※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。
※あらすじはリンク先でご覧下さい。
https://amzn.to/3SFcJaa
【ログライン】
エヴァは幼少期から頭脳明晰でそんな格闘技もこなせた。しかし薬物とアルコール中毒になり、家族・恋人から逃げるように軍隊に入った。その時の縁で女暗殺者として活動することになる。
暗殺される人間へ消される理由を問うエヴァ。それを危険視する組織にある依頼で偽の情報を掴まされ消されそうになる。先輩であり恩師のデュークに休暇をすすめられ、8年ぶりに家族と会う。すると母は入院・妹はギャンブル癖のある元恋人マイケルと付き合っていて妊娠もしていた。過去と向き合い折り合いをつけていく中で、デュークがサイモンに殺される。不安分子であるエヴァも狙われるがサイモンを返り討ちにした。次はサイモンの娘に命を狙われる毎日が始まる。
【ビートシート】
Image1「オープニングイメージ」:「車の中で身だしなみを整える」
口紅・髪型を整え、ハンドルを握る手にはネイルが施されている。
赤い口紅とネイル。ブロンドの髪。ステレオタイプの美女像。
→女暗殺者として変装(能力)が必要とわかるシーン。
CC「主人公のセットアップ」:「何をしたかという問答」
始末する人間に何をしたか尋ねる。殺されるほどの悪いことを知りたがる。
「幸せな人は最後にわかる。これは言い換えると幸せな人はいい最期が与えられるということ」
→ターゲットの尊厳を守ろうとするように見えて、実はエヴァ自身への問答を重ねている。
人間の善悪について他人の理由を参考にしようとしている。
(「ジャンルのセットアップ」)
ターゲットを術中にはめ、殺す。優秀な暗殺者を表すシークエンス。
Catalyst「カタリスト」:「カミーユの盗聴」「幸せな人の最期」
エヴァが依頼をこなしている最中、カミーユはその様子を盗聴している。
何か探っているようで、この時点ではカミーユが組織側の人間ともわからないがエヴァが殺される理由を問答しているのを眉をひそめて聞いている。
いい最期(幸せな人の最期)を与えたいとエヴァは問答する。
→本来ならば暗殺者とターゲットの関係での会話は許されないとする組織がエヴァを危険視しているのがわかるシーン。証拠を掴んでいる。
エヴァがターゲットに興味津々に問答しているシーンでもある。
Debate「ディベート」:「プレゼントボックス」
エヴァにサウジアラビア・リアドでの仕事に必要なものが届く。
→危険視しているはずのエヴァに仕事道具が届く。
Death「デス」:「情報のミス」
組織からデュークづてに聞いていた情報が誤っていた。
そのため暗殺がバレ、心筋梗塞に見せかけたかった案件のはずが首を掻き切ることになる。
兵士たちと戦いながらなんとか逃げおおせる。
→情報の過ちなど許されない仕事。
ここで考えるべき選択はデュークの裏切りか組織からの抹殺のどちらか。
PP1「プロットポイント1(PP1)」:「休暇を与えられる」
エヴァが会いに行くと「脱字ミス」「俺の責任」と話すデューク。
エヴァは自分の能力が高いと話し、消すなら今やってほしいと怒るが、デュークは手を打ってあるから忘れろと言われてしまう。
ターゲット暗殺の理由を聞き、叱られる。しばらく隠れていることを提案される。
ボストンの家族とケリをつけることを望むエヴァ。すでに休暇を申請してあるとデューク。
→家族とケリをつけるための冒険に入る部分。
薬物・依存症・「やらなきゃやられる」などのこれからに繋がるフレーズが出てくる。
Battle「バトル」:「ジョギング」「ギャンブルハウス」「デュークVSサイモン」
夜ジョギングをしていると監視役に襲われた。
→家族とのケリをつけている最中にも命を狙われているのがわかる。
今まで一貫して監視役だった人物が、エヴァを消すように指示され襲った。
この監視役はミスを被るといったデュークを驚かせるための指や歯を指示されただけで、殺すまではしなかったように思う。しかし、エヴァにとってはリアドでのミスで抹消されそうになっていると感じる出来事になる。
これをきっかけにデュークに詰め寄るが、デュークの父性に涙し信頼する。
マイケルがいたのは昔なじみのギャンブルハウスだった。
→妹の元に帰すため実力行使。
マイケルに心配されヨリが戻せるのかと期待を見せるが、婚約を聞く。
妹とマイケルの間で自分勝手に揺れ動いているのがわかる。
エヴァだけが8年前のまま。マイケルが遠くなり悲しんでいる。
デュークはサイモンがエヴァを消そうとしていることを掴み、交渉に向かうが決裂する。
→デュークがエヴァを大切にしているのがわかる。
Pinch1「ピンチ1」:「カミーユ」
カミーユはサイモンの連れ子。サイモンとともに組織に属している。
サイモンはデュークを息子の洗礼を理由に返したがカミーユは「義理の弟」と言う。
→サイモンは家族を大事にしているようだが、カミーユは暗殺業に置いている。
弟のことを話すときも不機嫌そうにし、自分は大切にされていないというような雰囲気が出ている。
MP「ミッドポイント」:「思い出の店」
エヴァ・ジュディ・マイケルの3人で食事をする。
10分以上妹を称賛する話を聴く。
→母親から提案された3人での食事が実現する。
提案時はだれもがノリ気でなかったが、妹の話で盛り上がる。
ケリ=家族との関係修復とするならMPだと思った。
Fall start「フォール」:「ジュディの拒絶」
マイケルがエヴァに話しかけること・構うことを嫌がる。
そして自分が家で話したことを話すなと怒りだす。
→姉にまだ不信感がある表れ。神経質になっている。
父の葬儀も1人で取り仕切り、母の世話もしている。恋人は姉の元婚約者。
大変なことを押し付けて消えた姉を許すには時間がかかる。
Pinch2「ピンチ2」:「ダニエラ」
話の最中にサイモンの娘ダニエラがやってくる。
ダニエラにデュークが「いい仕事を教えてあげよう」と暗殺業を示唆するとサイモンはダニエラを母親の元へ帰した。「レディのする仕事じゃない」
→カミーユは同じ仕事をさせるがダニエラはレディのすることじゃないと遠ざけた。
カミーユの中で一層の孤独感が生まれるシーン。
PP2(AisL)「プロットポイント2」:「ジュディ
妊娠」
デューク殺したサイモンからの殺害予告を受け、マイケルに一緒に逃げようと懇願した。
しかし、妹の妊娠発覚を告げられる。
→恩師であるデュークが死に、すがりたいサイモンにも突き放されるシーン。すべて失う。
DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「嫌な人間だと気づく」
トニに殴られながら「41人殺して妹の彼氏を奪おうとして、はじめて自分が嫌な人間と気付いた」と告白する。
→ずっと不確かだった自分の悪の部分を理解する。
BBビッグバトル:「サイモン」
サイモンが部屋に侵入してきて戦う。
戦いはほぼ互角。決定打になったのはエヴァがサイモンの足を折ったからだった。
逃げるサイモンを追いかけ、残りの足も撃ち抜き、5秒カウントすると言いつつ1秒で撃ち殺した。
→理由を問い続けたエヴァが理由も聞かずだまし討ちで殺したのは「理由を聞くまでもない悪」だからか「自分が嫌な人間だと知って他人の答えを聞く必要がなかった」のか微妙なところ。
image2「ファイナルイメージ」:「手紙(モノローグ)」
デュークが亡くなったら届くようになっていた手紙。
「死ぬときに何が大切だったか知る。最期なら自分で選べる。自分は幸せだった」
→おそらくエヴァに出会えて幸せだったと伝えたかったのであろうと推測できる。
エピローグ:
エヴァを尾行するカミーユの姿。
【感想】
頭脳明晰で察しがいいはずの彼女がなぜ41人も殺して妹の婚約者を奪おうとしなければ己の醜悪さに気付けなかったのか、という部分に疑問が残りました。
おそらく元々心では「いい最期は迎えられない=いい人間ではない」という気持ちがあったからターゲットに問答を続けていたのかな?とは予想できましたが……
暗殺対象にならないわりにはエヴァとサイモンの家族がしっかりと描かれているし、2人ともすぐに家族を心配するのでそのあたりも消化不良でした。
何を見せたかったのか?と考えると組織への反逆よりエヴァの在り方なんでしょうが、なんだか雑だなと。
見せるものがエヴァならアクションシーンも短めでポンポンと入っていて見やすく、最後も考えさせられるような感じで好みでした。色のトーンも好きです。
(雨森れに、2022.10.02)
知能の高さと倫理観は別ということなんでしょうね。悪人は自分のことを悪人だと思っていないというのもあると思いました。
どんな悪いことをしたのかという質問はデュークがラストで語りますが、死とは何か、人生とは何かわかっているのか、つまりご指摘の通り、善悪についてということなんでしょうね。
「依存症の岐路」としてこの映画を見ると、以下のような見方もできます。
依存症は自分にとって人生とは何なのか正しく認識できていないために逃避に向かってしまうものということなのでしょう。
エヴァは飲酒を止めて、暗殺という仕事に逃避していた。デュークの言う通り、質問がやめられないのは彼女の依存症としての症状のようです。サイモンが家族を大切にするために仕事に真剣であったのと対照的です。
細かいビートの話になりますが、依存症の話として見ていくと、ディベートの間に家族とのBストーリーで母親からマイケルに会ったら自分を押し付けるなとエヴァの問題がつげられています。彼女は他人のために、それが自分のためにもなるわけですが、行動するよう学ばなければいけません。
そうすると、MPはマイケルをギャンブルハウスで救出する、まやかしの勝利、他人のために行動する、ととらえることもできます。マイケルに驚異的な体術を怪しまれ、AとBストーリーが交差し、そのあと妹を無視した行動でマイケルに拒絶されフォールです。
そうすると、ピンチ1は監視役にエヴァが襲われたところと見ることもできます。ここで裏切られたショックから依存症の兆候がでて、3人の食事に入って、結果、妹を怒らせ、マイケルをギャンブルに向かわせるポイントだからです。
2幕前半としては休暇中の刺客の話として、後半のピンチ2デュークの死につながっていく、とまとめることができます。
DNでエヴァは暗殺者にもなれず、飲酒を始めてしまい、自殺を図りますが、それを止めるのがサイモンです。つまり殺害されたデュークです。彼女に人生とはなにかを思い出させた。サイモンに最後の質問をしなかったのは聞くまでもないというのと、もう依存症としての殺人ではないということの表現だと感じました。
カミーユは愛されなかったエヴァと重ねられ印象的でしたね。