマへと昇華されていった。
 まず人間の感情回路を電子的に読み取る研究を進め、次にその読み取った回路を電子信号として相手の脳へと直接伝達する機械が作られた。それはイヤリングのような形をした耳につける機械で、今は試作段階なので配線でつながれた糸電話のようなものだったが、いずれはコードレスにする予定であった。
「ついに完成した。これで世界から戦争がなくなる。」
 Y博士はつぶやきながら片方を自分の耳につけ、もう片方を助手につけさせた。
「どうだ、私の気持ちが伝わっているか?」
「ええ、博士。わかります。博士の気持ちが自分の気持ちのように感じられます。これであの子は博士のものですね』
 Y博士は顔を真っ赤にして、『本音マシーン』を床に叩き付けた。
「ああ、失敗だ。きちんと本音を読み取る部分が未完成のようだ。」
(了)

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