キャラクター概論27「スキーマとキャラクターコア」

前置きとして個人的な見解になりますが、心理学の概念はあくまで概念です。脳を調べても人間がわからないように、心理学を学んでも答えは出ません。まれに脳科学や心理学の概念を、真実のように振りかざす人がいますが、それは、自分で考えることを放棄して、他人のつくった概念を盲信しているに過ぎません。人間を理解したければ、人間について考え続けることしかありません。その中で小さな発見があって、少しずつ、部分的にはわかるようになっていくのだと思います。その理解のためには、脳科学も心理学もヒントになります。キャラクター創りについて言えば、おおいに役立ちます。このスタンスで記事を書いていることだけは先に表明させていただきます。

【スキーマとは?】
「スキーマschema」というのは絶対的信念などと言われ、無意識の領域で物事の認知・判断・思考などに影響しているものといえます。反射的にものごとを考えることを「自動思考」と呼びます。
たとえば「目の前の人が舌打ちをした」という状況があるとします。これは事実です。それに対して、反射的に「私が何かしたかな?」と思うのが自動思考です。
もう一つ。「同僚とすれ違った時に挨拶をしたけど無視された」という状況があるとします。これも、ただそういうことがあったという事実です。これに対して「私が嫌われているのかも」と思うのが自動思考です。
これら二つの例では、自動思考に共通の方向性が見られます。たとえば「私は愛されない」。そういったものを「スキーマ」と呼びます。

「私は愛されない」というスキーマをもった人間は、現実に対して、常にそういった色眼鏡をつけて見ます。「隣の人が咳払いした」だけで「私を気に食わない」と思ったり、「友人が電話に出なかった」だけで「私と話したくないのだ」と自動思考してしまうのです。

こういった人に、それは思い込みかもしれないよ?と気付かせていくのがカウンセリングです。
舌打ちもただ口を開けた反動で鳴ってしまっただけかもしれないし、同僚が挨拶を無視したのは考え事をしていて気付かなかっただけかもしれません。
日常生活に支障をきたすほどに不安や認知のズレを抱えていると、それは治療の対象になりますが、歪み自体は誰にでもあるものです。
プラスのスキーマを持っているために、ポジティブに成功している人もいるのです。

たとえば「私は愛される」というスキーマを持っている人ではどうでしょうか?
「舌打ちをした人」に「お、自分に気があってアピールしてるのかな?」と思うかもしれません。「同僚に挨拶を無視されて」も、「なんだ、照れちゃって、かわいいやつだな」と思うかもしれません。あまりに現実とかけ離れていると、それはそれで問題を孕みますが、ジムキャリーが演じそうな陽気なキャラクターになるのです。

認知の歪み自体に良い悪いがあるわけではないのです(※良いものと悪いものに決めること自体が歪みになります)。
誰にでも歪みがあるのです。生き方の問題としては、それを自覚して、外界と折り合いをつけて、付き合っていけるかどうかだけなのです。
キャラクターに応用するという観点から言えば、スキーマを決めることでキャラクターのコアが固まります。

【スキーマの3領域】
キャラクターへの応用の前に、もう少しスキーマについて考えてみます。

スキーマは3つの方向性を持っています。
1:自己へのスキーマ
「自分は○○である」という思い込みです。うつ病との関連が深いとも言われます。「俺は無能だ」「私はダメな子」「私は愛されない」など。

2:他人へのスキーマ
「他人は○○である」という思い込み。人間はと言い替えても良いと思います。「人間は自分勝手だ」「他人は助けてくれない」「誰もが金が一番」など。

3:世界へのスキーマ
「世間は○○である」という外界への思い込み。主語はいろいろと言い替えられると思います。「東京は怖い」「学校はくるしい」「世間は冷たい」。ここには抽象的な概念も含められると思います。「いいことがあれば、同じ分だけわるいことが起きる」「金はさみしがりや」「すべては神の加護」など。このあたりは「価値観」で考えたこととも重なります。

心理学の概念は、どうしても患者を対象としていることが多くネガティブなスキーマの例が多くなりますが、キャラクターではポジティブな面に注目した方が向いている場合もあります。「俺は天才だ」というテンションの高いキャラクターとか「誰かが助けてくれる」という依存体質の憎めないやつなど。

【無条件スキーマと条件スキーマ】
スキーマには幼少期に形成された「無条件スキーマ」と、その無条件スキーマに対処しようとする中で形成される「条件スキーマ」があります。それらはスキーマ療法の第一人者のジェフリー・E・ヤングが5つの領域と18のカテゴリーに分類しています(※スキーマ療法ウィキペディア)※後日、書籍を参考にしたスキーマに関する記事もあげていきます
ただ、これらの分類は治療が必要となる人に見出させるスキーマで健康な人のスキーマにはもっと種類があるはずです。ここでは、本質的で変えられないものとして先天的に近いスキーマと、教育や経験などから後天的に形成されたスキーマがあるという部分に注目したいと思います。
先天的なものは「気質」との境界もむずかしく、本質的に変化することは難しいように思います。自覚して受け入れることで対処していくことはできます。
後天的なスキーマはトラウマや厳しい状況に対処するために作られたもので、映画『ランボー』の「俺の戦争は終わっていない」というセリフにも見いだせます。いったんは、降服するランボーですが続編ではまた戦場をもとめて戦いに身をおいていく彼を支配しているスキーマのように見えます。もっともランボーはカウンセリングを受けていなそうですが。

【キャラクターへの応用】
たとえば、平穏な生活を送っているのに自殺願望があるキャラクターがいるとします。
そこには「私は生きる価値がない」というスキーマがあります。それが幼少期に虐待や育児放棄をされたために「無条件スキーマ」として形成されているのか、後天的な「条件スキーマ」によって、そう考えるようになったかでキャラクターは違います。前者の場合は、本当に自殺してしまう場合もかなり高いでしょう。後天的な場合であれば、そのスキーマが形成された時期や、抱えて生きてきた期間によっても根強さが変わります。これはPTSDなどの心の傷も早期に治療すれば改善する可能性が高いことの裏返しです。

「自殺願望」という重めの設定に対して、作者が頭でとってつけた程度で扱っていると、周りの励ましなどといった軽いイベントで簡単に変化してしまうキャラクターになり、違和感がでてきます。

また、設定に心理学的根拠があるかどうかでもありません。人間の心は理屈ではないのです。そのキャラクターの本質がここにある、と掴めるかどうかが重要です。それがキャラクターコアです。どういうものかは説明できなくとも物語の中で描けばいいのです。描いているうちに作者自身が気付かされることも多々あると思います。

人間は本質的に変われるのか?
人間の心とは何か?

そういった答えの出ない問いかけに、作者は真剣に向き合てこそ、説得力があり感動を生むキャラクターアークが描けるようになるのです。

次回は……キャラクター概論28『トイ・ストーリー4』から考えるキャラクターレベル5段階

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緋片イルカ 2019/08/09

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