映画『オーシャンズ 8』: ミッションプロットの条件(三幕構成分析#36・音声)

スリーポインツ

オーシャンズ 8(字幕版)

プロットアーク
PP1:作戦を説明(31分28%)
MP:鏡の前で化粧(65分59%)
PP2:パーティー終了(82分75%)

mp3(48分45秒)

youtube版

今回のテーマ

・ブレイク・スナイダーの「金の羊毛」と「ミッションプロット」について
・「ミッションプロット」の構成
・『オーシャンズ11』との比較

ストーリータイプ「金の羊毛」とミッションプロットについて

今回はブレイク・スナイダーの10のストーリータイプに関連してて、この作品を課題作としました。

ブレイク・スナイダーの本の中では『オーシャンズ11 (字幕版)』(以降『11』)が「2:金の羊毛 Golden Fleece」、細かい分類では「2-4:強盗羊毛Caper Fleece」というタイプに挙げられていてビートの解説もされています。シリーズものである『オーシャンズ8』(以降『8』)も、当然、同じタイプに該当します。

「金の羊毛」というタイプの要点は「道」「チーム」「報償」(原書ではRewardではなくprizeです)となっています。

このうち「道」や「報償」は比喩的に喩えるならば、物語の原型ともいえる「ヒーローズジャーニー」に該当するため、あまりタイプとしての特徴となりません(それについてはラジオ「ほっこりトーク」で話しております)。

それゆえ、ブレイク・スナイダーがこのタイプの特徴として重視しているのは「チーム」と言えそうです。オーシャンズシリーズにおけるチームは、もちろん強盗をするチームです。

しかし、本の中で同じタイプの例として挙げられている作品は「強盗」という「題材」によって、このタイプに入っているものが多く、ブレイク・スナイダーの分類は、プロットタイプによる分類ではなく、ストーリータイプの分類となります。

たとえば『ユージュアル・サスペクツ (字幕版)』などは、強盗を「題材」にした映画ですが、「構成」はミステリーです。このように10のストーリータイプの分類は、表面的な題材による分類と、構成によるパターンによる分類が、ごちゃまぜになっています。(参考:ストーリータイプとプロットタイプの違い

構成の分析および、その分析を創作に応用するために重要になってくるのは「プロットタイプ」の方です。

僕の分類では『8』『11』は「ミッションプロット」というタイプに該当します。同等のタイプに属するのは『インセプション』などがあります。

具体的にどういう構成になるのか、分析をみていきましょう。

「ミッションプロット」の構成

「ミッションプロット」では、その名前のとおり「ミッション」がストーリーの中心となります。『8』でいえば女チームによる強盗です。

構成上は「プロットポイント1」からその準備開始、「ミッドポイント」で準備完了、アクト2後半から「ミッション」が実行に移されます。

見ていただいた方には一目瞭然ですが『8』でも、全くその通りの構成になっております。

「カタリスト」で主人公のサンドラ・ブロックとケイト・ブランシェットが計画実行を決定し、仲間を集めていき(「ディベート」)、全員集まったところで「作戦を説明」します。ちなみに『8』では(「デス」)は機能していません。ミッションプロットでは『デス』はあまり重要ではありません。

アクト2では「準備完了すること」が主人公のwantでもあり、準備が完了したところがMPになるのはセオリー通りです。

「ミッション開始」はビートシートの順番では「フォール」にあたりますが、これも「ミッションプロット」においては変則的です。

ブレイク・スナイダーのビートシートでは、ビートごとで起きるイベントに定義がありますが、このサイトの中級以上の考え方では、ビートの定義が変わることがあります。

ビートシートは初心者向けにとても扱いやすいものですが、その反面、定義に囚われすぎてしまうと物語を固定化してしまう原因にもなります。プロットタイプを捉えるときは、物語を動かしている力学を大事にすることで、創作への応用が可能になります。

後述しますが、この点からみて『8』は『11』に引っ張られすぎてしまっているところが多々あります。つまり、シリーズのパターンに引っ張られて、オリジナリティが発揮できていないのです。

構成の説明に戻ります。

MP以降、「ミッション」シーンが続きます。何より、これこそが「ミッションプロット」の特徴です。

通常の構成であれば、クライマックスとなる「ビッグバトル」に、映画の半分の時間を割いていると捉えると、とても掴みやすい構成です。

しかし、『8』では「プロットポイント2」のパーティー終了をもって、「ミッション」は完了してしいます。ここに『8』と『11』の構成上の違いが明確になります。

アクト3では、とつぜん表れる探偵役の新キャラが現れるものの、追及もあまく、尻つぼみしたまま、映画は終了しています。

『オーシャンズ11』との比較

構成についての比較は表をご参照ください(※転載したければどうぞ)。

『11』との比較から浮かび上がってくる具体的なことは音声で解説していますが、以下ではポイントを挙げておきます。

「女性版としての魅力→ファッション性」
アン・ハサウェイが、特典映像で言っているように『プラダを着た悪魔』とオーシャンシリーズのミックスだという企画性。これは『8』の魅力だと思います。ファッションイベントでカルティエのダイヤを盗むというミッションはもちろん、衣裳への拘りもつよく、役者陣はほとんどのシーンでちがう衣裳を着ています。企画書としてはめちゃくちゃ強いと思います。

「ミックスプロットとしての構成不足」
『11』は完璧なミッションプロットになっていますが、『8』はミッションプロットをなぞりつつも、ミッションとしては弱く、もう一つの魅力であるファッション性を提示し切れていないように思います。『11』ではミッションそのものが困難で、カジノの支配人(アンディガルシア)というアンタゴニストが登場していますが、『8』では「ミッションとしての緊張感」や「動機に対する共感」が不足しています。ファンション性とのミックスプロットであるなら、構成が変わることは構わないのですが、サブプロットもなく、PP2までの構成をミッションプロットをなぞりすぎているため、劣化版のように見えてしまいます。違いが顕著であるアクト3も、突然の新キャラ(おそらく今後のシリーズ化を意識したキャラクター)からのミステリーでは、やはりオリジナリティを提示できているとはいえません。アクト3でまるきり別の魅力的な「ビッグバトル」が提示できていれば、まったく別作品としての魅力になっていたと思います。

「キャラクターの設定不足」
『8』のキャラクター達の「ミッション」への動機が不足しています。特典映像のなかで脚本家のオリヴィア・ミルチは「映画ではよく女性に動機を強いるの。暗い秘密に動かされて何かを追及するとか重荷を背負うことを期待される。8人の仲間で強盗をやり遂げることや、その楽しさを描きたかった。どんな気分かをね。」(字幕より)と答えています。隣に座っている監督・脚本のゲイリー・ロスがつづけます。「なぜ盗んだか? 1億5千万ドルの価値だからだ」と。これらの発言内容を否定するつもりは全くありませんが、物語の力学として、主人公の動機が不足していては観客の共感を得られません。『11』ではラスベガスのカジノという一般人が犯罪の香りを相手役にしつつ、さらに支配人はさいごにははっきりと殺しも厭わない裏の顔を見せます。その相手から盗むことは、勧善懲悪の共感を得やすいものですが、『8』で盗んでいるものは「カルティエ」という一企業のダイヤで、敵役に犯罪者はいないため、主人公側が一方的に盗みという犯罪行為をしていることになります。これを「強盗の楽しさ」で片付けてしまうのは、観客の感情への配慮が欠けています。ちなみに映画に限らず物語が「暗い秘密」や「重荷を背負うこと」を期待するのは女性に限ったことではなく、主人公に共通する要素です。作家のテーマや思想と、脚本技術を履き違えているような発言だと感じます。また、キャラクターの動機を明るいものにするのであれば、それなりのセットアップが必要ですが、提示されていないため、実際には『11』をなぞるかのような、元恋人への復讐という要素が動機のように見えています。(物語は、作者が込めた思いやインタビューでの発言ではなく、構成して描写したように伝わるものです)。

「セリフの魅力不足」
『11』では随所にわたってエッジの聴いたセリフが使われています。何をもって良いセリフとするかは、センスや好みによるところも大きいですが、『8』では、そういった言い回しの量自体が少ないことは明確です。上にあげた構成、設定とともに、総じて
脚本としての拙さの目立つ作品だと思います。ちなみに監督のゲイリー・ロスはベテランですが、オリヴィア・ミルチはIMDBによると、この作品が初脚本のようでした。深掘りはしませんが、ウィキペディアによると『11』の主要キャストであるマット・デイモンの登場シーンを撮影までしておきながら,作品ではすべてカットされたりしているようです。、me too運動に関連する理由のようです。撮影後の、ストーリー変更は、いろいろなところに無理がでることは間違いないので、お察ししておきます。

「ショット・編集の技術差」
『8』も『11』も冒頭のシーンが同じです。仮出所するための面接をうけているところから始まるのです。二作品の冒頭シーンを比べただけで、ショットの魅力やテンポの差が明確です。リモート分析会のウォッチパーティーでは、そのあたりもいくつか検証しましたが、脚本から話が逸れるので、ここでは割愛します。ショットの技術が拙さが露骨に見えるシーンとしてラストシーンを挙げておきます。サンドラ・ブロックの歩き方(動線)や、イスの位置、ショットのつなぎなど、効果的とはいえないし違和感が目立ちます。監督、撮影監督、編集、誰の仕事に原因があるかはわかりませんが、素人目でも違和感があるレベルだと思います。

感想とまとめ

『8』はオーシャンズシリーズとして期待して見ると、かなりがっかりしてしまう作品だと思います。コメディやサスペンスとしての上質さに欠けるためです。しかし、ファンション性などに注目して力を抜いて見れば楽しめる人はいると思います。おそらく『オーシャンズ9』『オーシャンズ10』と三部作にして、数字が『11』につながるようにするのでしょうが、『8』から続きを見たいとはなかなか思えません。

三幕構成の勉強という観点からは『11』と『8』を見比べてみることで、脚本の技術や「ミッションプロット」のセオリーが明確になる、良い比較対象だと思います。

『11』はずいぶん前に見たきり、内容もすっかり忘れていましたが、面白かった印象だけははっきりと残っていました。今回『8』の記事を書くために、冒頭だけ流したところ引き込まれてしまって、結局、最後まで見てしまいました。前に見たときは、僕が脚本の勉強をしていなかった頃だったので、改めて見て、完成度の高さに驚きました。単純にジョージー・クルーニーとブラット・ピットがかっこいいなと思うだけでなく、周りのキャラクターもとても魅力的でした。『8』では「アン・ハサウェイは美人だな~」(『11』の男二人のかっこいいと同じ感覚で女性軽視とかではありませんよ?)とは思いました。ただキャラクターとして魅力があったかは疑問です。言うまでもありませんが、脚本が悪いと役者の魅力を半減させるし、その逆もまた然りです。

緋片イルカ 2021/06/18

この映画は「リモート分析会」でとりあげた作品です。
今後もAmazon Primeの見放題作品から選んでいきますので、分析にご興味ある方はAmazon Primeの申込をおすすめしておきます。

次回のリモート分析会は8月を予定しています。Amazon Primeの見放題が終了しないよう、開催の一ヶ月前になってから告知いたします。

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