『部屋、行かない?』
その意味を勘違いしたまま、わたしはOKしていた。
青縁の四角い眼鏡をかけたユータくんの温和しそうな外見から、いきなり求めてくるとは思わなかったし、なにより、そういう誘いを受けるのは初めてだった。
『ほんとに部屋に来るとは思わなかった』
ユータくんは明かりをつけると、転がっていたマンガ雑紙やらを片づけて、
『どうぞ。汚くて申し訳ないけど』
『おじゃまします……』
部屋に行く、というのは住んでいる部屋に実際に行くことではなくて、〝プライベートルーム〟で話すという意味だと教えてくれた。わたしを誘った下心を白状させられているようで、ユータくんは照れていた。
『ごめん。わたし、そういうの初めてで……』
『ええ、そうなの?』
『だって十八なったばっかだし……』
成人するとプライベートルーム機能を使うことが法律で認められている。ルームキーを持っている人間だけが入れる非公開回線で、性的な営みのために使われることが多い。
『ユータくんはしたことあるの?』
『まあ、一応。みんな、やってると思うけど』
未成年は学習用ルームや対戦ゲームルームで代用しているのだと教えてくれた。
『知らなかった……学習用ルームは持ってたけど、そんな使い方があるなんて考えもしなかった』
『そんなとこ、つっ立ってないで、こっちおいでよ』
ベッドに腰掛けたユータくんは横にずれて、わたしのためのスペースをつくった。
わたしが小さく収まるように座った。
『キー、送るよ』
ユータくんのおでこがくっついて、ルームキーが受信された。
『ネットでも送れるけど、一応、この送り方のが安全なんだ。入り方わかる?』
『うん。わかると思う』
プライベートルームに入ると真っ暗な洞窟に入ったように静かだった。
『入れた?』
ユータくんの言葉だけが頭の中に反響した。
『目閉じるといいよ。慣れてないと疲れるから』
言われたとおりにすると、わたしとユータくんしかいない世界につつまれた。
それから言われるままに、わたしは、初めての体験をした。
(了)
緋片イルカ2019/04/15
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