映画『燃ゆる女の肖像』(三幕構成分析#104)

※この分析は「ライターズルーム」メンバーによるものです。

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【ログライン】

女流画家マリアンヌが望まぬ結婚を控えるエロイーズの肖像画を描くうちに気持ちを通わすが、絵の完成とともに別れる。

【ビートシート】


Image1「オープニングイメージ」:「なし」
教室の生徒のスケッチが映されるが特に大きい意味はなさそう。
強いて言えば、これが絵に関わる話だと匂わせている?

CC「主人公のセットアップ」:「女流画家」
「ジャンルのセットアップ」
女性軽視の時代に生きる女流画家マリアンヌ。
自分が描いた作品を出してきた生徒に対して「(出して来たら)困るわ」と言う。
表に出されたくないような思いが込められた作品について。

Catalyst「カタリスト」:「海・船」
荒い波でキャンバスを落とし、自分で泳いで取りに行く。
自分にとって大事なもの=絵に必要なもの。
乗員(男性ら)は見ているだけで助けない。
世界観のセットアップもされている。

Debate「ディベート」:「前の画家は描けなかった」
男性画家が来たが描けなかったと聞く。
応接間には顔だけがない肖像画があり、戸惑っている。

Death「デス」:「依頼を受ける」
ただの肖像画の依頼でない事を知る場面。
散歩相手と偽って、こっそり肖像画を描けるかと質問される。
画家だからできると快諾。
肖像画を描くしかなくなる。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「エロイーズと散歩」
散歩相手としてエロイーズと外に出る。
後ろ姿、こぼれる髪の毛、顔。画家目線での観察がカメラワークに取り入れられている。
描くためにエロイーズとの交流が始まる。

Pinch1「ピンチ1」:「修道院には娯楽があった」
図書館、音楽などがあり、人はみな平等だった=今は違う。

MP「ミッドポイント」:「絵の完成」
時間を貰い、絵を完成させる。目的達成。

Fall start「フォール」:「顔を消す」
「似ていない」と言われ、プライドが傷つき顔を消す。
母親の怒りを買い、追い出されそうになるがエロイーズがモデルをやると言ったことで振り出しに戻るだけになる。

Pinch2「ピンチ2」:「3人での日々」
ソフィを混ぜた3人でカードゲームをし笑い合う。
娯楽であり、平等の日々を過ごしている。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「最後の夜」
絵が完成し、思い出を語り合うふたり。
あとは母親が帰れば、別れることになる。すべてを失う。

BBビッグバトル:「別れ」
幻視で見ていたウエディングドレス姿のエロイーズと別れの抱擁をし、逃げるように階段を駆け下りる。
愛のためにエロイーズは「振り返ってよ」と言い、マリアンヌは画家として振り返る。
オルフェウスの話から切り取った、ふたりの永遠の別れ。
教室で生徒に悲しそうと言われるが、マリアンヌは「今は違う」と話す。無理やりにでも気持ちに整理がついている様子。

エピローグ:
最初の再会は肖像画で、最後の再会はオーケストラで。
オーケストラでは思い出の四季・夏で感情を揺さぶられるエロイーズがいた。
一度も自分と目が合わなかった。

【感想】

姉の手紙「許して」とマリアンヌの「許して」、オルフェウス話と2人の別れ、本を貸し本を朗読する、隠れてのスケッチと思い出に残すスケッチ、細かい部分に繊細な対比があるように感じました。
別れの際に母親に抱擁することでエロイーズにも抱擁することができたシーンはぐっときました。

女の手伝いはしない。女は結婚の道具。女が画家だなんて発想がない。
これが前半にしっかり描かれているからこそ、後半の女だけの生活が活きていると思います。
ソフィの堕胎の話があったように、島に男性がいるはずなのにずっと女性だけの世界。
レズビアンものによくいる女性的な男性もいないのは珍しいかもしれません。
男性が出てくることで、急に現実感が出て引き戻される感覚がして物語を引き締めているなと。
マリアンヌとエロイーズにも時代特有の達観や諦めがあって、だからこそ少しドライな儚い美しさに繋がっているようにも思えます。
最後の再会の長回しで何の顛末もわからないモヤモヤを感じる人もいると思いますが、私は余韻を感じられました。
おそらくこの時代は、そういうもので、口に出せずにモヤモヤと消された感情が多かったのではないでしょうか。
すべて納得させられてしまうほどの時代の描写、題材の取り上げ方に気持ちよさを感じた作品でした。

(雨森れに、2022.12.26)

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