キャラクターアークをセリフで考える(キャラ#49)

三幕構成、ビートシート、キャラクターアークとは?

これらは、捉え方の違いだけで、僕にとっては、ほとんど同じような意味合いですが、ハリウッド関連の書籍では区別されて使われています。

前置きとして、これらを簡単に定義してみます。

三幕構成:
物語全体を2つのプロットポイントで切って、全体を3つのアクトに分ける捉え方。全体像を掴むのに有効。

ビートシート:
三幕構成よりも細かい点で捉えるときの考え方。プロットポイントを含む、約18のビートで捉える考え方。ただし、一つの作品に18こすべてが、必ずしも含まれる訳ではないし、「ディベート」のようにシークエンス的なビートもあるし、「バトル」のように同じビートが何度か入る場合もあるので、数には意味はない。プロットを立てる創作作業や、問題点を探る分析に有効。

キャラクターアーク:
ビートが点だとすると、それらを繋いだ線(アーク)として捉えるときの考え方。折れ線グラフのように、キャラクターの心情変化を視覚的にイメージする。その緩急は演出的な盛り上がりや停滞にも関連する。

あくまで、僕の定義です。書籍などでは、それぞれの著者の定義に基づいて書かれているので、ズレはあるでしょう。

他に、エピソードで捉える「プロットアーク」という考え方や、物語の本質を追及する「コズモゴニックアーク」もありますが、ここでは割愛します。

※参考記事:
「ストーリー価値とアーク」(プロットアークとキャラクターアーク)(中級編2)
コズモゴニックアーク(中級編9)

ビートをセリフで表す

さて、ここからが、この記事の本題です。

キャラクターアークの感覚を掴むため、各ビートを「主人公のセリフだけ」で表現してみます(※あらすじを作りながら書いていきます)。

「オープニングイメージ」「私は死んでもピンクしか着ない」
このビートは、ビジュアルなイメージなので、セリフでは表現しづらいのですが、あえてセリフにしてみました。通常は、ピンクばかり着ている女の子をビジュアルに表現することで伝えます。「一体、この子はなんだ?」というようなインパクトで興味をひく場合もあれば、テーマを象徴するアイテムで表現する場合もあります。

「主人公のセットアップ」「私の名前はモモコ。アイドルを夢見る少女。もう20歳のオバサンだけど、他人がどう思おうと関係ない。私は自分の生きたいように生きるの」
主人公の設定をきちんと提示することが「セットアップ」です。脚本では冒頭に人物表をつけますが、そこには「名前、年齢、職業」が書かれます。基本情報でしょう。物語を動かす上では主人公の目的が最重要です。モモコは「アイドルになりたい」目的を持っているようです。僕は「キャラクターコア」という言葉を使いますが、表面的にとらえる場合は「キャラクターコア=主人公の目的」です。ハリウッド関連ではwantという言われ方もします。より深層的に捉えるなら、その人の抱えている問題点や魅力も含みます。モモコの「自分の生きたいように生きる」という人生観は人間としては魅力的な一方、「他人がどう思おうと関係ない」という考え方は「聴く耳をもたない」という問題点を抱えている可能性があります。人間にとってパーフェクトな性質はありません。一般的に高尚な部類と言われる「無欲の愛」のような価値観ですら、騙されやすかったり、無欲ゆえに周りの人間に心配をかけたりといった問題点を孕みます。主人公の魅力と問題点を客観的にとらえることは作家自身の人間観にも影響するでしょう。
また「設定隠し」の扱いには注意しましょう。「設定隠し」というのは、読者・観客に提示しておくべき情報を隠すことです。ドラマの本質をわかっていない作者がやりがちなのですが、物語の後半になって「実は○○でした」という重要な情報を出すことで、観客は驚かすことができるのですが、「それは本当に隠しておくべき情報だったのか?」という疑問は常に持つべきです。隠し方によっては、ターンオーバーの効果を生むので、観客の気持ちに水をさす危険性があるのです。とくに作者の思い付き、後付けで設定を付け足したようなものは、観客には見え見えです。設定を変えたなら、きちんとセットアップも推敲する必要があります。
キャラクターにとってはいちばん重要なビートなので、説明が長くなりましたが、次に行きましょう。

「ジャンルのセットアップ」「店内が乾燥していたので、加湿器にしました」
「主人公のセリフだけ」でビートを表現するといったので、やや不自然なセリフになりましたが、これは次のようなシーンです。コンビニのアルバイト中です。アイドルとして美容を気にするモモコは、加湿器がわりに、肉まんのケースを開けっ放しにして、商品をダメにしてしまい、店長に怒られるのです。このビートは物語と観客の距離感を定めます。たとえば、店長の怒り方によってリアル感が決まります。マンガのように「まったく、モモコさんには困ったな」と苦笑いしていたり、「このやろう……」メラメラと怒りの炎を背負ったように怒る店長であれば戯画的です。一方、現実にこんな子がいたら、店長の言い方・性格はともかく、大人な対応になるでしょう(そもそも面接に受からないかもしれませんが)。リアルであれコメディタッチであれ、そういった作品のトーンを観客にわかってもらうためのビートです。演出家の範疇でもありますが、セットアップするシーンを物語上で作っておくことは作家の仕事です。セットアップしたトーンを受け入れるかどうかは、観客の好み次第なので気にする必要はありませんが、物語の途中からトーンがズレることには観客は敏感なので、きちんと一貫させるべきでです。

「プレミス」「いいよ、私は一人でも生きていけるから」
プレミスは物語のテーマを暗示します。社会とのズレがあるモモコに対して、家族から「このままでは、誰も助けてくれなくなるよ」とか言われたのでしょう。「主人公のセットアップ」で捉えた「聴く耳をもたない」という問題点が浮上しています。同時に、この物語が「人間は一人で生きていけるのか?」というテーマを含んでいることも暗示します。

「カタリスト」「えっ!?」
カタリストは「最初の事件」あるいは「非日常へのきっかけ」です。その前まででセットアップしてきたモモコの日常では対処できないような事件が起きたのです。だから、率直に驚くリアクションが来るのです。ここでは「父親が事故で倒れた」ということにしておきましょう。読者、観客も物語の本題が始まったように感じます。それゆえ分析の際にプロットポイントと間違えやすいビートでもあります。もっと、ひっそりとカタリストを起こすやり方もあります。魔女が危険な森にするすると引き込むように、いつの間にか非日常の世界へ引き込むのです。あるいは一般人が知らないところで地球の危機が迫っているといったカタリストもあります。余談でしたが、分析のときは注意が必要です。

「ディベート」「パパ死んじゃうのかな……うんん、大丈夫、パパが死ぬなんて絶対ない!」
カタリストに対するリアクションがこのビートです。迷いの時期です。不安な気持ちと、受け入れない現実逃避な考えなどが錯綜します。

「デス」「そ、そんな……」
「父親に介護が必要になった」ということにしてみます。カタリスト~ディベートに対する結果として、逃げられない自体が起こるのが「デス」というビートです。非日常に入るためには、日常を捨てなくてはいけません。過去の自分の死、という意味合いがあります。これをビートとして扱うのは僕のやり方で、ハリウッド書籍ではありませんが、多くの映画で、このタイミングで誰かが死ぬシーンが多くあります(詳細な説明は割愛しますが、物語の本質に則れば、当然なのです)。

「プロットポイント1」「安心してパパ、私が治すから!」
設定を決めておきましょう。父親は脳梗塞で倒れて、後遺症で体が不自由になり、介護が必要になったとします。モモコは父親の介護のため、実家にもどり同居することになります。物語の舞台が変わるのはアクト2の特徴です。「治せる」と思っているあたりに、まだ現実を理解していないモモコがいます。アクト2を「旅」に喩えるなら、まだ旅の始まり。どれほど大変な旅になるか、このときは知る由もない、ということです。

「バトル」「もう! 何言ってるかわからないよ!」
父親は半身マヒで、うまく喋れません。介護の苦労というのが、物語の本筋です。ピンクの服を身に纏い、夢見がちなイタイ主人公が、正反対のような厳しい現実に向き合うのです。「聴く耳をもたない」という問題点を抱えているモモコにとっては、聴く練習をすることがバトル(試練)でもあるのです。

「ピンチ1」「ありがとう、タナカさん! この恩は一生忘れないから!」
タナカさんはヘルパーさんです。介護に追われてアイドル活動ができないモモコはストレスを抱えますが、助けてくれる人もいます。一日、介護を変わってもらい、アイドルライブへ行くのです。ピンチはサブプロットに関連するビートです。短編などでは不要です。サブプロットは新しいキャラクターとの関わりでもあります。タナカさんは、モモコが介護をすることにならなければ絶対に出会わなかった人でしょう。アクト2に入ってからの人間関係というのは、それなりの意味があります。そういった関わりも含めて、モモコは変化していくのです。

「ミッドポイント」「お礼なんていいよ、パパが元気になってくれれば……」
「バトル=介護」の積み重ねで、モモコはうまくできるようになりました。それは同時に父親の考えていることがわかるようになってきたのです。「聴く耳」を持てるようになったのです。お礼を言われることは、そのご褒美です(リワード)。モモコは成長しました。死んだ母親に似てきたといった「設定の深掘り」をするならこの辺りです。「設定隠し」と「設定の深掘り」は大違いです。小さい頃に母親が死んでいたことを、僕は今、これを書いていて考えたのですが、だからといって、ここで提示するのは「設定隠し」になってしまうのです。そんな大事な情報は、アクト1でセットアップしておくべきです。推敲で前に入れればいいだけです。きちんとセットアップしてあった場合は、ここで母親との関係が、効果的になるのです。ピンクが大好きなのは、小さい頃に母親が買ってくれた服に由来するといったエピソードを出してもいいでしょう。これはパーソナルな情報なので、「設定隠し」ではなく「設定の深掘り」になるのです。

「フォール」「そ、そんな、ウソでしょ……?」
「父はガンで余命いくばくもない」と告げられたとします。成長したモモコに次の試練が待ち受けるのです。折れ線グラフでアークを描くとき、MPがちょうど真ん中の山の頂上にあたります。下りに入る地点がフォールです。ビートシートで有名なセーブザキャットでは
、「迫り来る悪い奴ら」といったビートになっています。アクションやサスペンスでは、実際、悪役が顔を見せたりするのですが、ドラマではその言葉のせいで捉えづらくなるので、僕は「フォール」と呼んでいます。「アイドルの本格デビューが決まった」などでも「フォール」として機能しそうです。デビューのためには、家を離れなくてはならず父親の介護ができなくなるといった展開です。要は、折返しとなるイベントがフォールになるのです。復路を考えるには、往路を見ればいいのです。往路が「父親の介護」というバトルでMPまで登ってきたのですから、それが出来なくなる自体が起こればフォールになります。あるいはテーマで考える場合、往路では「聴く耳を持つ」ということを学んできたので、また「聴く耳を持たない」(聴きたくない)状態に向かわせるのが復路になります。このあたりは、作者のセンスが問われるところだと思います。

「ピンチ2」「うんん、アイドル活動よりも父が大事だから……」
モモコはライブがあるのに、父親との時間を優先します。成長をした(MPを越えた)後の主人公は、ピンチ1とは別の行動をします。この対比は主人公の変化を表現する意味もあります。

「プロットポイント2」「決めた。わたし、アイドルはもう辞める」
父の病状悪化に伴い、夢であったアイドルを諦める決断をします。アイドルの仲間やプロデューサーからは続けるように言われても、頑なに拒みます。「聴く耳を持たない」状態に戻っているのです。アクト2の「旅」=「父親の介護」という感覚から言えば、病状の悪化に伴い、入院することにするといいでしょう。舞台が実家から病院へうつり、アクト3の雰囲気が演出できます。

「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」「ダメ、もう忘れるんだ……わたしは辞めたんだから」
自分の決断に迷う時間です。「本当はアイドルを辞めたくない」という思いがふつふつと湧きあがってきます。

「ターニングポイント2」「わかった。私、行くね」
父親の死期が迫るなか、プロデューサーから「これが最後だ」と大きなライブに誘われます。父親は「自分自身の心の声にも耳を傾けなさい」などと言うのでしょう。アクト2の体験を経て「聴く耳」を持てるようになったモモコには、その意味がわかります。プレミスの回収でいば、今のモモコは「一人では生きていけない」ことを知っているのです。やがて死んでしまう父親にしがみついていては一人になってしまいます。そして、ライブに向かう決断をするのです。

「ビッグバトル」「みんな、ありがとう」
クライマックスのライブシーンと、クロスカットで亡くなる父。この辺りは演出的なセオリーですが、盛りあげる状況を作ってあげるのも作者の仕事です。

「ファイナルイメージ」「お父さんの言葉は忘れない」
父の葬式です。喪服をきています。ピンクしか着なかったモモコが黒を着ているのです。セットアップであった「アイドルになりたい」という目的を達成し、主人公としての魅力を維持しながら、「聴く耳をもつ」という成長により問題点も解消しました。また、父親の死という人生の通過儀礼も通りました。成長・変化の本質には、通過儀礼があります。それは、すなわちキャラクターアークの本質でもあるのです。

あとがき

舞台脚本を書いていて「セリフでビートを表現できる」と思いついて、この記事を書きました。

舞台では映像表現が制限されてしまうので、変化を示すのがセリフが中心になりがちです。

滑らかなキャラクターアークがないまま、変化をする前と後のセリフを書くと、人が変わったように、唐突に変化したように見えてしまいます。

「私は死んでもピンクしか着ない」と言っていた人間が、どういう経験を経て、喪服を着るようになるのか。それがキャラクターアークです。

ラストから逆算して「私は親の葬式でもピンクを着る」でもいいかもしれませんね。今、思いました。

小説の分析では、映像ではなく、セリフか地の文でビートをとるので、今回のやり方が参考になるかもしれません。

緋片イルカ 2021/11/30

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