分析会で話題に出た内容で、まとめておきたいことを記事にしておきます。
難しい内容ではありませんが、ビートを知ってる前提の話で、初心者向けではないので「中級編」としました。
三幕構成 中級編(まえおき)
三幕構成の中級編と称して、より深い物語論を解説しています。
中級編の記事ではビートを含む用語の定義や、構成の基本、キャラクターに対する基本を理解していることを前提としています。しかし、応用にいたっては基本の定義とは変わることもあります。基本はあくまで「初心者が基本を掴むための説明」であって、応用では例外や、より深い概念を扱うので、初級での言葉の意味とは矛盾することもでてきます。
武道などで「守」「破」「離」という考え方があります。初心者は基本のルールを「守る」こと。基本を体得した中級者はときにルールを「破って」よい。上級者は免許皆伝してルールを「離れて」独自の流派をつくっていく。中級編は三幕構成の「破」にあたります。
以上を、ふまえた上で記事をお読み下さい。(参考記事:「三幕構成」初級・中級・上級について)
超初心者の方は、初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」から、ある程度の知識がある方は三幕構成の作り方シリーズか、ログラインを考えるシリーズからお読みください。
なぜ「バトル」と呼ぶのか?
セーブザキャット、ブレイク・スナイダーのビートシートでは、アクト2に入ってからのビートが「お楽しみ」と「Bストーリー」しかありません。
全体の1/4にあたるアクト2前半を、たった2つのビート、それも1つはサブプロットに関わるものしかないというのは、ビートが何もないと言ってるのに等しいと思います。
これはブレイク・スナイダーのビートシートの弱点です。
僕は分析、執筆を重ねていくうちにアクト2を「バトル」というビートで捉えるようになっていきましたが、これには以下のような意図があります。
「お楽しみ」という言葉は原書ではFun and Games。その作品の一番の「お楽しみ」という意味合いがあります。これは企画、演出的な側面からの捉え方として的確だと思います。ラブストーリーであれば恋愛関係が始まる、ホラー映画でいえば恐怖が始まる、そういった作品の肝が、アクト2にくるからで、逆に言えば、アクト2で描かれていないものはテーマとして伝わりません。この「お楽しみ」の感覚は脚本を書く上では欠かしてはいけません。
一方で、脚本として考えたとき、とくに「キャラクターアーク」、主人公の変化として考えたときには「お楽しみ」だけでは足りません。主人公はアクト2での「旅」の経験を通して、変化していくわけですが、ただ「お楽しみ」しているだけでは変化はしません。具体的なストーリーで考えてみましょう。
交際を始める前の若い男女がいるとします。主人公の男はシャイで告白する勇気がない。それが「旅」を通して、成長し「告白する」という変化を置くとします。
そのとき、どんな「旅」を経れば、彼は勇気を持つでしょうか?
ホラー映画とします。この男女が、山小屋でモンスター達に襲われる。アクト2での「お楽しみ」はもちろん恐怖体験、モンスター達に襲われて、女を守るエピソードが入るでしょう。
この「旅」を通して、勇気をもって、告白ができたというラストには説得力があるように思います。モンスターに襲われて死ぬかもしれないという恐怖に比べれば、告白して振られるかもしれないという恐怖など大したことないと思えたのかもしれませんし、吊橋効果などもあるでしょう。
一見すると、このストーリーでは「お楽しみ」=「恐怖体験」は、「告白する勇気を持つ」目的とは関連がないようですが、恐怖体験が「通過儀礼」としての役割を果たしているので、変化に説得力があるのです。
恐怖や痛みは身体的に、人間に働きかけるため、それによって心理が変化することに違和感がありません。拷問して情報を聞き出すという考えも、身体に痛みを与えて、精神を変化させている例でしょう。
ホラーやアクション映画のようなジャンルでは「お楽しみ」という捉え方だけであっても、アクト2が機能しますが、より日常的なストーリーでは「心の通過儀礼」の描写に繊細さが必要になります。
多くの物語教本にはアクト2のキーワードに「葛藤」という言葉が使われています。これにもビートとしては扱いづらい点があります。
身体的な葛藤とは、いま説明したようにホラーやアクションのようなものですから、精神的な葛藤について考えてみましょう。たとえばミステリーです。
ある殺人事件の謎を、探偵が解くストーリーだとします。
PP1で捜査を開始して、現場検証や聞き込みをして、事件を追っていきます。
それらのエピソードでは、探偵の頭の中で「ああでもない、こうでもない」と推理が働いていますから、精神的な葛藤をしていると言えます。その末に「犯人がわかった」という変化をする。プロット上では、何も問題のなさそうな展開です。
重要なのは推理の内容です。
当たり前ですが、書き手は探偵がどういう思考を経て「犯人特定」にいたったかを説明する必要があります。「そんな気がするんだ!」や「説明はしないが、そうなんだ!」では、観客が納得しません。三段論法のように、アクト2でのエピソードが論理的に積み重なっていく必要があるのです。積木のようなイメージで捉えるのも良いでしょう。
この積み重ねがなく「犯人特定」にいたる訳にはいきません。
ここまでを要約します。
まず、アクト2に対して「お楽しみ」という捉え方は企画、演出、ジャンル、テーマといった観点から忘れてはいけません。
「葛藤」という観点も、大切ですが「積み重ね」のない葛藤では説得力が出ません。
ということです。
当然ですがミステリーにとって捜査して謎を解明していくのがメインプロットですが、サブプロットとして探偵がファムファタルと恋に落ちるような展開があったとします。
メインとサブの比重を考えてみてください。
探偵が捜査をせずにデートばかりしているシーンが多かったら、観客は「これってミステリーじゃなくて、ラブストーリー?」と勘違いしてしまいます。これが「積み重ね」のない葛藤です。
ちなみに、あえてバランスを半々にしてミックスプロットにするという構成法はありますが、ここでは別問題です。作者が意図的にミックスに挑んでいるならともかく、未熟なライターはミステリーを書いているつもりで、ラブストーリーを書いてしまうようなミスを、無意識に犯しがちということに注意が必要です。
「お楽しみ」「葛藤」という観点は、間違いではありませんが、ビートとするには不足があると僕は感じます。
その代案として僕が採用しているのが「バトル」です。
「バトル」という言葉にはアクション的な「戦い」がイメージされがちで、ラブストーリーやミステリーのようなものに、当てはめづらい人もいるかと思います。そういう人には、たくさんの物語を見て「恋の駆け引き」だってバトルなのだと、抽象度を高めて捉えられるようになってもらうしかありません。野性動物での恋はまさに命がけです。
なお、ビートや分析などは公式なルールではないので、自分の良いように呼んで、自由に使ってもらえば構わないと思いますが「チームで脚本の仕事をする」といった時には定義や感覚に共通意識がないとワークしなくなるので、きちんと理解してもらうようにしています(このサイトで説明しているビートは、あくまで、僕と、僕が一緒にやるチームでのルールです)。
話を戻します。
「バトル」には「外面的な戦い」イメージされがちです。
小説はともかく映画では、精神的な葛藤をモノローグで語らせたりすると低俗になるので、映像的に見せる必要があります。
あえて「外面的な戦い」をイメージさせることで、その役割を果たしやすくることが「バトル」と呼ぶ狙いの一つ目です。
二つ目の狙いは「バトル」には勝敗がつきものということです。
「葛藤」には「終わり」がつきものでないため、この観点だけで物語を描くと、ダラダラと、いつまで悩んでいるシーンを続けてしまう危険性があります。要はテンポが悪くなりがちなのです。
シークエンスを「バトル」というビートで捉えることで、メリハリがつきます。
「三角関係」のようなラブストーリーで、最初の「バトル」では「主人公が恋の相手とうまくいく」という勝利で、次のシークエンスでは「ライバルがうまくいく」といったメリハリです。
これが「積み重ね」にもつながります。
シークエンスごとに「第1回戦」「第2回戦」という捉え方をするのも有効です。
ブレイク・スナイダーのビートシートではアクト2にたった2つのビートしかないと書きましたが「バトル」は何個あっても構いません。
「お楽しみ」のような漠然とした一つではなく、シークエンスの積み重ねが「バトル」です。
トーナメントを勝ち上がっていくように、ミッドポイントに向かって「勝利」を積み重ねていくのです。(ミッドポイントはFalse victory)
さきのミステリーでいえば、一つずつ犯人特定の「証拠」を積み重ねていくようなものです。
なお、作品によってバトルの数はまちまちなので、何個が相応しいとは一概に言えません。これについては分析や執筆をくり返して感覚を磨くしかありません。
トーナメントの捉え方には、3つめの狙いが込められています。
スポーツでいえば、1回戦よりも2回戦、2回戦よりも3回戦と、相手が強くなっていくのは当然です。
ストーリーにもこの感覚を導入するべきなのです。
ホラー映画でいえば、最初のエピソードが一番怖くて、次がしょぼかったら、観客は白けますし、主人公達の恐怖感も同じです。
「通過儀礼」や「恐怖」「痛み」といった観点からも、どんどんと主人公を追い詰めていき、限界に達したときに人間は変わらざるを得ないのです。
キャラクターアークをしっかり描くためにも「バトル」という感覚は有効です。
このように、「バトル」という呼び方には、いくつかの狙いが込められており、単に「お楽しみ」「葛藤」と呼ぶよりも、効果的だと考え採用しているのです。
要約:「バトル」の意義
・外面的なイメージをさせるため、映像的になる
・勝敗をイメージさせるため、シークエンスに区切れる
・積み重ねをイメージさせるため、キャラクターアークを描ける
緋片イルカ 2022.10.31