キャラクター概論23「言動決定要素④脳内辞書:形容詞の使い分け」

言動決定要素について順番に考えきました。引き続き「脳内辞書」について考えていきます。前回は「動詞の使い分け」ついて考えましたが、今回は「形容詞」です。

【形容詞は価値観の反映】
「美しい」という言葉を例にとってみます。
絵画の印象派モネの絵を美しいと思う人もいれば、現実の花の方が美しいと思う人もいます(谷川俊太郎さんのバラの詩についてを思い出します)。人工的なイルミネーションなどは好みが分かれます。他にも、一般的には美とは言われないものや、気持ち悪いと言われるものにまで「美しい」と感じる人はいます。
「美」は生存欲求に直結しないため、個人差が大きいのかもしれません。

三島由紀夫の『仮面の告白』(新潮文庫)には、こんな一節があります。

私は今手にしている画集のたぐいを、今日はじめて見るのであった。吝嗇な父は子供の手がそれに触れて汚すのをいやがって戸棚の奥ふかく隠していたし、(半分は私が名画の裸女に魅せられるのを怖れたからだが、それにして、何という見当違いだ!)私は私で講談雑誌の口絵のに対するほどの期待を、それらに抱いていなかったからのことだった。――私は残り少なの或る頁を左へひらいた。するとその一角から、私のために、そこで私を待ちかまえていたとしか思われない一つの画像が現われた。
 それはゼノアのパラッツォ・ロッソに所蔵されているグイド・レーニの「聖セバスチャン」であった。

※絵画が見たい方はこちら画像検索から

仮面の告白の「私」(※小説なので三島とは呼ばない)にとっては、この絵が裸女よりも美しいのです。

【美しさを何に喩えるか】
何を美しいと感じるのは「価値観」の問題です。美しいと感じたものをどう表現するかは「脳内辞書」の領域です。

A:「海辺でめいっぱい日差しを浴びて小麦色に焼けた肌のように」
B:「アスファルトの隙間から懸命に咲く一輪の花のように」
C:「絵の具のすべての色を使いきったようなカラフルさで」
D:「汗ばんだ乳房に浮いた玉のように」
E:「葉を広げたまま朽ちたオオムラサキの羽のように」

表現の拙さはご容赦ください。Aは健康美。日焼け=健康はちょっと古いかもしれませんが。Bは生命の力強さに対する美。Cは色彩美。Dはエロス。Eはタナトス。何に対して表現するか、それをどういう美的センスから表現するか。その違いに着目してください。
これはキャラクターによる違いだけでなく、小説の地の文にも影響します。語り手を越えて、作者自身が前に出すぎた表現はひっかります。

【セリフ(口語)レベルでの表現】
文章表現は、よく考えてから書かれたものですが、これは「脳内辞書」でいうと普段は使わない言葉なども含まれることがあります。口語=セリフレベルではより反射的で、使い慣れた言葉を使います。

「きれい!」
「すごい!」
「素敵!」
「やばい!」
「めっちゃ綺麗!」
「……(言葉にならない)」

「!」がつくような反射的な言葉は案外シンプルな言葉が多いはずです。それでも「綺麗」「素敵」といった一般的な言葉を使うか、「やばい」「めっちゃ」を使うかは年齢や性別を含めてキャラクターによる差が出ます。

次回は……キャラクター概論24「言動決定要素④脳内辞書:名詞の使い分け」
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緋片イルカ 2019/08/09

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