ざっくり読書1『ひとはなぜ戦争をするのか』A・アインシュタイン/S・フロイト


1932年、国際連盟がアインシュタインに依頼した。
「今の文明においてもっとも大事だと思われる事柄について、いちばん意見を交換したい相手と書簡を交わしてください。」
選んだ相手はフロイト、テーマは「戦争」だった――。
宇宙と心、二つの闇に理を見出した二人が、戦争と平和、そして人間の本性について真摯に語り合う。
(アマゾン内容紹介より)

【人類ガ戦争から逃れる方法とは?】
タイトル「ひとはなぜ戦争をするのか?」に、その答えを知りたいと思う。作者を見たら「アインシュタインとフロイトですと!?」。本屋でみかけて即買いしました。
アインシュタインの文章を読むというのも初めてでした。
舌を出した有名の顔写真や、小さい頃の天才的な逸話ばかりがクローズアップされて変わった人という印象をもっていたけれど「へえ~こういう文章を書くんだな~」と。

【アインシュタインからフロイトへの手紙】
まずはアインシュタインからの手紙から引用です。

ナショナリズムに縁がない私のような人間から見れば、戦争の問題を解決する外的な枠組みを整えるのは易しいように思えてしまいます。すべての国家が一致協力して、一つの機関を創りあげればよいのです。この機関に国家間の問題についての立法と司法の権限を与え、国際的な紛争が生じたときには、この機関に解決を委ねるのです。この機関の定めた法を守るように義務づけるのです。もし国と国のあいだに紛争が起きたときには、どんな争いであっても、必ずこの機関に解決を任せ、その決定に全面的にしたがうようにするのです。そして、この決定を実行に移すのに必要な措置を講ずるようにするのです。

この手紙が書かれたのは、第二次世界大戦が始まろうとしていた頃。国際連盟は大戦を繰り返さないためにと作られた組織でした。世界規模でのルールを作ってきちんと守ろうというシンプルな考え方です。

ところが、ここですぐに最初の壁に突き当たります。裁判というものは人間が創りあげたものです。とすれば周囲のものからもろもろの影響や圧力を受けざるを得ません。何かの決定を下しても、その決定を実際に押し通す力が備わっていなければ、法以外のものから大きな影響を受けてしまうのです。

国際連盟が失敗した理由の一つに軍隊を持っていなかったことがあります。

さて、数世紀ものあいだ、国際平和を実現するために、数多くの人が真剣な努力を傾けてきました。しかし、その真摯な努力を傾けてきました。しかし、その真摯な努力にもかかわらず、いまだに平和が訪れていません。とすれば、こう考えざるを得ません。
人間の心自体に問題があるのだ。人間の心のなかに、平和への努力に抗う種々の力が働いているのだ。

人間には本能的な欲求が潜んでいる。憎悪に駆られ、相手を絶滅させようとする欲求が!

ここで最後の問いが投げかけられていることになります。
人間の心を特定の方向に導き、憎悪と破壊という心の病に冒されないようにすることはできるのか?

戦争がなくならないのは、そもそも人間には破壊的な欲求をもっているからだ。では、その欲求自体をコントロールすることはできるのか? それがアインシュタインからフロイトへの問いかけでした。宇宙の法則をみつけたアインシュタインも、戦争をなくす方法は見つけられないでいたのです。

【フロイトからの返信】
さて、次はフロイトの返信からの引用です。

権利と権力の関係からあなたは議論をはじめました。私もこここから考察をはじめるのがよいと思います。ですが、私としては「権力」という言葉ではなく、「暴力」というもっとむき出しで厳しい言葉を使いたいと考えます。
権利(法)と暴力、いまの人たちなら、この二つは正反対のもの、対立するものと見なすのではないでしょうか、けれども、権利と暴力は密接に結びついているのです。

では、原始の時代に遡り、両者がどのように結びついたのか眺めてみましょう。(中略)人と人のあいだの利害の対立、これは基本的に暴力によって解決されるものです。動物たちはみなそうやって決着をつけています。人間も動物なのですから、やはり暴力で決着をつけます。(中略)人間が小さな集団を形作っていた頃は、腕力がすべてを決しました。物が誰に帰属するか。誰の言うことがまかり通るのか。すべては肉体の力によって決まったのです。

しかし程なく、文字通りの腕力だけでなく、武器が用いられるようになります。強力な武器を手にした者、武器を巧みに使用した者が勝利を収めるようになるのです。ということは、武器が登場したとき、すぐれた頭脳や才知がむき出しの腕力を凌駕しはじめたことになります。

このようなあり方は、社会が発展していくにつれて少しずつ変わっていきました。暴力による支配から法(権利)による支配へ変わっていったのです。(中略)多くの弱い人間が結集し、一人の権力者の強大な力に対抗したに違いありません。

王様がいばっていた時代から、革命が起きて民主主義の時代にむかっていきます。しかし、フロイトは言います。

法(権利)とは、連帯した人間たちの力、共同体の権力にほかならないのです。(中略)一人の人間の暴力ではなく、多数の人間の暴力が幅を利かすだけなのです。

法律は支配者たちによって作り出され、支配者の都合のよいものになっていくのです。支配されている人間たちの権利など、あまり考慮されないのです。
すると社会のなかには、法を揺るがす二つの要素があることになります。一つは、支配者のメンバーたちの動き。なおも残された制限を突き破り、「法による支配」から「暴力による支配」へ歴史を押し戻そうとします。

権力者側にによる人達が、自分たちに都合のよい法をつくって支配していくことです。

もう一つは、抑圧された人間たちが絶えず繰り広げていく運動。自分たちの力を増大させ、それを法律のなかに反映させようとします。支配者たちとは異なり、「不平等な法」を「万人に平等な法」に変革しようとするのです。

これは民衆による反乱や内戦へとつながります。

このように、「法によって支配される」社会が一度できあがっても、利害の対立が起きれば、暴力が問題を解決するようになってしまうのです。

これまで考察したことを踏まえて、現在の状況を眺めてみましょう。どのような結論が出て来るでしょうか。あなた(アインシュタイン)が手紙の中で端的に主張したのと同じ結論が出てきます。戦争を確実に防ごうと思えば、皆が一致団結して強大な中央集権的な権力を作り上げ、何か利害の対立が起きたときにはこの権力に裁定を委ねるべきなのです。それしか道がないのです。

【戦争を避けるためのもう一つの方法とは?】
話題はアインシュタインが問いかけた「人間の心の問題」へと移っていきます。
「エロス」と「タナトス」というフロイトの精神分析の理論の説明が入り、

人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうにもない!

と、結論づけます。

では、どのような状況が理想的なのでしょうか。当然、人間が自分の欲動をあますところなく理性のコントロール化に置く状況です。

これは「超自我によってイドをコントロールする」という精神分析の考え方を国家に当てはめている考え方です。国家でいうイドが、これまで考えてきた人間の暴力的な性質であるとすれば、それをコントロールする超自我にあたるものは……

はるかなる昔から、文化が人類の中に発達し広まってきました。人間の内にある最善のものは、すべて文化の発展があったからこそ、身につけることができたものなのです。

文化の発展が人間の心のあり方に変化を引き起こすことは明らかで、誰もがすぐに気づくところです。では、どのような変化が起きたのでしょうか。ストレートな本能的な欲望に導かれることが少なくなり、本能的な欲望の度合いが弱まってきました。

フロイトのいうコントロールは古代ギリシア的な哲学でいう理性によるコントロールとは違います。そのような力づくのコントロールは抑圧を生むと精神分析では考えます。

心理学的な側面から眺めてみた場合、文化が生み出すもっとも顕著な現象は二つです。一つは、知性を強めること、力が増した知性は欲動をコントロールしはじめます。二つ目は、攻撃本能を内に向けること。好都合な面も危険な面も含め、攻撃欲動が内に向かっていくのです。

文化の発展が人間に押しつけたこうした心のあり方――これほど、戦争というものと対立するものはほかにありません。だからこそ、私たちは戦争に憤りを覚え、戦争に我慢ならないのでしょうか。

現代社会を生きている我々は、日常生活で不満や鬱屈を感じることが多いと思います。しかし、その鬱屈こそが争いを起こさないために堪えている知的活動の結果かのだと思います。
安易に欲動に従えば、戦争や革命という名の「暴力」が起こります。
第二次大戦が始まる頃に書かれた二人の手紙が、今の時代に通じることは、今もまた、世界は戦争に近づいていると言えるのかもしれません。

【書籍紹介】
引用したい文章が多すぎて、これでも泣く泣くカットしたところがたくさんあります。
分量は二人合わせても55頁ほどで、手紙なので話し言葉で書かれているのでとても読みやすいです。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

ひとはなぜ戦争をするのか (講談社学術文庫)

緋片イルカ2019/04/28

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