書籍『感じるオープンダイアローグ』

感じるオープンダイアローグ (講談社現代新書)

一個人の感想:
読書会で『戦争は女の顔をしていない』を取りあげて、バフチンのポリフォニー論、そこから対話論からのオープンダイアローグと興味をもって読んだ。対話論には三幕構成という構造を越えた何かがあるように感じていて、尻尾は見えているが、まだ掴めていない。この本は、臨床の現場での「オープンダイアローグ」がどういうものかが、よくわかって、導入に最適な本だった。物語にどう応用していったらよいかはまだだが、物語をグループでリライトするときにも使えると思う。ちょうどピクサーの脚本会議のやり方の話を聞いたときに読んでいたが、脚本を患者のように扱うという姿勢は、臨床につながるものがある。展開がすこし、飛び飛びで、読みづらく感じるところもあったが、文章自体は平易で、内容も真摯で交換のもてる文章で、著者自身の体験で、グッと引き込まれるところもあった。このことにも、物語での感動につながる何かがあるように感じる。オープンダイアローグを始めたケロプダス病院で大事にされている7つの原則というのが紹介されていた。

IMMEDIATE HELP
SOCIAL NETWORK PERSPECTIVE
FLEXIBILITY AND MOBILITY
RESPONSIBILITY
PSYCHOLOGICAL CONTINUITY
TOLERANCE OF UNCERTAINTY
DIALOGISM

すぐに助ける
本人に関わりのある人たちを招く
柔軟かつ機動的に
責務/責任
心理的な連続性/積み重ね
不確実な状況の中に留まる/寄り添う/すぐに答えに飛びつかない
対話主義

日本語は著者が訳したもので、おそらく臨床での経験を含んだ訳だろうが、2番目のSOCIAL NETWORK PERSPECTIVEには、本人に関わりのある人だけでなく、社会としてのつながりの部分として、もっと広い意味が込められていると感じた。ソーシャルワーカー的な視点も必要だという。

TOLERANCE OF UNCERTAINTYはとても重要なポイントだと思った。答えを出さないという姿勢。あいまいなまま受け入れるということは、物語のラストのあいまいさに繋がるものがあるかもしれない。

第五章のQ&Rにも気になるものがあった(Q&Rは、Question & AnswerではなくResponseだからだというのも面白い)。
以下、引用。

Q10 傾聴と対話の違いは何ですか?
R10 傾聴とは話し手に耳を傾けることです。対話は相手の言葉に耳を傾け、そのうえで自分の思いや考えも話す、その相互のやりとりのことです。対話のためには、傾聴の姿勢がとても大切です。

Q11 会話と対話の違いは何ですか?
R11 ふだんは会話でいいのだと思います。人と人との関係の中で困難が生じ、相互を理解しようとしなければ困難が解決しないと思われるときや、自然な会話ができなくなったときに、あらたまって対話する意識が必要になるでしょう。些細な誤解から大きな争いまで、様々な場面で対話が必要になると思います。

Q21 対話で治るとはどういうことですか?
R21 対話で治るということはありません。精神面の困難に直面したときに、その困難によって緊張や不安が強くなりすぎたり強い思い込みが起きたり、ときには幻覚が生じることもあると思います。
 しかし、それらは困難に直面したことによる結果です。対話では、困難な状況を聞きつつお互いに理解を深めながら、その始まりや背景を探していったり、気持ちを話したりしていくことになるでしょう。すると、困難でどうにもならないと思っていた現状や未来への理解が相互に促進され、何とかなるかもしれないと思うようになるかもしれません。そうなるば、結果として、精神面の困難は軽減されていくのでしょう。

Q31 オープンダイアローグを一般の組織に取り入れるための工夫としては、どのようなものがありますか?
R31 理念、実践、トレーニングの3つの軸があると思います。
 理念とは、「その人のいないところで、その人のことを話さない」「対話を中心に置く」といったものです。「対話には意味がない」とか「上下関係が大事」と考える人と一緒に働くことはとても大変だ、とケロプダス病院のスタッフも話していました。
 実践では、ふだんの組織内の会話や仕事が、対話的にできているかどうかを確認するとよいと思います。スタッフ間の会議では、「会議に参加している人全員が対等に意見を言える」「誰かが話しているときは話し切るまで話を止めない」「相手を打ち負かそうとするような発言をしない」「相手の考えを理解しようとする」などのことが大切です。ひとまず私たちのクリニックでは、「先生」という呼称や役職で呼ばないことにしています。それだけでもお互いに対等で、一個の人間として尊重できるようになると感じています。
 トレニーングには様々なものがあります。といっても特別なものではなく、たとえば前述したように誰か一人が話していたら話し切るまで待つ、相手に反論しようとか何か言ってやろうと思いながら聞くのではなくそのまま聞く、Iメッセージで話す習慣をつけることが、そのままトレーニングになります。
 Iメッセージとは何かを簡単に説明すると、自分の考えを自分の考えとして話すということです。「なぜあなたはそんなことをするのか?」「そんなことはやめたほうがいい」「こうしたほうがいいのに、なぜしないのか?」などと自分の考えなのに相手のせいにして言葉にしてしまうことがあると思いますが、それでは対話ではなく対立につながってしまうでしょう。「あなたがそうした理由を私は理解したいので教えてほしい」「私はそれはやめたほうがいいと思う。その理由は○○だからなのだけど、しかしあなたもそれをしたい理由があるのだと思うのでそのことを聞きたい」「私はこうしたほうがいいと思うのだけど、あなたは、そのことに対してどう思うかを聞いてもいい?」というように、Iメッセージで話すことができれば対話が生まれやすくなるでしょう。(後略)

Q33 オープンダイアローグの終着点はどこですか?
R33 対話が続くことです。困難なことは簡単には解決しません。対話を手伝う第三者がいなくても対話が続くようになったら、それがゴールです。あとは大丈夫です。

まだ、掴み切れていないが、物語に応用できるヒントがたくさんある。

緋片イルカ 2021/12/29

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