※あらすじはリンク先でご覧下さい。
※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。
【ログライン】
地獄で罪人救済用のホテルを運営するチャーリーは、スタッフや宿泊者たちと熱量が一致せず悩んでいたが、天使軍のリーダー・アダムと話し合えることになり、上機嫌でアダムに会いに行く。しかし全く話を聞かないアダムから、地獄での次の殲滅作戦を半年後に前倒すと宣告され、絶望する。
【フック/テーマ】地獄に墜ちた罪人の救済、過激なブラックコメディアニメ/どんな悪人にも更生や救済の余地はあるのか
【ビートシート】
Image1「オープニングイメージ」:「本の中の天国」明るく輝く天国の画。
GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「地獄の成り立ちについて書かれた本」、「皮肉たっぷりのホテルCM」地獄や天国が舞台となるファンタジーアニメであること、ブラックコメディであることが示される。
Premise/CQ「プレミス」/「セントラル・クエスチョン」:「チャーリーは、地獄に墜ちた罪人たちを更生させ、天使軍による殲滅作戦から救うことができるか」
want「主人公のセットアップ」:「罪人更生用のホテルを運営する、地獄のプリンセス」明るく前向きな主人公像も提示される。
Catalyst「カタリスト」:「支配人・アラスターが作ったホテルCMを見る」
Debate「ディベート」:「アラスターや他のスタッフ、宿泊客たちとの温度差や方向性のずれについて悩む」本気で罪人を更生させ、天使軍による殲滅作戦から救いたいと思っているチャーリーと、やる気のないスタッフや宿泊客たちとの温度差が描かれる。ここで主要キャラクター達の顔見せも一気に行われる。
Death「デス」:「アダムとの会議に出席することを承諾し、それをヴァギーに報告」父・ルシファーから電話が掛かってくる。天使軍のリーダー・アダムとの会議に出るよう依頼され、喜んで引き受ける。
PP1「プロットポイント1(PP1)」:「歌いながら上機嫌でホテルを出る」パートナーであるヴァギーの制止も聞かず、ホテルを飛び出す。本作における最初のミュージカルパートが始まる。
F&G「ファン&ゲーム」:「地獄の惨状を目にしつつも、高らかに歌いながら目的地を目指す」 ただでさえ秩序が崩壊している地獄には、モラルの欠片もない住民たちが好き放題にのさばっている。更には天使軍による殲滅作戦の直後でもあるため、街は散々な状況。そんな様子を意にも介さず、明るく朗らかに住民たちと歌いながらアダムのもとへ向かう。
Battle「バトル」:「ファン&ゲーム」と同じ。
MP「ミッドポイント」:「アダムとの会議場所に到着」熱く歌い上げてミュージカルパートが終わったところで目的地に到着。天国そのものではないが、天国の門のようなものが建っている。
Reward「リワード」「アダムに会う」:
Fall start「フォール」:「アダムにからかわれる」
チャーリー:実はアダム本人は現地に来ておらず、アダムのホログラムと話すことに。人を舐めくさった態度のアダムに、からかわれまくる。
ヴァギー:ホテルCMを撮り直すが、うまくいかず中断。
PP2(AisL)「プロットポイント2」:「アダムに地獄の人口過密問題を訴えるも、一蹴される」
チャーリー:天使軍による地獄での殲滅者数をアダムから陽気に聞かされ、全く取り合って貰えない。
ヴァギー:CM撮影難航に一人で悩む。
DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「アダムに、殲滅作戦のことを批判」
チャーリー:そもそも天使軍による殲滅作戦自体がおかしいと訴える。
ヴァギー:アラスターとの取引に応じる。
BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「罪人の更生計画について、アダムにプレゼン」
チャーリー:ミュージカルパート2。明るく歌いながら自分の考えた更生計画について説明しようとする。しかしすぐさまアダムの歌によって遮られ、計画を否定される。
ヴァギー:衣装替えをし、皆でCM撮影を再開。
Twist「ツイスト」:なし。
Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「半年後に次の殲滅作戦を行なうと宣言され、その場から追い出される」アダムを説得して罪人の更生計画を理解して貰うどころか、逆に年1回のはずの殲滅作戦を半年後にまた行なうと告げられる。一方的に会議を打ち切られ、追い出される。
Epilog「エピローグ」:「阿鼻叫喚の住民たち」、「天使の遺体を見つける天使軍」
次の殲滅作戦が半年後に早まったことが、地獄内に知れ渡る。パニックになる地獄の住民たち。一方、殲滅作戦中に殺された天使の遺体を発見する天使軍。天使が殺されるという前例のない事態に、アダムと部下が話し合いをしている。
Image2「ファイナルイメージ」:「地獄での大虐殺を目論み、ほくそ笑むアダム」天使殺しを理由にすぐさま地獄へ報復すべきと主張する部下を宥め、邪悪な笑みを浮かべるアダムの顔だけが最後に浮かび上がる。
【作品コンセプトや魅力】
2019年にアメリカでパイロット版が公開された、「大人向けインディー・ミュージカル・シチュエーション・コメディアニメ」のシリーズ版第1話。
ディズニーアニメをオマージュしているかのように明るく元気なプリンセスを主人公とし、キャラクター達によるミュージカルパートが毎話織り込まれているが、内容はかなり大人向けである(一部、R-18指定の回も存在)。
カートゥーンアニメ調のポップな世界観ながらエログロ要素が盛り沢山で、インパクトの強いキャラクターや描写、設定、展開が目白押し。ブラックコメディとしても非常に笑いやすく、キャッチーな作風が魅力的である。
だが、実はポリティカル・コレクトネスの観点からみても面白い試みをしている。
いわゆる「地獄」を物語の舞台としており、生前に地球で罪を犯した人間たちが様々に姿かたちを変えて生活している。彼らの大半は倫理観に欠けているので、犯罪行為や差別的な言動などが何度も出てくるが、批判されてしかるべき言動はもっぱら地獄のモブキャラや敵キャラに行なわせ、主人公サイドのキャラクターはそうした価値観に対抗、否定する存在として描いている(勿論、主人公サイドも地獄の住民なのでインモラルな言動はいくらでも行なうが、生々しい差別発言などではなく、より誇張された極端な悪行に留めることで差別化が図られている)。
例えば、パイロット版の時点で「自分は『正常』だから同性愛者が嫌い」といった旨を公言して憚らない脇キャラが出てくるが、チャーリーとヴァギーはレズビアンカップル表象として描かれている。他にも主要なキャラクターとして、性産業従事者やギャンブル依存症、アセクシャル・アロマンティックの可能性が高い人物などが登場する。
シンプルに過激なブラックコメディとして魅力的である上、そうした作風を逆手にとり、反転的にポリティカル・コレクトネスを尊重する姿勢を示そうとしている点も、本作の魅力であると個人的には考える。「ポリコレを無視して好き放題やっているから面白い」のではなく、「好き放題やっているように見せかけて、実は丁寧な配慮があちこちに見られる」ことが本作の巧さであるように思う。
【問題点と改善案】(ツイストアイデア)
第1話に限っていえば、特殊な設定を初回の冒頭であらかた説明する為に、若干無理をして駆け足になっている印象。主人公のナレーションで、本の内容を一気に朗読させることによって世界観を説明。次いで主人公たちの居場所であるホテルの説明を、試作CMという形で見せている。短尺で最大限の情報量を盛り込むという意味では効率的だが、前提情報を怒涛の勢いで詰め込まれる為ややついていきづらく、人によっては初見ではすんなり頭に入ってきづらいかもしれない。もっとも、雑に聞き流していたとしても、その後を見続ければ自然と状況が把握できるようにはなっている。
主人公のチャーリーが罪人を更生させたがっている動機として、天使軍による地獄での殲滅作戦(大量殺戮、エクスターミネーション)から、罪人を逃れさせたいというものがある。しかしセットアップの時点ではその動機が主に台詞によって駆け足で説明されるため、PP1において何故アダムとの会議に意気揚々と出かけていくのか等、初見ではあまりピンとこない可能性がある。そういう意味では、冒頭でただ燃える街並みを見せるだけではなく、天使による住民殺しの様子や、それを見て心を痛めるチャーリーの様子などを一瞬挟んでも良かったかもしれない。ジャンルのセットアップとしてはブラックコメディであることを伝えたいので、冒頭から重苦しい雰囲気にする必要はない(むしろ避けたい)が、現状から大きく印象を変えないまま、チャーリーの行動原理をより分かりやすくすることができたのでは。
よく見ると燃える街並みをある程度しっかり映してもいるのだが、地獄のカラーリングが基本的に赤系統であることも相まって、殲滅作戦直後の凄惨な状況であることがやや伝わりづらくなっている印象。
とはいえ、上記は強いて言えば程度のことであり、構成的にそれほど目立った欠点は見当たらないように感じた。分析表で見るとPP1やPP2の位置が大幅にずれているようにも感じるが、全体尺が22分で実際は数分のずれである為、構成として大きく崩れているという訳でもない。
【感想】
第1シーズン全8話における冒頭12.5%として分析するか、あくまで第1話単体のみを分析するかによって若干見方は変わると思うが、ひとまず今回は22分間における三幕構成的なものを見出すことにした。カタリストは「アラスターのCMを見ること」としたが、「父・ルシファーからの電話」をカタリストとし、それまではセットアップと見ることもできよう。ただしその場合、アダムとの会議への出席を即決しており、ディベートにあたる部分がほぼ無いように思う。
複数話をひとつのまとまりとして分析するのであれば、アダムとの会議、あるいはアダムから殲滅作戦の前倒しを告げられることがカタリストとなり得るかもしれない。いずれにせよ、シリーズ全体を通しての構成とは別に、各話のたった22分にも細かくビートらしきものを入れることで、短い尺の中でも様々な出来事や波が発生しているように見せることができるという点で勉強になった。
F&Gは「お楽しみ」とも言われる要素だが、ここを一発目のミュージカルパートとして主人公が一曲歌うことのみに振り切っており、ある種の潔さも感じる。
キャッチーなキャラクター達、ブラックコメディとしての前衛的かつ笑える描写の数々、そしてただ過激なだけではないメッセージ性など、個人的にはかなり好きな作品。現在シーズン2まで公開されているが、まだまだ明かされていない謎や設定、伏線も多く、単純にストーリー自体も面白いので、続きが気になって仕方がない。
「好き」5「作品」3「脚本」4
(しののめ、2025.12.25)

