リハビリ触媒:「模写」「半模写」「脚本起こし」「演出模写」

脚本を書く「きっかけ」として課題のようにあげている「テーマ触媒」の番外編です。

超初心者で最初のテーマもうまく書ける自信がないとか、考えすぎて書けなくなってしまった人などへのヒントです。

負担の少なそうな順に紹介していきます。

「模写」

模写とは「見本」を一字一句書き写す作業です。写経と同じ。

小説でも脚本でも、むかしから言われる古典的な練習法です。
参考:「模写の効能」(文章#25)

「見本」を見つけるという作業がありますが、それさえあれば、精神的な負担はありません。

事務作業のように、パソコン画面の横に見本をおいて、写していくだけです。

古い人は紙と鉛筆でやれなどと言う人がいますが、僕は普段、執筆に使うものでやるのがベストだと思います。

つまり、普段から紙と鉛筆で書いているなら紙と鉛筆で、普段がパソコンならパソコンでやるべきです。

パソコンの場合、テンプレート(文字数×行数)も普段書いているものがいいでしょう。

自分が「見本」を書いている疑似体験ができます。

何でも初心者は「真似る」ということから始まります。

ファンションでも憧れのモデルを真似するように、文章のリズムも好きな作家に似てくるものです。

創作=オリジナリティというのは当たり前ではあるけど、初心者がいきなりオリジナリティを出すなど不可能です。

徹底的に真似してみることで、技術を体感できます。

セリフやト書きのリズム、シーンの始め方終わり方など、すぐに感じる部分もあると思います。

全体を写せば、構成的な部分も気づくでしょう(面白い物語はビートが機能しています)。

模写をつづけていると、やがて最初は憧れであった文章とのズレを感じることが出てきます。

「この文章、自分ならこっちのがいいと思う」

そこにあなたのオリジナリティが芽生えていくのです。

作業としては地味なので「見本」はなるべく楽しいとか、巧いと思えるものがいいでしょう。

小説とちがって、脚本の見本は探しづらいところもありますが、誰だかわからないような作品よりもプロの脚本がいいと思います。

こういった雑誌には映像化された作品や、コンクール受賞作が掲載されます(※受賞作はプロではないです)。

こういった年度ごとのシナリオ集もあります。

※あまり古い作品は時代とのズレがあるかもです。好きな作家であれば構いませんが。

また「模写」は一回やって終わりというものでもないので、いろんな作家のいろんな作品をやってみることで比較ができるようになります。

映像作品をたくさん見るよりも、しっかりと自分の中に入ってくるものがあるでしょう。

ときには「悪い見本」が参考になるときもあります。

そういう中から「やっちゃいけないこと」に気づけたりもします(下手な回想がいかに勢いを止めるか!笑)。

書けない書けないと悩んでいる人は、ぜひ「模写」をやってみてください。巧くなりたければ何でもやる覚悟で。

「半模写」

ここからは模写の応用ではありますが、ただ写すだけでは物足りない人にお勧めです。

「半模写」は半分模写。

トップシーンとか、最初のシークエンスまでは見本を模写をしておいて、途中から自分が書いてしまうという練習方法です。

ストーリーの続きを知らない「見本」を使うと良いでしょう。

途中まで写しておいて「はい、この続きはどうなるでしょう?」という大喜利の感覚です。

答え合わせではありませんが、書いた後、原作者が書いたものと比較できます。

勝ち負けも感じるかもしれません。原作者より自分の方が面白いと思えたら御の字です。

「半模写」は、とくにセットアップが苦手な初心者に有効です。

巧い脚本はストーリーのテンポが早いのですが、初心者はどうしても説明的にセットアップしてしまいます。

また、ストーリーの事件性が弱いと段取りじみてしまいますが、巧い脚本は事件に勢いがあるので大喜利としても考えやすいと思います。

わかりづらかったかもしれないので、具体例を示しておくと、

「朝、目覚ましがなって、朝ごはんを食べて、学校に向かって……」の続きを書けと言われても平凡になりがちですが、

「朝、起きたら、家族が誰もいない。外に出たら、町の人もいない……」の続きだったら、どうでしょう?

勢いが違いますよね(この続きを書いた人がいたら、ぜひ読ませてください)。

物語をどこから始めなくてはいけないか?というのは、けっこう難しい問題で、初心者がなかなか掴めないところだったりします。

「脚本起こし」

これは、映像を見て、脚本化するという作業です。僕が開いた「脚本講習」でも取り入れました。

小説と違って、脚本は文章で完成ではなく、映像になって初めて完成です。

つまり、映像の感覚がない人には良い脚本は書けません。

物語として、ドラマのセンスはあっても、映像的なセンスのない脚本家もいます。

もちろん本質はドラマなので、演出家がフォローすれば良いところですが、映像的なセンスがあるとシーンの組み立て自体が変わったりします。

「脚本起こし」は映像作品を「見本」として、「柱」「ト書き」「セリフ」に書き直していく作業です。

セリフは耳で聞いて書き写し、役者さんの動きや、映像に映ったものをト書きにしていきます。柱はストーリーから判断してつけるだけです。

映像に映っているものは、脚本に書くべきものと考えられます。

脚本で書いてなくても、演出や編集が効果的だと思って映しているものです。

なるほどと思うものもあれば、「何でこんなもの映してるんだ?」と首を傾げるようなものもあります。

「脚本起こし」をしたり、同じような目で映像を見ていれば、演出のセンスが磨かれ、それは脚本を書くときに生きます。

脚本起こしの良いところはハリウッド映画(おおよそ邦画より演出的に優れている)を見本にできるところです。

英語で写す必要はありません(あなたが英語で脚本を書くのでなければ)。

字幕もダメです。字幕はセリフではないので、吹き替え版にしましょう。

吹き替えのセリフは、言い回しが下手な場合もありますが、演出の中でのセリフ回しはたいていの邦画よりも優れています。

「脚本起こし」は演出を学ぶ効果が大きいのです。

「脚本起こし」からの「半模写」に繋げてしまうのも良いでしょう。

「演出模写」

僕はあまりやったことがないのですがカラスさんが「文体模写」と仰ってしました。

文体を模写するとは「この作家ならどう書くだろう?」と想像して、真似て書くことです。

文体というと小説向けの練習ではありますが、脚本では「演出模写」と呼ぶと近いと思います。

好きな映画監督などのイメージをもって考えるというのは、演出の雰囲気をもつことで脚本にもトーンが滲み出ると思います。

日本でいえば「三谷幸喜さんっぽく書こう!」というのと「宮藤官九郎さんのノリで書こう!」というのは、同じコメディでもまるで変わります。

作品や役者でイメージしてもいいでしょう(役者を想定して書くのをアテ書きと言います)。

実は真剣に考え出すと初心者向けではないのですが、自分が書きたい系統がはっきりしてる人には有効だと思います。

以上、いくつかのリハビリ触媒を紹介しました。

「書けない書けない」と悩んでいるぐらいなら「模写」をした方がいいと思います。

どんなものでも量をこなしてトレーニングするということは大切です。

1回では何も気づけないかもしれませんが、10回、100回とやるうちに気づくことがあるでしょう。

反面、「模写」ばかりやってても自分の作品は書けません。

リハビリが終わって、通常生活に戻るタイミングは少し勇気がいるかもしれません。

本末転倒にはならないようにご注意ください。

イルカ 2023.4.3

テーマ触媒のリスト

1:「犯罪者」「コメディ」「ホラー」「ラブストーリー」
2:「脚色」「二面性」「キーアイテム」「サイレント」
3:「回想」「ミステリー」「はじまり」「おわり」「いちばん書きたいもの」
4:「ことわざ」「母親」「光と影」「何も起こらない話」
5:「モノローグ」「イケメン」「夏」「動物」
6:「海」「時代劇」「ブス」「タイトルオマージュ」
7:「音楽」「冬」「セクシーさ」「小説」
8:「山」「父親」「アクション」「ビジュアライズ」
9:「珍味」「春」「兄弟」「冒頭セリフ指定」
10:「想い出」「東京」「植物」「身体障害者」

リハビリ:「模写」「半模写」「脚本起こし」「演出模写」

SNSシェア

フォローする