映画『見える子ちゃん』(三幕構成分析#246)

https://amzn.to/48zpHl8

※あらすじはリンク先でご覧下さい。

※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。

【ログライン】

(父の死をきっかけに)霊が見えるようになった高校生・四谷みこは、霊を引き寄せやすい体質の親友・百合川ハナを次々襲う悪霊と対峙する中で、産休の荒井先生の代理として赴任してきた遠野善が過保護な母の怨霊と別れを告げる姿を見たことで、自身の父の霊と和解する。

【フック/テーマ】
女子高生に霊が見えるようになったら/死者との和解

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「なし」

GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「ホラー」
みこが文化祭の出し物投票で挙手した人数を数える中で、霊の分まで数えてしまう。
窓際の席で手を挙げているのが霊であると気づく。

want「主人公のセットアップ」:「霊が見える」
みこは自分には見えている霊が、他の同級生には見えていないことに気がつく。
誰にも言わず、その場をやり過ごす。霊に対して、取り合わず、見えないふりをする。
「無視」はみこの家族に対する態度のメタファーとしても意図されている。

Catalyst「カタリスト」:「ハナの肩に霊の手が付いている」
朝学校に向かうと、笑顔で手を振るハナの肩に霊の手が付いているのに気がつく。
プロットアーク的なカタリストは「霊が見える」場面であるが、みこのキャラクターアークとしては「ハナの肩に霊の手が付いている」のを見た瞬間である。プロットアーク的にはここはPP1に相当する。観客には終盤まで伏せられるが、みこが霊が見えるようになったきっかけは父の突然の死であり、日常としての霊が見える状態はもっと前から始まっている。霊に対して「気づかないふりをしてやり過ごす」ことで対処していたみこの日常が、親友・ハナに悪霊が襲いかかることで崩れていく。

Debate「ディベート」:「それとなく霊を遠ざけようとする」
みこはハナに塩を掛けたり、(新井先生に迫る霊をわざとらしい嘘で遠ざけたり)、数珠を渡したりと、それとなくハナから霊を遠ざけようとする。プロットアーク的にはバトルに相当する。

Death「デス」:「数珠が弾ける」
厄除けのためにハナに渡した数珠が弾ける。悪霊の腕がハナの腹まで伸びていることに気づき、危機が迫っていることを知る。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「神社に行く」
ハナを神社に連れていく。

Battle「バトル」:「神社の鳥居をくぐる、旧校舎の倉庫の霊と会う」
嫌がるハナを無理やり連れて鳥居をくぐると悪霊は離れ、ハナは助かる。
写真部の「見える子」である二暮堂ユリアに連れられ、みことハナは旧校舎の倉庫の霊と対峙するが、「そういうのがダメ」なハナは倉庫から逃げ出す。

Pinch1/Sub1「ピンチ1」/「サブ1」:「夕食を作るみこ」
位置的には冒頭アバンタイトルの部分。みこが夕飯の唐揚げを作っていたところに、母が仕事を終えて帰宅してくる。食卓に父の霊が登場するが、父が死んでいることはこの段階では明かされない。

MP「ミッドポイント」:「遠野が赴任」
産休の新井先生の代わりに赴任してきた教師・遠野善。背後には、ぴったりと黒い女性の霊が憑いている。内向的ながら甘いマスクで生徒から人気の遠野だが、新井先生の元恋人なのではと噂される。
みこは遠野に憑いている黒い女性の霊にただならぬものを感じる。

Reward「リワード」:「ハナを守る」
ハナが悪霊を引き寄せる体質だと知っているみこは、委員長であるハナを遠野に近づけさせないよう毅然とした態度で臨む。文化祭の出し物がようやく決まり、準備に向けてクラスの士気は高まるが、みこはお化け屋敷の準備に紛れて集まる霊を気にして、ハナを守ることを第一に考える。

Fall start「フォール」:「ハナが女性の霊に襲われ始める」
委員長であることを理由に遠野と近づいてしまい、ハナは悪霊に襲われ始める。
悪霊に生命力を吸い取られ、明らかに生気を失っていく。クラスで撮影した集合写真のハナの顔が、女性の霊のものになっている。ハナを夜の神社に連れていくものの、悪霊に拒まれて鳥居をくぐることが出来ない。

Pinch2/Sub2「ピンチ2」/「サブ2」:「母と喧嘩」
連絡をせずに帰りが遅くなったみこに、母親は夕食を済ませたことを告げる。みこは返事をせずに自分の部屋に戻る。翌朝、母に謝るようみこを諭す父。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「ハナが入院」
文化祭の前夜祭の日、ハナが目覚めず、病院に入院する。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「ユリアに助けを求める」
ユリアに霊が見えることを打ち明け、助けを求める。

BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「ユリアと協力」
みこはユリアと協力して女性の霊に挑み始める。ユリアは、遠野とハナが懇意にしていることで、おそらく遠野に振られた元恋人である新井先生が生き霊としてハナを襲っているのではないかと推理する。

Twist「ツイスト」:「新井先生と電話」
みこは、たまたまハナと同じ病院に入院していた新井先生と電話する。遠野は新井先生の幼馴染で、女性の霊は新井先生の生き霊ではなく死んだ遠野の母であると分かる。過保護な遠野の母は想いの強さのあまり、死んでなお遠野を蝕んでいた。

Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「遠野が母の霊と対峙」
日没が迫る中、みこは太陽が出ているうちに遠野に鳥居をくぐらせること霊を祓おうとする。
ユリアと協力し、遠野から母の霊を引き離すことに成功する。
怒った母の霊はみこを襲うが、神社の祠から不思議な光が差してみこを守り、霊をかつての母の姿に戻す。遠野は母と対峙し、別れを告げる。ハナは退院する。

Epilog「エピローグ」:「ユリアとアイスを食べる」
ユリアはアイスを食べながら、両親の事故死について話す。両親に会いたいと思ったことが「見える子」になったきっかけであると話す。みこも、父の死がきっかけだと打ち明ける。序盤から登場していた父が霊であると観客に初めて明かされる。

Image2「ファイナルイメージ」:「父にプリンをお供え」
みこは仏壇に、父が死ぬ直前の喧嘩の原因となったプリンをお供えする。喧嘩していた母と仲直り。父にこれからも家族と前向きに生きていく姿を見せる。

【作品コンセプトや魅力】

 漫画原作もの。「ある日女子高生に幽霊が見えるようになったら」というシンプルなコンセプト。恐怖がメインテーマになるような本格的ホラーではなく、主人公・みこの日常の変化を通じて、家族との絆やクラスでの等身大の青春が描かれる可愛らしい作品。

【問題点と改善案】(ツイストアイデア)

 序盤の立ち上がりが遅く、何に関心を持って観れば良いか定まるまで時間がかかった。物語、主人公のセットアップが不十分なまま終盤に駆け足で要素を詰め込んだ印象が強く、結果として尺に対して大きなドラマ的盛り上がりを作ることができないまま終わってしまった印象。
 物語の大部分は「親友・ハナを悪霊から守る」というプロットラインに費やされているが、みこ自身の問題(父との和解)は、遠野のサブストーリーを通じて間接的に解決される。主人公自身の内的な葛藤が物語の主軸にはなっていない。また序盤で設定された「霊に対する無視はみこの家族に対する態度のメタファー」という点が、その後の過程で十分に活かされていないようにも感じた。当初は霊を「無視」していたみこが、ハナを守るために積極的に関わるようになり、最終的には父のというみこ自身の問題と向き合う。この変化をもっと丁寧に描くことで、キャラクターアークがより明確になったのではないか。「父が霊である」という事実が終盤で明かされる構成も、サプライズとして機能するに留まった印象。
ツイストアイデアとしては(家庭の話はばっさり切捨ててしまって)、「見えること」よりも「見えることを受け入れられず孤立すること」への恐怖を主人公・みこの目線でも描くことで、ハナや級友達との対立と和解の過程を描くというもの。終盤、同じく「見える子」であるユリアは、「見える」ことで孤立した不遇な過去について話す。しかしこの過程を本作では主人公・みこは経験せず、ユリア個人の問題に留まっている。本作では、親友・ハナに霊の存在を打ち明けないことは、心霊ものが苦手な彼女への優しさとして描かれる。一方、このユリア個人のエピソードをプレミスとして置いて、「打ち明けられないこと」をみこ自身の枷として物語を進める方向もあり得たのではないか。その場合、ハナ自身がなぜ心霊が苦手なのかについてのセットアップも必要になるだろう。

【感想】

「好き」3「作品」2.5「脚本」2
 観客を純粋に怖がらせるホラー作品ではないため、ヒューマンドラマや日常コメディといった他の要素で物語を推進する力が必要だった。ジャンルを横断する多様な要素が散りばめられていた点は個性的だが、焦点が絞りきれていない印象を受ける。「ホラーを装ったコメディ」なのか、「ホラーの世界観で展開する人間ドラマ」なのか、早い段階でジャンルの設定を明確にするべきだった。それが曖昧だったため、最終的にはホラーという大きな文脈に回収されてしまい、ホラーとしても、ヒューマンドラマとしても、コメディとしても物足りなさを残す結果となった。
しかし、この「つまみ食い」的な多様性は、例えばデートムービーのような場面では幅広い層が楽しめる魅力となり得るだろう。女子高での生活感溢れるリアルなやり取りが楽しい。個人的には「文化祭の出し物の投票が何度もやり直しになってしまう」というのは、掘り下げればそれ単体でコメディとして成立する設要素だと思う。女子トイレでわっぱ弁当片手にぼっち飯をしているなえなのも、ただただ愛らしい。

(さいの、2025.10.05)

ライターズルームへの仕事依頼

SNSシェア

フォローする