脚本作法12:記号の使い方

ライターズルームで「初心者禁止事項」に入っている項目の意義について解説します。

「!」

びっくりマーク、エクスクラメーションマークは強調を表す記号です。

役者さんは、この記号がついているセリフを「大きな声」「強い調子」で読むでしょう。

脚本家が考えるべくは「そのように演じてもらいたいのか?」ということ。

例文でみてみます。

例文1:
探偵、男を指差して、
探偵「犯人はあなただ!」
男「お、おれはやってない! ほんとだ信じてくれ!」

例文2:
探偵、男を指差して、
探偵「犯人はあなただ」
男「おれはやってない。ほんとだ、信じてくれ」

例文1はアニメ的です。

脚本家としては、いかにもクライマックスを派手に見せた気になるでしょう。

『名探偵コナン』の「お決まりシーン」ではこのような演出がなされるでしょう。

どうせ派手に演出されるので、脚本上は「!」などなくても良いとも言えますが、コナンであればつけておいた方が声優さんの熱が入るので良いでしょう。

では、実写のドラマではどうでしょう?

役者=リアルな人間が、アニメ的動きをすることが許容される作品かどうか?

実際はアニメ的動きの80パーセントぐらいは、リアルな人間がやると違和感が出ます(「不気味の谷」のように、何か名づけても良いが)。

わかりやすいのがマンガキャラクターの髪型です。リアルでは再現すればするほど違和感がでることがあります。

マンガ原作の邦画作品と、アメコミ原作のハリウッド作品の演出を較べてみるのも良いでしょう。

邦画はマンガ的な演出に寄せようとして「アニメ版のが良い」と言われてしまいがちです。脚本段階から「アニメ的」に書かれてしまっていることが推察されます。

しかし、ハリウッド映画はおかしなコスチュームのスーパーヒーローたちを現実世界に落とし込むことに成功しています(失敗例もあります笑)。

例文1のようにアニメ的に書くことは、アニメ的な演出に誘導することに繋がります。

「そのように演じてもらいたいのか?」次第です。もちろん、アニメ的な演出を求めるなら、脚本全編にわたってそのような演出を想定した書き方にしなくてはなりません(つまり、部分的にアニメにすると、そのシーンだけが浮く)。

例文2の書き方がベストか?というと微妙です。

このシーンに至るまでの、探偵と男の描写次第です。二人のキャラクターアーク(感情の流れ、性格)によって、これがベストであるのかが決まります。

もう少し実写的な例を示しておきます。

例文2:
探偵、ため息をひとつついて、
探偵「犯人はあなたですね」
男「……」
探偵「犯人はあなたです」
探偵、男を見すえる。
男「おれはやってない」
探偵「……」
男「本当だ。信じてくれ」
探偵、グラスを飲み干す

実写のドラマでは、人間らしい感情を見せることが「!」で盛りあげることより大切です。

男の「本当だ。信じてくれ」をどんなトーンで演じるかは演出家や役者さんが、脚本全体から読み取って判断すればよいことです。

「!」をつけることで、叫ばすことを強要する脚本になってしまいます。

映像ドラマはチーム競技のようなもの。仲間を信頼すればよいのです(仲間の実力が怪しいときは、サポートする意味でト書きで補うこともありますが笑)

脚本家は「脚本家の仕事」=脚本に求められているものが何かを考えて、自分の仕事に徹するべきです。

「?」

はてなマーク、クエスチョンマークは文字通り疑問を表す表現です。

役者さんは「語尾を上げる調子」に読むことが多いでしょう。

「!」に較べて演出を邪魔することは少ないといえます。

例文3:
探偵「犯人はあの人じゃない」
助手「どうして」
探偵「アリバイがある」
助手「レストラン」
探偵、頷く。

例文4:
探偵「犯人はあの人じゃない」
助手「どうして?」
探偵「アリバイがある」
助手「レストラン?」
探偵、頷く。

「?」があってもなくて大きな差はないように見えます。例文4の方が、助手のセリフが短調で、推理能力が劣って見えます(会話が説明的とも言えます)。

追記例文:
探偵「犯人はあの人じゃない?」
助手「どうして?」
探偵「アリバイがある」
助手「レストラン?」
探偵、頷く。

探偵のセリフに「?」をつけるだけでも、意味合いが変わります。

軽いノリの探偵になりました。最後の頷くは「うんうん」って言ってそうです。

助手にも考える能力があることを見せるなら会話を早めて、

例文5:
探偵「犯人はあの人じゃない」
助手「アリバイがある」
探偵、頷く。
助手「レストランで聞き込みをしますか?」

また「?」がないと意味合いが変わったり、単純に読みづらい場面もあるので、しっかり書き分けていきましょう。

例文6:
探偵「社長、少々お時間いいでしょうか?」
社長「どうだ」
秘書が手帳をみて、
秘書「20分後に打合せが入っています」
社長「それまでなら」

「どうだ」は秘書に確認したセリフなので「どうだ?」のがよいでしょう。

まあ「?」の有無といより、ト書きの不足が原因ではあるのですが、こういった「読み返せばわかるけど読みづらい」は初心者の脚本でよく見られます。

読み心地も大切にしましょう。

例文7:
探偵「社長、少々お時間いいでしょうか?」
社長、秘書を振り返り
社長「どうだ?」
秘書が手帳をみて、
秘書「20分後に打合せが入っています」
社長「(探偵に)それまでなら」

ト書きにするか、( )で補足するかはケースバイケースや好みですが。

参考:脚本作法7:セリフ内の括弧

「……」

「三点リーダー」と読みます(変換もできます)。

原稿の基本ルールとして「三点リーダー」を2こ並べます。「・・・」は恥ずかしいのでやめましょう。

ちなみに作家は多用するので、変換の単語登録をしておくと便利です。僕のパソコンでは「てん」→「……」で変換されるようになっています。

この記号を使うと「間をとる」「余韻を持たせる」「含みを持たせる」といった演出効果がでます。

セリフの前後に「……」はつけません(「……えっと……」みたいな書き方)。

「……」を使用するときに注意すべきは「頼り過ぎ」です。

脚本では間や余韻をとったように見せても、映像になったときには潰れてしまう可能性があるのです。

たとえば、男女がお互いの好きな気持ちに気づいているけど言い出せないシーンだとして、

例文8:
男「ねえ……」
女「ん?」
男「あの……」
女「うん……」
男「やっぱりいい……」
女「言ってよ……」
男「……うん」

こんな風に、作者が一生懸命、感情を演出した気になっても、実際の演技では、

例文9:
男「ねえ」
女「ん?」
男「あの」
女「うん」
男「やっぱりいい」
女「言ってよ」
男「うん」

になってしまうことがあります。

「……」を多用しすぎると、メリハリがなくなって効果が薄くなっているとも言えます。

一番、キメたいところだけ残して、

例文10:
男「ねえ」
女「ん?」
男「あの」
女「うん」
男「やっぱりいい……」
女「言ってよ」
男「……うん」

などとすると、効果は残りやすいでしょう(やはりト書きを添えた方が良いですが)。

「……」は作者の自己満に陥りやすいので、多用する作者は注意が必要です。

二重記号の禁止

ライターズルームでは記号を重ねることを禁止しています。

「!!」と2つ並べたとして、「!」と較べて演出の強さを分けてくれるかなど、かなり怪しいところ。「!?」も同様。

つまり「!」も「!!」も「!?」も大して変わりません。

作者が「気持ちを伝えた気」になって安心しているだけです。

感情を伝えるなら、何度も言っているようにト書きを添えた方が効果的で的確です。

ト書きでの描写の技術を身につけて欲しいので、ライターズルームでは安易に記号を使うことを禁止しているのです。

例文2再掲:
探偵、ため息をひとつついて、
探偵「犯人はあなたですね」
男「……」
探偵「犯人はあなたです」
探偵、男を見すえる。
男「おれはやってない」
探偵「……」
男「本当だ。信じてくれ」
探偵、グラスを飲み干す

男のセリフを「……」にしましたが、ト書きにすることもできます。

例文11:
探偵、ため息をひとつついて、
探偵「犯人はあなたですね」
男、唇を巻いて押し黙る。
探偵「犯人はあなたです」
探偵、男を見すえる。
男「おれはやってない」
探偵、じっと見つめる。
男「本当だ。信じてくれ」
探偵、グラスを飲み干す

なんでもかんでも、ト書きを添えていけばいいかというと、テンポが悪くなるときもあります。

この「例文11」も読みにくくなった印象があります。

ひとつめの「唇を巻いて押し黙る」は男の描写なので許容範囲ですが、ふたつめの「探偵、じっと見つめる」は「……」で充分伝わります。

説明し過ぎ、「そこは言わなくてもわかるよ!」というときは「……」で済ませればいいのです。

その「伝わるかどうか」の判断力は、読者の気持ちを想像するセンスです。慣れも必要でしょう。

読者へのセンスが未熟だと「……」で伝わった気になったり、「?」がなくて紛らわしい書き方をしてしまうのです。

裏を返せば、常に「読者の気持ちを考える」ことから判断すれば、どう書くべきかは自ずと決まってくるのです。

また、このシーンは犯人と対決する「クライマックスシーンである」という全体からの判断も大切です。

ここまでの脚本で探偵と男のキャラクターが充分に伝わっていれば「……」だけでも伝わるし、そこに「演出に任せる」意図を込められます。

脚本上/ストーリー上のキャラクターの想定はあっても、役者さんが演じる段階で、役者さん個人のパーソナリティがキャラクターに混じります。

キャスティングの問題でもありますが、イメージにぴったりの役者を配役するか、配役に合わせてストーリー上のキャラクターをズラすのか。

完璧主義の作家は前者を好むでしょうが、後者では現場での化学反応が起こって元の脚本よりも面白くなることもあります。

いずれにせよ「キャラクターに合わない演技・演出」はストーリーの魅力を半減させます。

撮影現場を踏まえると、あえて指定しすぎず、幅を持たせることが効果的になる場合もあるのです。

こういった判断は企画ごとに違うので課題や応募作品で考える必要はありませんが、「読者の気持ちを考える」ということでは全く同じです(※脚本の読者はスタッフです)。

緋片イルカ 2023.7.23

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