キャラクター概論2「キャラクターの表現方法:脚本における場合」

前回、キャラクターには外面・内面・環境の3つの要素があり、それらは互いに関連しているので切っても切り離せないということを考えました。
今回は、キャラクターを作品の中でどう表現するのかということを考えていきます。

例えば、このキャラクターは「頑固な性格」で「身長は高めで190センチ」で「死んだ弟の形見のブレスレット」をしているなどと考えていても、それはまだ設定にすぎません。
脚本と小説で表現技法はやや変わりますが、わかりやすい脚本から考えていきます(マンガは脚本より、ラジオや声劇などのオーディドラマは小説寄りです)。

悪いテクニックと言われるのは、冒頭にモノローグで「俺は頑固な性格だ。身長は190センチで、これは弟の形見だ」などと言わせる方法です。
モノローグが悪いと頭ごなしに否定する人もいますが、それでは何も考えていないのと同じです。誰かに言われたから悪いと思い込んでいるだけ。

この例のように、説明してしまうのが何故いけないかと言うと、面白くないからです。けっしてモノローグというテクニックが悪いわけではありません。

以下のようにしたら、どうでしょう?

例えば「俺は頑固じゃない」というモノローグに合わせて、いかにも頑固者がやりそうなことを映像で見せるのです。
次に「身長が低いのがコンプレックスだ」と言いながら、天井に頭をぶつける映像。
次に、女の子が、ブレスレットを見て「オシャレ」と言うのを、さっと手で隠して「そんなことないよ」と言う。
モノローグ「これについて気軽に言われたくない」などとすると、意味深になります。
ただの説明的なモノローグでは、履歴書の説明文みたいな情報の羅列だったのが、うまくやりさえすればたったた数秒で主人公の性格がなんとなく見えてきます。
けっして、モノローグが悪いのではありません。モノローグの特性をわかっているかどうかです。

モノローグを使わずに説明するとなると「シーンで見せる」ということになります。
主に「セリフ」か「動作」です。
脚本を書く人ならおわかりだと思いますが「動作」ならト書きに書くことになります。

またベタでつまらない例を出します。
主人公の家族がでてきて何らかの会話の後、「あなたって本当、頑固者だよね」と言わせます。(※厳密にはこれでは「家族に頑固者と思われている」ということが観客に伝わっただけなのですが、ややこしくなるので踏み込みません)。
あるいは「どうして、嫌なの?」「俺は頑固者なんだ!」と言わせる(※これも厳密には「主人公が自分は頑固者だと思っている」と伝えただけです。自分の性格が思っているほどじゃないということはよくあることです)
こういったものが、「動作」で伝えるやり方です。

「動作」で伝える場合は、この人、「頑固だな~」と思える場面を考える必要があります。
たとえば、学校に行く子供が遅刻しそうになって慌ててるのに「ちゃんと挨拶をしてから行け」と引き止めたり、電車が人身事故で止まっていて、周りが乗り替えているのに、一人で腕を組んで座って動き出すのを待っているとかとか……これらのシーンの良し悪しはともかく、その人物の行動を見て、観客が「この人、頑固だな~」と思うのが理想です。
そう思わせられるなら、セリフで「俺は頑固じゃない!」と言っていても、観客は「いやいや、頑固でしょ」って思って、面白がったり、この二面性に共感を持ってくれたりします。若い作者の脚本は一面的で、言動一致しすぎているので、主人公が作者に都合のいい人形に見えてしまうのです。

イルカの考える「ビート」には「主人公のセットアップ」というものを入れていますがテンポのいい映画では、ほんのワンシーンでこのビートを処理しています。それだけで、セットアップが終わりという訳ではありませんが「主人公がどういう人間なのか」をワンシーンで説明してしまっているのです。その後のシーンでも、その性格や特徴は補完されていきますが、ストーリー自体が進む中でされていくので、どんどん引き込まれます。ストーリーを進めながら、主人公を紹介していくことが本当は重要なのです。
「主人公のセットアップ」の処理が甘い作品では、いかにも主人公を説明するためだけのシーンがだらだらと続きます。10分以内なら耐えられますが、それを越えると、観客はうんざりしてきます。

話がそれましたが、シーンで見せるとはこのように「セリフ」か「動作」で見せるということです。
外面については、映像では一目瞭然なのでト書きに書く必要もないぐらいです。形見のブレスレットなど、ストーリー上の伏線や意味のある物だけしっかり書いておけば、あとは演出家の仕事です。

次回は、小説における表現方法について考えていきます。

緋片イルカ 2019/06/16

次回→キャラクター概論3「キャラクターの表現方法:小説における場合」

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