『からすとかがし』小川未明(三幕構成分析#20)

がっつり分析は三幕構成に関する基礎的な理解がある人向けに解説しています。専門用語も知っている前提で書いています。三幕構成について初心者の方はどうぞこちらからご覧ください。

著作権フリーの作品を使って、本文中のビートを示してみます。

小川未明は前回『赤い蝋燭と人魚』でもご紹介した児童文学作家です。今回はあえて三幕構成のとりづらい作品をあげて「三幕構成やビートシートの使い方」を考えてみます。
短い作品なので、まずはリンク先の青空文庫から本文をお読み下さい。

『からすとかがし』小川未明(本文約1400字)

プロットポイントは見つかりましたか?
ビートはどうですか?

原稿用紙4枚ほどの長さで、ジャンルでいえばショートショートです。
三幕構成の本には、映画に限らず、どんなものにも応用できて「各アクトの分量は1:2:1にする」なんてセオリーがあります。
たとえばプロットポイント1でいえば、100枚なら25ページ目、40枚なら10ページ目ということです。

では、この原稿用紙4枚ほどの物語ではどうなっているのでしょうか?
くわしく、みていきましょう。

※分析は広告の後から始まります。










無理してビートをあてはめる必要はない

この小見出しのとおり、無理にあてはめる必要などないのですが、お金をとる講習会を開いているような方の中には、三幕構成が究極の理論のように宣伝して、どんなものでも当てはまると言うような人がいます。営業トークですね。
けれど「当てはめようと思えば、当てはめられなくも無い」というのがビートの面白いところです。その理由はあとで話しますので、まず無理矢理あてはめてみます。

※テキストファイルのルビが、あまりに読みづらかったの削除しました。

『からすとかがし』小川未明(本文約1400字)

太吉じいさんは、百姓が、かさをかぶって、手に弓を持って立っている、かがしをつくる名人でした。それを見ると、からすやすずめなどが、そばへ寄りつきませんでした。
 それも、そのはずで、おじいさんは若い時分から弓を射ることが上手で、どんな小さな鳥でも、ねらえば、かならず射落としたものです。よく、晩方の空を飛んでいくかりを射落としたり、はたけで遊んでいるすずめを射とめたりしました。だからおじいさんを見ると、小鳥たちは鳴くのをやめて、どこへか姿をかくしてしまいました。


「主人公のセットアップ」:太吉じいさんの説明と、鳥たちの葛藤がこの物語の軸です。いちいち説明されていませんが、WANTは鳥たちは「エサをとりたい」、太吉じいさんは「追い払いたい」です。

 しかし、このごろは、おじいさんも目がわるくなって、ねらいがきかなくなりました。けれども、鳥たちは、弓を持って立っいるかがしを見ると、やはりおじいさんのような、怖ろしい人だと思ったのです。
 親鳥は、子鳥にいいました。


「カタリスト」:鳥が話す童話的な世界観が始まります。文中にはありませんが、鳥たちは、ここでかかしを見ながら話しているので「新しいかかしが立てられた」と想像すれば、よりカタリストっぽさが想像できるかと思います。「ディベート」:鳥たちのエサを食べたいきもちと怖いきもちの迷いの時間です。ハリウッド的に演出するなら食べたくて畠に入った一匹が死んでしまったりする「デス」が入ります。

「あの、田の中に立っている人の手に持つのが、おじいさんや、おばあさんから、話にきいた、怖ろしい弓というものだよ。いつ飛んできて、あたるかしれないから、そばにゆかないがいい。」
 子鳥たちは、たびたび、いいきかされたのでよく守っていました。
 また、来年、稲の実るころになると、太吉じいさんは、新しいかがしを造りました。去年の子鳥たちはもう親鳥となって、同じように、その子供たちに向かって、
「あれは、弓というものだよ。」と自分たちのきいた、怖ろしい話をしてきかせました。こうして、鳥たちは、なるたけおじいさんのたんぼに近寄らないようにしていました。
 ところが、物忘れをするからすがありました。きいた話を、すっかり忘れて、かがしの上にきて止まりました。そして、カア、カアと鳴きながらかがしの頭をつつきました。


「プロットポイント1(PP1)」:英雄(?)カラスの冒険が開始します。

 これを見たすずめたちは、びっくりしてどうなるのかと目をまるくしていましたが、しまいに、
「なんだ、からすがとまってもなんでもないじゃないか。」といって、どっと押しよせてきました。そして、長い間自分たちをだましていた正体を見破ってしまいました。
「こんな、まがった竹がなんになるんだ。」といって、すずめたちは弓にとまりました。
 旅をして帰った、じいさんの息子が、
「いまごろ、弓なんか持ったかがしなんてあるものでない。どこの田や、圃でも、鉄砲を持った、勇ましいかがしを立てている。」といいました。


「ミッドポイント」:すずめたちが、かかしの弓にとまるのは勝利です。これで思う存分にエサが食べられます。「フォール」:息子の登場はブレイク・スナイダーの「迫り来る悪い奴ら」と捉えても当てはまります。弓から鉄砲への変化です。

 これをきいて、太吉じいさんは、
「なるほどそうかな、弓なんて、なにするものか、昔の鳥は知っても、このごろの鳥たちは知るまいて。」と、いって、おじいさんは弓のかわりに、鉄砲を持って立っている、かがしをつくりました。
「見てくれ、これなら、いいだろう。」と、おじいさんは、ききました。
「ああ、よくできました。」と、息子は、答えました。これを見たすずめたちは、ふるえあがりました。


「プロットポイント2」:最初に弓ができたときと同じ状況に戻ってきました。すずめにとっては「ふるえが」るほどに怖いというのは、ブレイク・スナイダーでいえば「オールイズロスト」です。「ビッグバトル」:しかし英雄カラスは怯みません。バカと天才は紙一重。鉄砲かかしとの戦いがアクト3です。

「あれは鉄砲だよ。近寄ると、ズドンといって、みんな殺されてしまうのだよ。」と、親すずめは子すずめにいいきかせました。
 ところが、いつかの物忘れのからすがやってきて、かがしの上に止まりました。
「どうしたのだろうな。」と、おじいさんが、頸をかしげました。すると、そのからすは、
「知っていますよ、なにを持っても打てないことを。ばか、ばか。」といって、笑いました。
 他の鳥たちは、からすの勇気に感心しました。いままで、ばかにされたからすが、いちばんりこうな鳥といわれるようになりました。そして、すずめたちは、かがしを侮って、稲を荒らしましたが、ある日、おじいさんの息子の打った、ほんとうの鉄砲で、みんな殺されてしまいました。
 いつでも、ばかとりこうとは、ちょっと見分けのつかぬものです。


「ファイナルイメージ」:これはオチのようなものです。鳥たちの勝利に終わるかと思いきや、オチで全滅。ホラー映画でよくある助かったと思った後に、主人公達は助かったけど「呪いはおわってない」と見せたりするのと同じです。この話でも、息子が撃ち殺すところまで見せなくても「息子が銃を構えた映像を見せて。、引きの風景ショットに銃声だけが鳴り響く」などとすれば現代的になります。

底本:「定本小川未明童話全集〈10〉」講談社
   1977(昭和52)年8月10日第1刷発行
   1983(昭和58)年1月19日第6刷発行
※初出時の表題は「烏とかゞし」です。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:仙酔ゑびす
2011年12月1日作成
2012年9月27日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

それって面白いの?

「当てはめようと思えば、当てはめられなくも無い」というのはおわかりいただけたかと思います。

だからといって、

「どうだ、三幕構成すごいだろ?」

「物語は三幕構成とおりに作れば面白くなるんだぞ」

「このテクニックを身につけたければ、講習会を受けにきなさい」

なんて言葉にのせられてはいけません。

どんな物語でも三幕構成で解釈していけるというだけなのです。占い師が「あなた、今、すごく気になってることあるでしょ?」なんて誰にでも当てはまるようなことを言って、心をつかむテクニックと同じです。誰にだって気になることの一つや二つはあるし、三幕構成の理屈は、どんな物語も当てはめていけるのです。

大切なのは「この『からすとかがし』っておもしろいのか?」という感覚です。

NHKの教育テレビで3分ぐらいアニメだとしたら見てしまうかもしれませんが、30分はもちません(アニメ日本昔話も1本10分ぐらいでした)。
アニメ映画、『からすとかがし』なんて、どうでしょうか?

「うーん、つまらなそう……」と思った方、ディズニーアニメはどうですか?
童話の数々を見事にアニメ化、実写化して成功させています。もちろん脚本には三幕構成が使われています。

この『からすとかがし』でも、スズメやカラスのキャラクターをしっかり立てて、本気で三幕構成していけば、必ず現代的なものに仕上げられます。

それには「ビートが機能しているか」という感覚が必要です。

ビートっぽいものがあるだけでは意味がないし、解釈しようとすればいくらでも見つけられます。
大切なのは、ビートが物語の中で効果的に働いているか、です。

そのためには各ビートの意義を理解しておく必要もあります。感覚的な部分も多く、用語だけ覚えて、簡単に応用できるものではありません。

「スターウォーズ」や「バックトゥーザフューチャー」などハリウッドの大作映画は、初心者が学ぶ上にはとてもわかりやすい、三幕構成の教科書のような映画です(だから「プロットを考える」でも使っています)が、それを解釈して喜んでいるだけでは自分の作品には応用できません。あえて、ビートのとりづらい作品、三幕構成にあてはまらないと思えるような作品を、考えてくることで見えてくるものがあるのです。

「プロットポイント」って何だろう?
誰かの本に書いてある引用ではなくて、自分の言葉で説明できるようになると、その本質が見えてきます。

緋片イルカ 2020/03/14

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