アニメ『さらざんまい』最終回についてNさんの考察

『さらざんまい』については終わるといいながら追記です。

このアニメを紹介してくれたNさんの考察がとても鋭いと思ったのでラインでのやりとりをご紹介します(もちろん本人の了承は得てます)。
見たけど理解いかない部分がある方へのご参考にという意味合いですので、作品を見てない方への説明は省かせていただきます。

N:多分みんな死んだんだろうなーってことはわかりました笑 ふわーって終わったなって。

イルカ:え、死亡説の方ですか?笑 僕は死んでないと感じましたよ。

N:え、まじですか。川を渡るとかなんとか言ってたし、最後にとおいが飛び込み自殺でみんなと合流に見えました。アニメを見ての考察って言うことではちょっとそれますけど、いくに監督のアニメ人バッタンバッタン死ぬんですよね
。急にレオマブが欲望を手放して消えるっていう感じだったので、あっこれはこの3人死ぬな、と察しました。

イルカ:なるほどなるほど。この作品のテーマとかメッセージて何だと思います?? 僕は初見で、普通に生きてるハッピーエンドだと思っちゃいました笑

N:感じ方は人それぞれだと思います!! 本当に自分なりの考察になっちゃいますが、幾原邦彦監督って村上春樹が好きでして、その中の「かえるくん、東京を救う」(神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)収録)ていう短編を輪るピングドラムの中で実際に出しているんですよ。(さらざんまいでは箱を手放した一稀の服がカエルだったり財布がカエルだったりして多分関係あるのかなぁっと)。この短編はとってもざっくりにまとめると、男の前でカエルくんが東京のために死んでいくんですが、カエルくんは満足して死んでいくんです。まぁ、この短編何を伝えたいかって言うと人生をギュッてまとめた感じで、みんなはカエルくんと同じように夢(欲望)があってそれをやり遂げて死んでいくんだよっていう教訓めいた話なんですね。輪るピングドラムでは主人公達が短編でいうカエル(のようなもの)に出会って主人公達は欲望を見つけて欲望を叶えて死んでいくんですが、さらざんまいでは欲望を捨ててましたから、これが死を表すんじゃないかと。テーマはいくに作品全てに共通するんですが、欲望を捨てるなって感じですかね。欲望を捨てた主人公はさらざんまいが初めてだったのでビビりました。

イルカ:考察深いですね!なるほどって思いました!! 僕は久慈が絶望に飲み込まれたのをカズキとエンタが二人を助けて戻ってきたと感じました。自殺を友達(友情というつながり)が止めたというかんじで素敵だなと感動しました。映像の解釈としては、久慈は橋を渡って向こう側に行こうとしている(参考画像1)ので「欲望の河を渡れ」というのは生きて戻れという意味だと思いました。欲望を捨てるな=生きろと思ったのですが、Nさんのお話を聞いて、今思ったのは、欲望は生きるために必要だけど欲望を捨てた先にあるのは死ではなく愛(ア)なのかと思いました!もし死んでいたとすると、概念に囚われたことなので、カワウソが消えるのもおかしいとも思ったりします。欲望を捨てて死んでいったのレオとマブなのかもしれませんね。死んでる死んでないに関しては、物理的に考えてカズキが足を撃たれているぐらいで、他の二人も外傷はないので死なないんじゃないかな~とも思いますし、未来の漏洩は「これからの人生も簡単ではないけどつながって生きていこう」みたいなメッセージで、「つながりたいけど○○」というのが概念ですよね。つながりたい=愛したいけど、ときには概念に囚われて、奪い合ったり裏切ったりしたくなってしまいそうになる。それはこれからも変わらない。それでも愛を忘れずに生きていこうというメッセージかなと。僕は自分も書くので、その作品で何を伝えたいのかというのがとても大事なんですね。そういう立場から考えても、この3人が死んでしまった場合と、これからも生きていく場合では伝えたいメッセージが変わってしまうと思うのです。もちろん、解釈は自由ですし、受け取り方も自由ですね。Nさんの話をきいて、すごくスッキリして、はっきりとテーマが掴めた感じがしました! 「さらざんまい」というタイトルそのものはどう受け取りました?

参考画像1:実際の吾妻橋を知っている方はわかると思うのですが雷門のある側からスカイツリー側へ向かって歩いているという意味。

N:そういう受け取り方もありますね、お話聞けて良かったです! タイトルの意味は考えたこと無かったです。さら=命みたいなことなのかなーっとぼんやりと。

イルカ:命の器みたいなセリフもありましたよね。ちなみに「三昧」という言葉を広辞苑には以下のようにあります。

さんまい【三昧】
①(ザンマイとも)〔仏〕
㋐(梵語 samādhi の音訳。三摩地・三摩提とも。定・正定・等持・寂静などと訳す)心が統一され、安定した状態。一つのことに心が専注された状態。四種三昧・念仏三昧など諸種の行法がある。源氏物語(松風)「念仏の―をばさるものにて」
㋑三昧場(さんまいば)に同じ。
②(他の名詞に付いて、ザンマイと濁音化する)
㋐一心不乱に事をするさま。「読書―」
㋑むやみやたらにするさま。「刃物―」「ぜいたく―」

イルカ:そうすると、命が統一されて安定した状態、悟りみたいなことが欲望を捨てて生きていく状態なのかもしれないなと思いました。最初は皿=カッパで、三枚=三人で、主人公三人のことかと思いました笑 あと、生きているか死んでいるかでテーマが変わってしまうというのは、生きているなら僕が感じたような「欲望は生きるために欠かせないけど、概念にとらわれて傷つけあったりもしてしまいますが、それでも愛を忘れずに生きていきましょう」というメッセージですが、死んで欲望を忘れたとなると「欲望は生きるためには欠かせない、それゆえ傷つけ合う。それから放たれるには死ぬしかない」というメッセージになってしまうと思うんです。ラストシーンで、久慈が飛び込むところ(参考画像2)をもう一度見直してみたのですが、「俺の人生はもう終わっている。失ったものはもう戻らない」→「それがどうした!」と言って飛び込んでいるんですが、これも生きようという意志に感じます。この後、飛び込んだ水中で歌がながれてるんですが、これ、テーマを考えてきくとお経みたいに聞こえますね笑


参考画像2

N:メッセージを読み解くためには箱が結構重要だと思います! 過去作品の輪るピングドラムユリ熊嵐も箱が出てくるんですが、この箱って個人の領域って意味でかかれていて、他人に覗かれてはいけない欲望が入っているんです。なので過去作同様、誰もが欲望を箱に閉まって人の道から外れないようにしているという解釈をしました。その箱を手放してしまえば、欲望が個人の領域を越えてしまう。そうなると、欲望を解き放つことになります。なんかごちゃごちゃしてしまいましたが、欲望から解き放たれるためには死ぬしかない、でなく、欲望を解き放ってしまうと、社会から疎外されるっていう言い方の方が正しいのかな、と。この世界での死って、繋がりから外れる=社会的な抹殺という意味でしょうから。現に欲望を解き放った人達は結構危ないことしてましたから、彼らは何らかの理由で箱を無くすか、開けてしまって欲望を解き放ってしまったのではないでしょうか。ラストシーンのことですが、久慈のセリフは私には社会的地位はもう自分にはないと言ってるのかな、と解釈しましたね。捕まってますしね。それに合流する一稀と燕太ですが、この子達なんで水の中にいるのかな、と疑問に思いました。自分なりの解釈ですが多分水の中って死んだ(疎外された)人達がいる生きずらい世界のことを指しているのかもと思いました! あと、いくに監督作品には必ずある裏テーマってやつがあるんですが、(輪るピングドラムはオウム、ユリ熊嵐は三毛別羆事件でした)今回は東京大空襲かと。東京大空襲での隅田川は死の川ですから死の川に飛び込んだとことは、そういうことなのかな、と」


参考画像3


参考画像4

N:欲望を箱にしまわないために戦争が、、、なんてメッセージも隠されているようでゾクゾクします! 浅草に出てくるモブキャラたちにちょんまげがついていたのもこれで納得いきますよね。この監督は色んなところから色々引っぱってくるのでとても考察するのすごい楽しいです!!新たな発見が!!!!

イルカ:なるほど! そこまでは考えても見なかったです。肉体的な死ではなくて、社会的な死というのも、1話目がハコだったのを考えると納得です。もはや生きているかどうかテーマとは関係ないようのかもしれませんね。ちなみに一稀と燕太は外から飛び込んできてますよ。


参考画像5


参考画像6

N:ほんとだ。待ってたんだろーな。あ、元犯罪者と繋がることで社会的なつながりから遠ざかったっていう解釈もできますね。

イルカ:ちなみにその後、三人が泳いであがる岸辺はサッカーの練習をしていた友情の場です。


参考画像7


参考画像8


参考画像9

イルカ:さらに、エンディングの映像で橋をもどっていくんですよ。このあたりの位置関係は、実際の吾妻橋が再現されているので、僕は地元だったのですごい掴みやすいです。すでにご存知でしょうが、橋の近くにうつっている黄色いオブジェクトの建物はアサヒビールの本社で、実際にあります。僕は、実はあんまり作品の解釈みたいなのは好きじゃないんですよね。自分への戒めでもあるんですが、作品がよくわからないとか、解釈を求めるのは、作者の怠惰だと思ってたりするので。でも、Nさんの意見が深くて、なるほど!って思っちゃいました。

N:ありがとうございます。

イルカ:カッパとかバトルの演出は意味とかより、ノリとしても単純にすごく楽しかったです笑 『さらざんまい』教えていただいてありがとうございました。

N:いえいえ、ぜひほかのいくに作品もみてください笑

緋片イルカ 2019/06/30

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