なかなか書き上げられない人へ(文章#39)

物語の面白いアイデアは浮かんだ、おおよその構成もできている。だけど、なかなか書き上げられないという人は多いのではないでしょうか。

ショートショート(10枚ぐらい)であれば、思い付きと、気分がのったタイミングで書き上げられるかもしれませんが、小説では短編でも50枚、長いものでは200枚や300枚と書かなくてはいけません。一日で書き上げられる量ではありません。

現在、僕が一緒に活動している「同時代作家の会」(同作会)の仲間とは、一週間に一回、進捗報告をするようにしています。

報告することで「やらなくては!」という意識を高めたり、さぼってしまっても進捗ゼロの報告をすることで「来週はがんばろう!」という切替にするのが目的です。だけどゼロがつづくと報告が苦しくなってきたりするのも事実です(強制ではないので、報告がなくても特に請求したりはしません)。

そんな活動をしながら、気づいたこと、「これはいいかも」と思っている目標の立て方などを、紹介しつつ、自分の覚え書きとしたいと思います。

〆切と文量を決める

作品の完成を目指すとき、なによりも大切なのは「〆切」を決めることだと思います。

ときどき、ご年配で「いま、長編歴史小説を書いている」などと言いながら、数十年とりかかっている方などいらっしゃいますが、趣味であれば自由ですか、ことに「完成させる」という意味では、なかなか上手くいかないのではないかと思います。

「いつ完成する予定なのか?」という質問に答えられないのは「〆切」を決めていないといえます。

「10年後に完成する」という答えでも構いません。

10年後に、たとえば500枚の長編を完成する予定であれば、5年後には250枚は書けていないといけません。1年後には50枚、1ヶ月で4.5枚、1週間に1枚は書いていなければ、その予定は遅れているという単純計算ができます。

1年で10枚しか書けていないのであれば、逆算して「完成には50年かかりますね?」と考えることもできます。

「〆切」を決めずに執筆をするのは、工期が不明の怪しい公共事業のように、言い訳ばかりで完成は見込めないといえるのです。

〆切と同時に、決めなくてはいけないのが「文量」です。上の例では、500枚の長編としました。

文量は「完成した作品をどうするか?」という問いにつながりますが、新人としてコンクールに応募するのであれば、応募要項に従わなくてはいけないので、最大でも500枚ぐらいでしょう。

出版社に持ち込むとか、小説投稿サイトで連載するとか、自費出版するというのであれば、規程はないかもしれません。

とはいえ、短編と長編ではストーリーの形式も変わるので、物語の内容とも合わせて、決めておく必要はあるでしょう。

脚本であれば、より限定的です。

脚本は映像化するためのものであって、それ自体が完成型ではありませんので、テレビや映画であれば放送枠の時間に合わせる必要があるし、自主映画でも予算や上映スタイルに合わせる必要が出てきます。

「〆切」と「文量」が同時に決まる便利な方法がコンクール応募だと思います。

〆切と文量、どちらから選んでも構いませんが、存在するたコンクールから選ぶしかないので、必然的に両者が決まります。

同作会でも、コンクール応募を目標にして進捗報告をしています。間に合わなかったとしても、書いたものはなくならないので、次の、別のコンクールに合わせて、再設定していけばいいだけです。むしろ、〆切をつくるためにコンクールを利用するぐらいのつもりでいいのです。

月ごと管理、週ごと管理

いったん「〆切」と「文量」が決まれば、今日から〆切までの日数で、日々、どれくらいのペースを目安にすればいいかが単純計算できます。

上でも示しましたが、以下の記事で詳しく説明していますので、そのあたりは割愛します。

執筆プランの立て方

執筆プランと管理表(週ごと管理)

この記事では、毎日の目標設定について考えていきたいと思います。

目標の立て方のうまい人は成功する

余談ですが、むかし、いろいろとお世話になった方が「目標の立て方というのはとても大事だ」とおっしゃっていました。

一字一句は忘れましたが「高すぎる目標は届かなくて嫌になるし、低すぎる目標は簡単すぎて飽きてくる、勉強でもスポーツでも、成長する人は、ほどほどに刺激的な目標を立てるのがうまい」という内容でした。

これは、しみじみと、「本当、そうだな……」と感じます。

「刺激的な目標を立てるのがうまい」ということは「自分のモチベーションをコントロールするのがうまい」ということだと思います。

僕は学生時代のテストも一夜漬タイプでしたし、これが、苦手だなと思います。

よく、計算したり目標設定をしたりするので、細かい人間だと思われるときがありますが、苦手ゆえに、心がけているのです。

「血液型A型でしょ?」と言われたりしますが、O型なのです。根は面倒くさがりで、目標を立てて律しないとすぐにさぼります。

閑話休題。執筆プランにおける、刺激的な目標の立て方というのを考えてみたいと思います。

刺激的な目標を見つける

最近、舞台脚本を書きました。依頼で書いているので、相手方の公演の都合で「〆切」「文量」は必然的に決まります。

先に書いたとおり、〆切から計算して、いつまでに書き上げなくてはいけないかが決まり、そのためには「1日、何枚書かなくてはいけないか?」も計算できます。

しかし、単純計算は「刺激的な目標」ではありません。

機械的に「あと何枚」「そのためには1日○○枚」と冷たく計算を弾き出してくるだけです(ちなみに僕はエクセルの自動計算を使っています)。

「刺激的な目標」にするには、自分の「意志」や「感情」が伴わなくていけないのだと思います。

そういうことに気づいた過程を、体験談をまじえて、ご紹介します。

まず、一日ごとの目標を3段階に設定しました。大雑把な定義は以下です。

S(大満足):ここまでいけば嬉しい目標
A(最低限):実現可能な範囲で努力目標
B(妥協案):Aが厳しいときの妥協案

この目標設定を始めた初日は以下の内容でした。

●初日
S:舞台脚本完成
A:舞台25頁まで
B:映画一本見る

この時点で脚本の進捗は8頁でした。過去には一晩の勢いで書き上げた経験があったので「やればいけるだろう」という甘い見込みや、「そうしたい」といった願望がS目標になっています。

結局、進捗は13頁でした。B目標にも届きませんでしたが、息抜きもかねて、映画一本は見ました。

初日で感じたことは「願望と目標を履き違えてはいけない」「過去の体験を基準にするな」でした。

●二日目
S:舞台25頁まで
A:舞台15頁まで
B:読書

初日のA目標だった「25頁」を達成できなかったのでS目標にスライドして上げました。

この日は月曜で仕事もあったので、最低限として2頁ぐらいは進めようという意図がA目標の「15頁まで」です。

それすら難しいときのB目標として、「読書」や「映画」で、だらだらネットなどしないようにしようという考えです。

結果的にはAとBを達成。15頁まで書いて、本を読みました。

●三日目
S:舞台19頁
A:舞台17頁
B:読書

同じ1日2枚のリズムで目標設定して、結果は18頁まで。Sには届かず。

●四日目
S:舞台23頁
A:舞台20頁
B:読書

で、この日は19頁までで、Aにも届きませんでした。

その後、A目標として前日の2~3枚のペースを、達成したりしなかったりで続けていきました。

着実に進んではいますが、このペースでは、単純計算として〆切に間に合わないのはわかっています。

●七日目
S:舞台200分書く
A:舞台150分書く
B:柔軟をする

ここで頁数ではなく、時間の目標に変更しました。

「頁数で目標を立てる」のと「作業時間で立てる」ので、どっちがいいのかは、たぶんケースバイケースです。

調子がいいときは頁数で立てると勢いがつきますが、詰まったりするとパソコンに向かってはいる時間は長いのに頁が進まないということがあります。執筆したことある人なら、共感してもらえるかと思います。

そういうときは、あえて「時間目標」にして、進まなくてもいいから、その時間だけは向かうように僕はしています。

目標時間だけ向かったのなら、とりあえず自分のなかで「頑張った感」はできるし、「向かったけど進まなかったんだからしょうがない……」とも思えます。

そして、向かってみると、案外進んでしまうこともありますね。

実際、七日目は26頁まで進み、「時間目標」にしたことで4頁進みました。

初日に立てたA目標「25頁まで」を達成するのに、実際は七日かかったのです。

ここで、初日の見込みがいかに甘かったかという反省と「1~2枚でも書きつづければ進む」という当たり前のことも感じました。

また、B目標として「息抜き」のような項目を入れていたのも、内容によっては、時間をとられてしまう(たとえば映画を見ると2時間つかってしまう)ので、むしろA目標をサポートするような内容のがいいのではないかと考えるようになりました。「柔軟」としたのは、体をほぐすと頭も働くという個人的な経験則からです。

S、A、Bの各目標に関連性を持たせて「ズレた目標は立てない」というのも大事なのかもしれないと思いました。

とはいえ、いい映画を見た後などは、それ自体に刺激を受けて、書く方もはかどるということもあるので、単純な時間の問題ではないし、友人と電話したりといった一見関係ないことが刺激になることもあります。

こういうところが、機械的には割り切れない「刺激的な目標」の立て方のコツでもあり、難しいところでもあると思ってます。日々模索です。

各目標の成功率

各日の目標を達成したかどうかの記録から「目標の成功率」が計算できます。七日の時点で以下でした。

S目標:0%
A目標:50%
B目標:100%

全部が100%になるようでは「低すぎる目標」で、あまり刺激的になってないのだと思います。

僕の結果では「S目標=0%」でしたが、これも目標としては、ほとんど役に立っていない気もしました。

ただし、達成率0%の目標でも「今日中に終わらせる! 明日はあれをやろう!」などというポジティブな感情でヤル気が引き出せるなら、0%でも立てておく価値がありそうだとも思います。「願望目標」とか「奇跡目標」とでも呼んでおこうかと思いますが、執筆でいえば、ふと、調子がよくて、めちゃくちゃ進んでしまうということはあるのです。これも、執筆したことある人なら共感してもらえると思いますが。

そんなことも踏まえて、現在は、4段階にして続けています。

S目標(大満足):無理そうだけど、もしも達成できたら嬉しい目標(数ヶ月に一回でもいい)
A目標(中満足):頑張ったらできる目標(B目標の1.3倍とか)
B目標(最低限):実現可能で、意味のある目標
C目標(補助案):B目標を助ける行動や息抜き。ただし、手軽にできること。

感覚的でしかありませんが、成功率は以下ぐらいの数字になるのが、いい目標ではないかなと思っています。

S:1%(達成できなくていいけど、できたら嬉しい!)
A:30%(3日に一回ぐらいは頑張ろう)
B:80%(疲れとか不意な予定でできなくても、だいたい達成している)
C:95%(基本的には手軽で達成できること)

1%なんて目標としては無意味に見えるかもしれないけど、0%でないことに意味があると思います。ゲームのガチャなんかでも「もしかしたら」という期待があるから、ワクワクできるのかなと思います(レアが0%だと引く気がおきない)。

あとは、マンネリ化しないコツとして「前日と同じ目標は不可」というルールもわりと良いと感じています。

そして、なによりも、こういうデータをとることで、あいまいだったら目標設定が、数値化されて、客観的に評価ができることです。

この作業をつづけること自体が、「刺激的な目標」を立てる練習になっていると感じています。

ちなみに、舞台脚本を書き上がった15日間の僕のデータでは、

S:0%
A:13%
B:56%
C:94%

となっていました。Sの0%はともかく、AとBの達成率が低めということは、性格に「自分に課している目標設定が厳しいのだな」と感じます。

みなさんもやってみてくださいと言っても、面倒くさいし、誰もやらないと思いますが、なんらかのヒントになれば幸いです。今後も、発見があったら記事にしようと思います。

また「こういうのもいい」というアイデアとか、みなさんが実践されてることあったら、ぜひコメント欄で教えてください。

緋片イルカ 2021/09/27

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