映画『ベイビー・ドライバー』(三幕構成分析#96)

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スリーポインツ

「2回目の仕事」(21分19%) ※演出上はカタリスト的だがビートとしては機能していない。

カタリスト:「借金完済」(33分30%)

デス:「再び仕事を受ける」(47分42%)

PP1:「郵便局の下見を開始(仕事再開)」(49分46%)

MP:「ボスによる作戦説明」(59分54%)

フォール:「銃取引で仲間が撃つ」(64分59%)

PP2:「(テープがバレて)別のドライバーを探す」(79分72%)

感想・構成解説

映画は総合芸術なので、様々な要素(部門、スタッフ)が関わって出来上がっています。

脚本分析をするときには「演出」「企画」「編集」などの要素を切り離して考える感覚が必要です。

『ベイビー・ドライバー』は完成品としての「映画(作品)」として見れば悪くない作品です。おおむね観客は満足するでしょう。

音楽とともに展開されるアクションはスタイリッシュで「クールだ」と言う人は多いでしょう。

一方で「感動しましたか?」という問いには多くの人は「ノー」と答えるでしょう。

感動というと「切なさ」や「哀しさ」やハッピーエンドでのカタルシスなどで涙を流すような感動を浮かべる人が多いかもしれませんが、それだけに限りません。

「クールすぎて興奮冷め止まない!」というタイプの感動だってあるのでが、この作品はそのレベルには達していません。「感動」は主に脚本の役割だからです。

作品としては悪くないのですが、脚本としてかなりレベルが低いと感じます。

客観的に分析してみると、その原因が見えてきますが、まずは「観客の視点」として「感動したか?」といった感覚や「演出や編集に流されていないか?」といった感覚を持てることが大切です。

以下、構成上の欠点から原因を解説します。

そもそも、この映画には「カーアクション」と「ラブストーリー」の要素が含まれていますが、どっちが比重が大きいかをしっかり掴みましょう。

「カーアクション」です。

どちらが優先されているかは、トップシーンからのシーンの順序や尺の使い方などで明確です。

「ラブストーリー」がサブプロットであることを取り違えないようにしましょう。

この辺りは「企画」のセンスにも関わりますが、もし自分がライターで「ラブストーリー」として見せたいのであれば構成そのものを変えなくてはいけません。

作者がどんなにテーマは「愛だ」「これはラブストーリーだ!」とインタビューで訴えたところで、構成上「カーアクション」になっているのだから「カーアクション」です。

メインが「カーアクション」であると捉えると、ログラインもそのようにとるべきです。

悪い例から示します。

「天才ドライバーが、借金を返済して組織を抜けて日常に戻り、レストランのウェイターと恋をしていくが、再び仕事を強制される。トラブルが続いて仲間達は死んでいく。恋人と逃亡を図るが、最後は警察に投降。出所を終えて恋人と再会する

ログラインをこのように書く人が多くいますが、これでは構造が見えません。

ストーリーの核をつかむのがログラインの役目です。

あえて極端にシンプルな形を目指していきます。

まず「ラブストーリー」はサブプロットなので、ログラインには要りません。

「天才ドライバーが、借金を返済して組織を抜けて日常に戻り、レストランのウェイターと恋をしていくが再び仕事を強制される。トラブルが続いて仲間達は死んでいく。恋人と逃亡を図るが、最後は警察に投降。出所を終えて恋人と再会する

「天才ドライバーが、借金を返済して組織を抜けて日常に戻るが、再び仕事を強制される。トラブルが続いて仲間達は死んでいく。逃亡を図るが、最後は警察に投降する」

ここからログラインと「PP1」との関係を考えます。

「天才ドライバーが」まではアクト1とします。

PP1は「日常生活開始」なのか「再び仕事を開始」なのか?と考えなくてはいけません。

冒頭に示したように僕は「再び仕事を開始」したところをとりました。そもそも「カーアクション」です。「ラブストーリー」ではありません。

PP1~MPにかけて、主人公が何をやっているかもヒントになります。

主人公は「郵便局の下見をさせられて」(準備がこれしかない!)、「作戦の説明を受ける」ミッドポイントになります。

はっきり言って、ミッドポイントとしては盛りあがりに欠けますが、全体的なバランスをとると「ここしかない」と感じます。

PP1以降「準備をしていく」という流れが、不穏になるのがフォール「仲間が銃で撃つ」です。

ここからの逆算でも「作戦説明」がMPと言うしかありません。ちなみに、「ミッションプロット」の型が身についていれば、それとの比較でも掴めます。

ミッドポイントの「盛りあがりに欠ける」=機能していない。脚本が悪い。改善の余地があると捉えます。

ログラインを整理すると、

「借金を返済して日常に戻った天才ドライバーが、再び仕事を強制されるがトラブルが続き、逃亡を図るが、最後は警察に投降する」

これぐらいになります。

表現はもっとスマートにできるとと思いますが、ポイントは「日常に戻っていた」をアクト1とした文章になっているかどうかです。

(※もっと「ストーリーの核」だけに削るなら「天才ドライバーが、嫌々仕事をして、組織を抜けようとする話」ぐらいに絞っても構いません。ここまで削ると、だいぶ作品の印象と変わりますが「抜けたい」という気持ちや「抜けられない束縛感」などが、作品から抜け落ちていることが浮かび上がります)

先にも書きましたが、「日常に戻る」をアクト2の開始として「ラブストーリー」をメインプロットにするのであれば、ログラインも構成も全く変えなくてはいけません(※具体的にどう変えるべきかは、ここまでの分析が理解できている人なら想像つくはずです)。

「ログライン」と「PP1」「MP」が定まりました。

「PP1」から作戦の準備が始まっていますので、それがいったん中止に追い込まれるところが「PP2」と予想できます。

仕事を依頼してきたボスが「他のドライバーを探す」と言っていますから、ここがPP2です。

スリーポインツを掴んだら、時間比を見ていきます。

再掲します。

PP1:「郵便局の下見を開始(仕事再開)」(49分46%)

MP:「ボスによる作戦説明」(59分54%)

PP2:「(テープがバレて)別のドライバーを探す」(79分72%)

PP1が致命的に遅いのがわかります。

PP1が遅いということは、観客に「何の話かわからない」状態が続くことになります(テーマが伝わらない)。

この作品では、演出のテンポで引っ張ってはいますが脚本上は大失敗しているというのが客観的な判断です(裏を返せば、脚本がひどいのに、引っ張れてるのは演出が優れてるとも言えます)。

PP1だけでなくカタリストも致命的に遅いです(実はコチラの遅れのが問題なのですが)

カタリストに「借金完済」(33分30%)を、33分もかかっています。

30分シリーズドラマで想像してみてください。1話目はカーアクションしか見せていないようなものです。

脚本のビートとしては機能していませんが「2回目の仕事」(21分19%)の電話が来る辺りを演出上のカタリストとして、とってあげるとしても、21分はヒッチコックの映画よりも遅いです。

それでも、成立しているのはMVみたいな演出で、そういう映画であるというディレクション (監督)に成功しているからです。

もちろん、この作品の「脚本」は監督と同じ(エドガー・ライト)です。

だからこそ許されているということを、客観的に見抜かなくては脚本分析になりません。

以上、基本の分析として解説しました。

演出や作品としては悪くないのですが、脚本としてかなりレベルが低いといった理由です。

演出の良さは残しつつ、脚本をブラッシュアップすれば「感動」もできる作品にできた可能性があったことは明らかです。

実際のリライトでは「ミックスプロット」にする可能性もありえますので、ここまで単純ではありません。

現状は「カーアクション」と「ラブストーリー」の比が7:3ぐらいだと感じますが、5:5にするのが「ミックスプロット」のイメージです。

この場合は、2本のログラインを作るように、2つのストーリーをしっかりと絡め合うように構成しなくてはいけません。

分析を学習中の人は、まずは1本のメインプロットをしっかりとることが大切です。

1本をとれない人が、2本や群像劇を分析できるはずがありません。まずは基本に忠実に学ばれてください。

ちなみに、構成が慣れてきた方は、より細かいシーンやショットといった描写(脚本でいえば「セリフ」と「ト書き」)レベルでの魅力にも目を向けてください。

「テープレコーダー」を使いながら、曲の話をするシーンはセリフ上はオシャレだと感じましたが回収がほとんどない。

コインランドリーのシーンでもカメラを回すなど、演出に凝っているようで、理屈っぽい演出で脚本との描写としては弱い。

デボラとのラブシーンとして印象的なシーンがあったかどうか?(ラブストーリーというジャンルであれば、それが命です)。

そういった魅力にも欠けているから、クライマックスの二人の逃亡劇にも感情移入できないのです。

執筆では構成だけでなく、こういった「描写力」も当然ながら必要になってきますので。

緋片イルカ 2022.11.24

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