映画『ロボコップ(2014年)』(三幕構成分析46):リメイクならではの構成失敗

※この記事は結末までのネタバレ含みます。

ロボコップ (字幕版)

スリーポインツ

PP1:ロボコップになる(27分23%)
MP:発表の場で犯罪者をつかまえる(63分54%)
PP2:強制シャットダウンされる(86分74%)

感想・構成解説

先日、初代のロボコップを見たときに、リメイク版があると知りました。(映画『ロボコップ』(三幕構成分析#44):スーパーヒーロープロットの古典

初代から27年も後のリメイクなので、世界観や演出は当然グレードアップしていますが、成功している映画とはいえません。

要因はいくつも感じましたが、初代との比較で構成の観点からの指摘だけしておこうと思います。また、『シャザム』の記事でも書いたように「ストーリータイプ」と「プロットタイプ」の違いを考える一例にもなります。(映画『シャザム!』(三幕構成分析#43・音声):シリーズ前提の締まりのない構成

ロボコップは、その名の通り「警察官がロボになって悪と戦う」というヒーローが登場するストーリーです。

ロボという言葉に古くささを感じますが、それはさておき、

スーパーマンのような初めから超人的な能力を持っているのではなく、多くのアメコミ系と同様、「普通の人間だった主人公が、あるきっかけで能力を手に入れる」という展開です。

「死んだ警察官がロボになる」という展開はアイアンマンとやや似ています。

このタイプでは、アクト1ではスーパーヒーローになる日常が描かれ、カタリストで「死」や「蜘蛛に噛まれる」といった能力を手に入れるためのきっかけがあり、PP1以降、ヒーローとして活躍していく構成が必然的にきまります。

ここまでの構成は、今作と初代のロボコップとほとんど同じです。

表面的にはだいぶ違って見える方もいると思いますが、展開上、構成上は同じです。建築で喩えるなら、家の装飾や設備などは時代に合わせて進化していますが、家の工法は変わっていないというかんじです。表面をひっぺがせば同じということです。

しかし、アクト2に入ってからの流れがかなり違いが見られます。

初代では、時代的な強引な展開があるものの、次々と犯罪者を倒して、スーパーヒーロープロットの型どおりMPでのヒーローとして賞賛される展開に向かっていきます。

アクト2の入りは「ファン&ゲーム」と言われて、その映画の1つのウリになるポイントでもあり、スーパーヒーローの活躍としては妥当なシーンでもあります。

活躍の頂点として、マスコミやメディアにとりあげられて、評価されるといったシーンもよく使われます。

今作でも似たようなテレビシーンが入りますし、そこがMPになっていますが、ストーリー上の意味が大きく違います。

今作のアクト2では「ロボコップ発表前の実験」ばかりしています。「ファン&ゲーム」が実験なのです。

ロボット警察官に問題はないのかといった準備が進められ(ビートでいう「バトル」)、MPがメディアへの発表です。

この構成では「スーパーヒーロープロット」ではなく「ミッションプロット」です。(ミッションプロットについては映画『オーシャンズ 8』: ミッションプロットの条件(三幕構成分析#36・音声)

さらに問題なのは、では誰のミッションなのか?

このプロジェクトを進める人間が主人公でなければミッションプロットは成立しません。

過去にとりあげたオーシャンズシリーズでいえば強盗たちです。

ところが、今作のロボコップでは、そのミッションを進めているのが敵役であるオムニコープ社の社長達です。共感もできません。

ロボコップが、ロボになると記憶を失っていくという設定は、この作品では削れないテーマです。

主人公が記憶を失っていくという展開は扱うにはむずかしいと思いますが、ロボコップ自体が主人公として立てないのであれば、代わりの観客が見る上での主観、主軸が必要です。

登場しているキャラでいえば、妻(と息子)か、科学者(ゲイリー・オールドマン)でしょう。

この辺りのキャラクターを、共感できるようなキャラまで上げて、その視点からロボコップの悲劇性などを感じられるように描くべきでした。

ちなみに、今作ではMP以降になってようやく「犯罪者を倒していく展開」が始まりますが、遅すぎます。これはアクト2の始めにもってきて、確実に押さえておくべきところでしたが失敗しています。

アクト2後半では、自分を殺した犯罪者グループと対決します。

これは初代と同じ展開ですが、27年後のリメイクとしては遅すぎます。

演出や衣裳としてのロボコップのスーツなどが進化しているし、映画冒頭でロボットが登場しているのに、ここまできて敵が銃をもった悪党どもでは、弱すぎます。

初代の、中世の鎧のような貧弱なスーツであれば、ちょうどよかった敵です。

負ける気がしませんし、緊張感がありません。アクションとしての演出自体は悪くなくても、観客の感情がのりません。

演出や衣裳を進化させたように、脚本も時代的に進化させる必要があります。ここでは主にスピードです。

人間の悪党グループを倒すのは、30分ぐらい早めて、MPに持ってきてしまっていいし、もっと言えばファン&ゲームとして、アクト2入ってすぐに解決させてしまっても良いぐらいです。

脚本家の立場からしたら「そんな早く解決してしまったら、その先どうなるんだ?」と思ってしまうでしょう。それを考えることこそ、作家の仕事です。

「この先、どうなるだ?」と思うのは観客も同じです。とくに初代のファンであれば、過去作品の展開が30分ほどで片づいたら、このあとは何が始まるんだろうとワクワクします。

ファンだって懐古的にリメイク作品を見ているだけではないのです。新しい「何か」を見たいのです。

その一方で、初代作品のラストーシーンの台詞は「名セリフ」のひとつだと思いますが、それが出てこないというのも、押さえるべきところを押さえていないと言えます。

今作の構成について、まとめると、

中途半端に初代の展開をなぞっているものの「押さえるべきところを押さえていないくせに、崩してはいけないところを崩してしまっている」と言えます。

構成の崩れにより、本来「スーパーヒーロープロット」にするべきところが「ミッションプロット」に近づいてしまっているのです。

「ストーリータイプ」と「プロットタイプ」のちがいについてシャザムの記事で説明したとおり、

今作のロボコップは、ストーリータイプとしては「スーパーヒーローもの」ですが、構成としては「スーパーヒーロープロット」になっていないのです。

こういう失敗構成は、なかなか見られないので記事にしておきました。リメイク作品ならではのミスなのかもしれません。

緋片イルカ 2021/11/16

リメイクするならこれぐらいやって欲しいものです。
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というのは冗談ですが、素敵な映画です。ロボコップも登場します。
予告編はここで見れます
https://eiga.com/movie/53544/video/

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