はじめての小説⑧「小道具・大道具を使う」

次回の読書会より、分析だけでなくて創作の要素をとりいれていくことにしました。
「作品合評会」と称して参加者から作品の応募を募り、講評したりしてしていきます。それに伴い、書いてみたいけど、どう書いたらわからないという方へ向けたヒントを書いていきます。(第一回はこちら

前回は、イメージアイテムとしてキャラクターやテーマを特徴づけるアイテムを使うと効果的だということを話しました。

今回はテーマではない、もう少し身近なアイテムの使い方です。

大道具・小道具のちがい

演劇会などで「大道具係」「小道具係」というのがあったかと思います。

大道具と小道具のちがいは、単純に大きさや手間で分けていただけだと思いますが、物語的にちがった捉え方をしてみましょう。

「大道具」→ 舞台、シーンにあって動かせないもの

「小道具」→ キャラクターのもちもの、衣裳も含む

映画のような映像表現では、会話のシーンでも工夫をします。

役者がテーブルの左と右に座って、交互に顔を映しているだけでは「画的」におもしろくないのです。シーンが長くなると紙芝居のようになってしまいます。

つまり「動き」がないのです。

こういうときに役立つのが大道具や小道具です(小道具はプロップともいいます)。

具体的にシーンでみてみましょう。

小道具をつかう

男女の別れ話というシチューエーションにしてみます。

女「ね……別れたいんだけど」
男「え? 何で?」
女「いろいろ、考えたんだけど、やっぱり私たち合わないかなって……」
男「……わかった」

設定も性格もないまま、適当に書くと、こんな「おままごとの人形」みたいな会話になります。
場所はどこでしょうか? 
喫茶店?
レストラン?
二人の間にはコーヒーカップでしょうか……?

ありがちです。

今回は「小道具」に注目するので、あえてセリフは変えずでプロップだけ加えてみます。

男はジッポーをカチャカチャと鳴らしている。ここは禁煙席である。

女「ね……別れたいんだけど」
男「え? 何で?」

男の手が止まる

女「いろいろ、考えたんだけど、やっぱり私たち合わないかなって……」
男「……わかった」

男はまたジッポーをカチャカチャと鳴らしはじめる。

これだけで小道具の効果がお分かりいただけるかと思います。

ジッポーライター自体にも種類があるので、必要であれば書き込むといいと思います。

どんなジッポーを使ってるかだけでも性格が見えてきます。
キャラクターのイメージに合わなくても、誰かからもらったというサイドストーリーがあるかもしれません。

何度か見せておけば、その人物のイメージアイテムになっていきます。男と別れたあと部屋に置き忘れたジッポーを、大切に扱うか、捨ててしまうかで、女の感情がみてとれます。
(参考記事:文章テクニック18「換喩について」

大道具をつかう

小道具はキャラクターが持ち運びできるので、別のシーンでも使うことができます。
大道具は、シーン限定のアイテムといえます。

また、男女の別れのシーンでみてみましょう。

場所があいまいなレストランかカフェになっていましたが、ファミレスとして、そこに何があるかを明確にしてみましょう。
今回もセリフは変えません。

男女の隣のテーブルに、小さな子供をつれた家族がやってくる。
その幸せそうな家族を、女は見つめている。

女「ね……別れたいんだけど」
男「え? 何で?」

女は黙っている。
店員が、男の食べ終えたステーキ皿を片づけにくる。

店員「お済みのお皿、お下げしてよろしいでしょうか?」

男、あごで応える。

女「いろいろ、考えたんだけど、やっぱり私たち合わないかなって……」
男「……わかった」

家族連れや、店員さんはファミレスという場所にくっついた大道具です。

お洒落な個人経営のバーだったりすれば、ジュークボックスが置いてあったり、馴染みのマスターがいたりして、口を挟んでくるかもしれません。

この会話自体を、まったく異質なところに持ってくると、意外性を生みます。

遊園地のお化け屋敷の中で、別れ話が始まったら?

一緒にボーリングをしていて、女がストライクを決めた直後に、別れ話が始まったら?

ホテルで性行為の真っ最中に、別れ話が始まったら?

この手のハッタリはテレビドラマなんかでよく使われます。唐突なので観客が驚くのです。

シナリオのスクールでも、こういった表面的なテクニックを指導していて「カフェやファミレスのシーンはやめましょう」なんて言われます。

けれど、突飛なシーンは両刃の剣でもあります。

⑥「オリジナリティを出す」で奇抜なキャラクターについても書きましたが、観客を振り回すだけ振り回して、さいごに納得させられないなら、その気持ちは反感に変わってしまいます。

小説でも使える

小道具、大道具というテクニックを脚本として見てみました。

実際は、日本の脚本家はセリフばかり書いて、小道具や大道具については演出家やスタッフに完全に任せていることも多いようです。

また、小説ではセリフばかりが続いても、会話の内容が面白ければ読み進めることはできます。

けれど、そこにちょっとした映像描写を挟み込むことで、そのセリフに含みが生まれたりするのは言うまでもありません。

閃いたら、勢いで書く

何かひらめいくものがあったら、考えすぎずに書いてみることをオススメします。

どこかで見たことあるようなアイデアでも恐れる必要はありません。

作品には必ず、作者の視点が入るので、同じアイデアでも全く同じになることはありません。恐れずに書きましょう。

一番、大切なことは書き上げることです。

書き上げなければ、誰かに見せることもできません。

すてきな作品ができましたら、ぜひ「作品合評会」にご参加ください。お待ちしております。

緋片イルカ 2020/07/25

次回は「ネーミングについて」を紹介してヒントにしていきます。 → はじめての小説⑨「キャラクターの名前を工夫する」

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