読書会の開催に合わせて、三幕構成で分析していく上でのコツを説明していこうと思います。回を重ねるごとに三幕構成の仕組みが理解できるように、少しずつ深めていきます。第1回は物語は「旅」であるという感覚をつかむということについて説明します。
物語はすべて「旅」
物語はどんなものでも「旅に出て、帰ってくる」の構造をもっています。
これは実例で話した方が早いでしょう。
桃太郎→「鬼退治」をして帰ってくる。
浦島太郎→「竜宮城」へ行って帰ってくる。
赤ずきん→「おつかい」をして帰ってくる。
シンデレラ→「舞踏会」へ行って帰ってくる。
バックトゥーザフューチャー→「タイムスリップ」して帰ってくる。
いかがでしょうか?
すべて「旅」という構造を持っています。
ちょっと待てよ、じゃあ、「かぐや姫」はどうなんだ? 鶴女房(つるの恩返し)は? 花咲かじいさんは?
そんな声も聞こえてきそうです。
「旅」とは比喩である
物語の構造を「英雄の旅」に喩えた人がいます。ジョーゼフ・キャンベルという神話学者で「モノミス」と呼ばれます。
キャンベルは世界中の民話や神話を集めて、似たような物語を重ね合わせると、一つの構造になるという説を唱えました。
それを映画に応用したものが「ヒーローズジャーニー」という考え方で、そこから三幕構成やビートシートという考え方も生まれてきています。
歴史はともかく「旅」というのはあくまで比喩なのです。言い替えるなら「非日常」になります。
かぐや姫では、竹取翁がかぐや姫を見つけて育てる時間は、老夫婦にとって非日常な時間です。かぐや姫が月へ帰ることで非日常はおわります。
鶴女房では、鶴が嫁としてやってきた時間が非日常。正体に気付いて去ってしまうことで非日常が終わります。
花咲かじいさんでは、犬が「ここ掘れ」と行って宝物を掘り当てることが非日常の始まりです。いじわるなじいさんに犬が殺されて、非日常は終わります。
ドラえもんでは、ドラえもんがいる間はずっと「非日常」です(ゆえにドラえもんが帰ってしまう回が、妙に寂しく感じられます)。
また、各話ごとに、のび太君が「道具を使って何かをやって、たいていは失敗する」という非日常な時間があります。
映画版ではそのままずばり「旅」に出ることがほとんどです。
このように「非日常」という言葉で言えば、どんな物語にも当てはめることが可能です。
ただし、物語によっては「旅」と呼んでしまった方がわかりやすいというだけです。
「旅」に出ない物語は?
もしも「旅」に出ない物語があるとしたら、それは「日常」でしかありません。日記のようなものです。
ある主婦の日記があったとします。
「今日は夕食はカレーにしようと思うので具材を買いに行った。隣町のスーパーAに行ったら牛肉がセールだったのでよかった。にんじんは家にあったので、じゃがいもと玉葱だけ買って帰った。夫から20時には帰るというラインが来た。子どもの塾があるから、19時には出来上がるように準備した。……」
いかにも日常です。こんなものが物語で面白いでしょうか?
ドラマの冒頭シーンでは、こんな風景もあるかもしれませんが、この後、家族が揃って、食事して、お風呂に入って、おやすみなさい。
また翌日も同じような日常が続く。こんな物語を見ていて飽きないでしょうか?
見ている方は「これから、何か事件が起きるにちがいない」と思って期待して、耐えるかもしれませんが、このまま2時間の映画が終わり、エンドロールが終わったらどうでしょうか?
「日常」だけでは物語にはなりません。
「非日常」の基準は?
では、この主婦の日常に、何が起きたら事件と言えるのでしょうか?
「突然、子どもが誘拐された。」
「夫が浮気してるかもしれない。」
「街に隕石が迫っている。」
こんな事件が起これば、もちろん「非日常」です。
ただし「非日常」の基準は本人でもあります。
「今日、夫の母が家にやってくる。口うるさい姑のことだ、生半可な料理なんか出したら、また「楽をしている」なんて言われるだろう。カレーにしようと思っていたが中止だ。」
これだけのことでも、この主婦にとっては「非日常」です。
読者・観客の興味を惹くかは微妙なところです。丁寧に描かれていれば、家族ものとして共感を得られる可能性もありますし、嫁姑というテーマ自体に興味がもてない人には「何も起きていない物語」に感じられるかもしれません。
小津安二郎の映画は、とてもよく出来た脚本(野田高梧による)ですがを、眠くなるという人もいます。
「非日常」の入口と出口
「旅」の出発と帰還、「非日常」の始まりと終わりを、三幕構成ではプロットポイントと呼びます。
これは厳密にはイコールではないのですが、三幕構成に基づいて書かれている近年の映画では、たいていは一致します。
細かい違いは、分析を重ねていけば見えてきます。
第一回では、まず「物語とは『旅』である。」という感覚を掴んでいただくことを目標にします。今回の読書会では、課題作の『背高泡立草』を例にして、解説していきます。
興味のある方は読書会にご参加いただくか、後日アップする音声解説をお聴きください。
※新型コロナの影響でしばらく読書会が開催できませんでした。
その間の連載記事として、物語分析講座の内容は、三幕構成の作り方 Step1「物語は旅である」(全8回)に引き継ぎました。また読書会の代替としてYoutubeのライブ配信も不定期で開催しています。
緋片イルカ 2020/02/25