全6回に渡ってスキーマ療法の理論部分を引用してまとめていきます。
ざっくり読書6①『スキーマ療法入門』伊藤絵美(生得的気質について)
ざっくり読書6②『スキーマ療法入門』伊藤絵美(中核的感情欲求と5つのスキーマ領域について)
ざっくり読書6③『スキーマ療法入門』伊藤絵美(18の早期不適応的スキーマ)
ざっくり読書6④『スキーマ療法入門』伊藤絵美(スキーマの作用「持続」と「修復」)
ざっくり読書6⑤『スキーマ療法入門』伊藤絵美(コーピングスタイルとコーピング反応)
ざっくり読書6⑥『スキーマ療法入門』伊藤絵美(スキーマモード)
【早期不適応的スキーマとはなにか?】
「スキーマ」という概念自体は、発達心理学や認知心理学といった基礎心理学で構築されたものであるが、ヤングは、人生の早期に形成され、形成された当初は適応的であったかもしれないが、その後のその人の人生において、むしろ不適応的な反応を引き起こすスキーマを「早期不適応的スキーマ(early maladaptive schema)」と名付けた。(中略)定義は以下のとおりである。
・全般的で広範な主題、もしくはパターンである。
・記憶、感情、認知、身体感覚によって構成されている。
・その人自身、およびその人とその人をとりまく他者との関係性に関わっている。
・幼少期および思春期を通じて形成され、その後精緻化されていく。
・かなりの程度で非機能的である。
こちらの記事で挙げた「無条件スキーマ」と同じに考えて問題ないと思います。「早期では適応的であった」ということは人間を考える上で重要です。本書にも例として挙げられてますが、虐待を受ける環境であれば「人を信用してはならない」というスキーマは適応的であったということ。その人が生き延びるすべとしてはただしい判断だったのが、成長して安全な環境にいてもなお、周りの人を信用しないとなると、これは不適応となるのです。もう安全だからとわかっていても、なかなか変えることは難しい。それがスキーマです。
【なぜ早期不適応スキーマが形成される?】
ヤングが早期不適応的スキーマの起源として最も重視するのが「中核的感情欲求(core emotional need)」という概念である。早期不適応的スキーマは、この中核的感情欲求が幼少期に満たされなかったことによって形成された、というのがヤングの基本的見解である。ヤングは、以下の5つの中核的感情欲求を挙げている。ただし(中略)臨床的観察から導き出された暫定的なリストであり、今後追加や変更がありうることに注目されたい。
1. 他者との安全なアタッチメント(安全で安定した、滋養的かつ受容的な関係)
2. 自律性、有能性、自己同一性の感覚
3. 正当な欲求と感情を表現する自由
4. 自発性と遊びの感覚
5. 現実的な制約と自己制御
ヤングは、5つの「スキーマ領域(schema domains)」というのを想定している。これは、上記の5つの中核的感情欲求が満たされないことによって、その人の心の生き方のどの部分に損傷を受けるのか、ということについての仮説である。それは以下の通りである。
第1の領域:断絶と拒絶(Disconnection and Rejection)
第1の中核的感情欲求「他者との安全なアタッチメント(安全で安定した、滋養的かつ受容的な関係)」が満たされないことによって損傷を受けるスキーマ領域である。この領域に関わる早期不適応的スキーマを持つ人には、他者や自己に基本的な信頼感が形成されず、彼ら/彼女らにとっては生きること自体が非常につらいものとなってしまう。第2の領域:自律性と行動の損傷(Impaired Autonomy and Performance)
第2の中核的感情欲求「自律性、有能性、自己同一性の感覚」が満たされないことによって損傷を受けるスキーマ領域である。この領域に関わる早期不適応的スキーマを持つ人には、「しっかりした自分」「自発的に動ける自分」という感覚が形成されず、彼ら/彼女らにとっては、自信を持って能動的に生きること自体が大変に難しくなってしまう。第3の領域:他者への追従(Other-Directedness)
第3の中核的感情欲求「正当な欲求と感情を表現する自由」が満たされないことによって損傷を受けるスキーマ領域である。この領域に関わる早期不適応的スキーマを持つ人には、「自分の価値や行動は他人次第」という感覚が形成され、自らの欲求や判断よりも他者のそれらを優先するような生き方になってしまう。第4の領域:過剰警戒と抑制(Overvigilance and Inhibition)
第4の中核的感情欲求「自発性と遊びの感覚」が満たされないことによって損傷を受けるスキーマ領域である。この領域に関わる早期不適応的スキーマを持つ人には、「この世は悪いことだらけ」「喜びや遊びは後回し」「感情より理性を優先」という感覚が形成され、常に気を張って悪いことが起きないように過剰に警戒するような生き方になってしまう。第5の領域:制約の欠如(Impaired Limits)
第5の中核的感情欲求「現実的な制約と自己制御」が満たされないことによって損傷を受けるスキーマ領域である。この領域に関わる早期不適応的スキーマを持つ人には、「やりたいことはやりたいようにやりたい」「嫌なことはやりたくない」という感覚が形成され、人生において自分をコントロールして人と関わったり目標達成に向けて動いたりすることができなくなってしまう。一言でいうと「我慢のできない人」になってしまう。(※文字強調は筆者)
さらにヤングは18の具体的な早期不適応的スキーマを定めて、それらを5つのスキーマ領域に分類しています。それについては次回の記事でご紹介します。
緋片イルカ 2019/08/20
次回は……ざっくり読書6③『スキーマ療法入門』伊藤絵美(18の早期不適応的スキーマ)
●書籍紹介
スキーマ療法入門 理論と事例で学ぶスキーマ療法の基礎と応用
伊藤絵美が書き下ろす渾身の入門書。本書を通して、伊藤絵美と共に学び、実践する仲間になる。スキーマ療法とは,米国の臨床心理学者ジェフリー・ヤングが提唱した認知行動療法(CBT)の発展型である。認知の中でもより深いレベルにあるスキーマ(認知構造)に焦点を当て,CBTを中心に力動的アプローチほか非常に統合的な心理療法を組み合わせてスキーマ療法を成した。本書は入門テキストと事例集の二部構成となっており、特に日本でスキーマ療法を習得し,治療や援助に使いたいという方に向けて書かれた待望の書である。(Amazon商品紹介より)
専門書ですがスキーマ療法の提唱者ヤング自身の本はこちらです。
スキーマ療法―パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法アプローチ
スキーマは,その人の認知や長年培われてきた対処行動などを方向づける意識的・無意識的な「核」であり,〈中核信念〉とも訳される。本書は,幼少期に形成されたネガティブなスキーマに焦点を当て,その成長が健康的ではなかった境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害をはじめとするパーソナリティの問題をケアしていくスキーマ療法の全貌を述べたものである。
人には5つのスキーマ領域からなる18のスキーマがあるとされ,それぞれに際立ったコーピングやモードがあり,幼少期から周囲の環境に応じてパーソナリティを形づくる。こうして固まったパーソナリティの問題は,認知行動療法だけでなく,多くの心理療法や薬物療法でさえ,万全なケアができるとは言いがたい状況にある。スキーマ療法は,こうしたニードから生まれた統合的な認知行動療法アプローチであり,体験療法やエンプティ・チェアなどのゲシュタルト療法,精神力動的な方法といったさまざまな心理療法を加え,基礎的な心理学の知見をも加味して生まれてきたものである。
本書は,リネハンの弁証法的行動療法とともに,パーソナリティ障害をはじめとする人格の問題にアプローチする最良の方法の一つであり,理論的な入口の広さから多くの心理臨床家,精神科医,心理学者などに読んでもらいたい1冊である。(Amazon商品紹介より)
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