映画『アナと雪の女王』(三幕構成分析#134)

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【ビートシート】

「好き」4 「作品」5 「脚本」3

感想・構成解説

この作品を予告で見たときに絶対面白いという予感があった。パンフレットをもらって設定を読んで、しっかりした「ストーリーエンジン」をもってると感じた。世界的な大ヒット、日本でも社会現象とでもいうような流行り方、キャラクターグッズを含めたその後の人気など、作品として大成功なのは疑いようはない。しかし、脚本としてどう評価するかは、客観的に脚本を分析できるかどうかの試金石になるような作品。エルサの孤独が扇情的に描かれているため、フックされて感情移入されがちで(そこは高く評価されていいが)、それ以外のキャラクター描写、構成などミスだらけで、かなり御粗末。細かい解説はしないが、以下、箇条書きにて示す。脚本を学習する人は、この作品の素晴らしいところとダメなところを、切り分けて、よく考えながら参考にしてほしい作品(ケチをつけるとかではない。ファンの理屈に惑わされず客観的に脚本を見ること。ファンは脚本の専門家ではない)。

・全体的にストーリーの進め方が理屈っぽい。同じような意味だが設定周りのシーン描写が足りない。セリフで説明しすぎている部分が多いとも言える。理屈では想像・理解できるが、うまく描写されていない。
・トップシーン、雰囲気はいいが、本当にそれでよかったか? 残すなら氷を切る人=クリストフの意味を込められたはず。
・アナから「雪だるまを作ろう」と言う。それでよいのか? ただの幼少期の想い出だけの設定。物語としては足りない。もったいない。
・なぜ、想い出シーンで歌わない?
・子供時代のオラフのセットアップが弱い。幼少期もインパクト残すべきだし、エルサがどうやって生んだかもしっかり見せるべき。アナが記憶を無くしていることも都合よい。オラフと会って思い出せばいいだけのこと(のちに短編でフォローすることになっているが、本作のドラマとして必要な部分だった)。
・エルサの氷がアナの顔に当たったのに、白くなるのは髪。時間差で氷のも紛らわしい。エルサが撫でて凍るぐらいすればいい。
・トロール。「楽しい想い出はそのままに残す」ネタバレになってドラマを弱めている。ここではいったん全部消えると言えばいいところ。
・作品を通して「氷とは何なのか?」突き詰めているか? すべてのシーンにテーマが底流イメージとして流れているか?
・両親の死に方。段取りくさく時間を使いすぎ。戴冠式の間で後説明しても充分では?あるいは最初から両親のいない二人でもよかった。
・アナの「雪だるまつくろう」の歌は情緒的描写でいいシーンだが、いいシーンゆえ無駄だと思えない人が多い。今さらカットするのは想像しづらいかもしれないが、映像を作る前の脚本段階でもっと良いシーンがあれば、未知のもっと良いシーンができたはず。
・戴冠式でエルサがあっさりと部屋から出過ぎ。これだけ引きこもってたのに出るか?やらない選択肢はエルサの中になかったのか?あるいは戴冠式の重要さをセットアップするべきだった。
・三年後になり、アナとの関係も、それまでのセットアップがリセットされている。時間経過の都合よい使い方。感情のアークが途切れてしまっている。もったいない。
・戴冠式朝での、夏のセットアップ足りているか?
・起床後のアナ、恋への憧れで良いのか? wantがエルサに関係なくなっている。幼少期のエルサを起こすシーンとの対比は成功しているか?
・視点のとり方全体。エルサ視点なのかアナ視点なのかブレている。どっち視点で観客を感情移入させたいのか。同じ脚本家の『シュガーラッシュ』と比べると似てるようで、本作が失敗しているのがわかる。視点のブレが、総じてテーマのブレにつながる。
・エルサが恐れを克服する(魔法を制御する)話、アナが愛情で姉の氷の心を解かす話。設定はいいが、構成で両者がうまく噛み合っていない。処理しきれていない。(ラプンツェルは魔法を失う)。
・構成上はアナが主人公だがセットアップが弱い。記憶喪失という理屈で補って見ないと官女移入できない。観客に思考させる時点で感情が動きにくい。
・アナのセットアップの弱さがアクト2のwantの弱さにつながる。アナが一人でエルサを追いかけるのは、王女の設定上リアリティがない。
・エルサの心の解放「ありのままで」も有名すぎて、これなしはなかなか想像できないだろうが、エルサの感情の流れとして違和感ないか? このタイミングで解放されててよいのか? 魔法の新しい使い道を見つけるきっかけが足りない。そこからの城作り~アナが迎えにきても帰らないにつなげる。あるいは、コントロールに対する抑圧をもっとセットアップしておく。
・クリストフのセットアップも弱いので魅力に欠ける。大人になってからの関わり方が弱すぎる。一緒に行く理由も理屈っぽい。せっかく小さい頃のアナとエルサを見ているメインキャラなのに、トロールを知っているという設定上でしか使っていない。たとえば小さい頃にアナに一目惚れしていたってよかった。
・キーアイテムであるオラフをサイドキック(コミックリリーフ)も兼させている。ロールの失敗。
・ハンスのセットアップから、ターンオーバー処理全般に失敗している。完全にいい人にセットアップしているが、納得のいく裏切り要素を前半でセットアップしておかなくてはいけなかった。
・アナだけが氷の城の中に入るためのやりとり理屈っぽい。
・アナとエルサの対面。セリフで展開しすぎ。動きがない。描写弱い。オラフが邪魔。説明的な回想。アナがオラフを忘れているだけで、まるで違った会話ができたはず。
・たとえば、アレンデールは夏のままで、みんなはエルサをバケモノ扱いしていなくなって良かったと言っているところに、アナだけが追いかけるとかだったらどうだったろう?
・クリストフが来るタイミング悪い(オラフは1分だから先に入ってきた?)。こんな重要シーンでエルサに「誰なの?どうでもいいわ」など言わせなくちゃいけないこと自体が、シーンの組み立てを失敗している。
・トロール=恋愛マスターとか、理屈っぽい。演出的な説得力がない。
・エルサがつくった雪の魔物? エルサがどこまでコントロールしているのか描かれていないため危機感がはかりづらい。行動原理不明。表面的なアクション。アナがあっさり逃げすぎ。強い意志を示すべきところ。
・アナの氷を解くのが「真実の愛」という理屈で進めるから、ハンスのキス→クリストフのキス→エルサへの思いだったというか、どうでもいいミスリードを見させられる。ハンスが都合良いヴィランを演じる羽目にもなっている。アクト3は命がけでもエルサを守るためのビッグバトルをするべきだった。
・そもそもアナはいつクリストフを好きになった? クリストフもだが。一緒にいるうちにでも、物語では自覚するシーンをセットしなくては成立しない(観客が共感しない)。
・ウェーゼルトンの部下二人組が、ヴィジュアルも弱くザコキャラ感。ウェーゼルトンが同行してスキをついて侵入してもよかった。
・エルサ、牢に繋がれたわりに、あっさり氷で逃げる。ストーリー上の意味がない。段取り、理屈くさい。
・町は夏にしておいて、アクト3で町が雪におおわれれば、ギャップやアクト3感が出せた。盛りあげるために吹雪状態で、真っ白なだけで地味にすら見える。都合良いタイミングで弱まり、キャラが集まっているのも、段取り。
・ハンスは、なぜエルサを殺せば夏がおわると思っている?
・ハンスは、なぜアナに止めをささない? 王位が欲しいだけならアナとキスして、こっそりエルサを殺してもいい。自白する意味不明。ご都合展開。「君はエルサに負けた」などセリフの意味も不明。辻褄合わせのためにハンスを悪者にするしか処理できなかったのか?ヴィランはウェーゼルトンだけで処理できたはず。
・クリストフが主人公的な動きをしてしまっている。アナが主体的に動かなくてはビッグバトルにならない(しかも部屋に来るのがオラフ笑)
・オラフ(サイドキック)が愛を語る違和感。ロールのミス。せめてエルサとの想い出のキーアイテムとしての動きをするべき。理屈でストーリーを進めるから、キスの相手は誰かという論理から離れられていない。理屈でクリストフのキスを求め出すアナもバカに見える。せめて「愛というのは自分より人のため」という理屈のあと、クリストフよりエルサを思い出すべき。
・メインテーマであるCQ「アナはエルサの心を溶かせられるか?」がアークではなく「命を賭けた」という一イベントで解決されてしまっている。バトルとビッグバトルという関連でいえば、アクト2の時点でアナは「エルサに愛情を伝えるため」に関連するwantをしっかり仕込んでおこないといけなかった。エルサは結局、「心(と魔法)を制御すること」を学んでないし「恐れを克服」していない。演出の勢いで解決している。
・エピローグのエルサのドレスは同じで良かったか? ラストで歌につなげる演出いらないのか? 「ありのままで」のアレンジに意味(新しいエルサ)をもたせられたのに。
・根本的にミュージカルの歌はキャラクターが感情が高まったときの描写に過ぎない。高まりはストーリーが作る。歌うことで強引にキャラの心情を動かしてはいけない。
・チョコレート、スケートなどアイテム効果が分散してしまっている。

などなど。
重要なのは、これほどミスだらけなのに、どうしてこれほど人気が出たか? 良いところはどこか? そこを活かすようにはどう直すべきだったか?

イルカ 2023.4.6

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