https://www.tbs.co.jp/antaga_tbs/
https://tver.jp/series/srp2094kb1
※あらすじはリンク先でご覧下さい。
※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。
【ログライン】
鮎美からプロポーズを断られるも自分の何が問題か分からない勝男は、会社の後輩・南川の助言通り筑前煮を作ってみることにするが、初めての料理に悪戦苦闘し失敗。ヘソを曲げ一度は料理を封印するも、後輩・白崎との喧嘩をきっかけに麺つゆを作ったことで、今まで自分が間違った決めつけをして生きてきたことに気づき、変わりたいと決意する。
【フック/テーマ】
プロポーズの失敗、料理、時代遅れな価値観/人は変われるか、無自覚な決めつけからの脱却
【ビートシート】
Image1「オープニングイメージ」:「鮎美に振られる」
ビート的にはカタリストに相当する場面を先にトップシーンで見せている。夜景の見えるレストランでプロポーズするも鮎美に「無理」と拒絶され、破局。勝男には鮎美に振られた理由に全く心当たりがなく、「なんでー!?」と叫ぶ。この後、プロポーズに至るまでの前日譚を描く形での回想がスタート。このトップシーンの存在こそが本作の構成上の最大のミソである。「本作がどのような見方をするドラマであるか」つまり「無自覚な勝男を滑稽な存在として眺める」というコンセプトを、叙述的にでなく、劇的アイロニー(登場人物と観客の情報量の差)を使ったコメディの趣向を生み出すことで構成で示している。(詳しくは後述)
GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「ヒューマン(コメディ)」
ジャンルとしては基本的にはヒューマンドラマであるが、冒頭に「勝男の叫びが宇宙空間の『惑星カツオ』を破裂させ、破片が流星群となって地球上の勝男を濡らす雨となる」といったややコメディタッチな演出を最初に挟むことで、手札としてこういうのがアリなドラマであることをセットアップしている。
Premise/CQ「プレミス」/「セントラル・クエスチョン」:「勝男は変わることができるのか」
want「主人公のセットアップ」:「悪気なく自分の考えを押し付ける人間」
職場では「男が朝から料理する訳ないだろ」「家で料理して愛する人を待つってのが女の幸せだと思うけどな」と言ったり、料理を作ってくれる鮎美には「強いていうなら全体的におかずが茶色過ぎるかな」と言う勝男。口癖は「完璧」。自身にも周囲にも常に完璧を求める勝男だが自分の攻撃性には無自覚であり、鮎美含め周囲の誰も彼の問題を指摘しない。プライドの高さと謎の自信がそれを許さないのである。
そんな中、勝男は「責任を取る」ため鮎美へのプロポーズしようとしている。それとなく指輪のサイズを確認し(鮎美にはバレバレ)、「やっぱり、俺たちは完璧でなきゃ」と憧れのトレンディドラマのような完璧なプロポーズを計画する。最初のwantは「プロポーズを成功させたい」。
Battle「バトル」:「プロポーズの準備」
「完璧」なプロポーズを目指して、レストランを予約し、結婚指輪を買う勝男。ネクタイ選びにも余念がなく、なぜか仕事のプレゼンも大成功。全てがトントン拍子に進み自信満々で迎えた当日、鮎美をレストランに誘う。ダメ押しの流れ星と、ビルの完璧の文字。言うまでもなくこの後、すぐに振られる。健気にも大成功すると思っている姿が滑稽である。
Catalyst「カタリスト」:「鮎美に振られる」
トップシーンに戻る。「無理」と言われるも、全く心当たりのない勝男。「勝男さんには分からないし、分かってほしいとももう思わないかな」と、鮎美は二人の家を出ていき、メインタイトル。wantは「なぜ鮎美に振られたか知りたい」に変化。プロットアーク的なカタリストは、公園デートで鮎美の薬指を確認(4分)。
Death「デス」:「女性に相手にされない」
「振られるなんて俺らしくない」と会社では振られたことを隠し、一人コンビニ弁当を食べながら鮎美の手料理に想いを馳せる勝男。そこに合コンの誘いが。しかし最初の反応は良いものの、次第に相手にされなくなってしまう。その後も逆ナンされてバーに行くがすぐに女性陣はドン引き。「筑前煮って禁句じゃないよな?」と、かつてはモテすぎて困っていた自分がなぜ女性に相手にされないのか全く分からない。八方塞がりな勝男は会社の後輩・白崎と南川に、友人の悩みというテイで相談。すると「その人って、筑前煮作ったことあります?」「作ってみたらその元カノさんの気持ちがわかるんじゃないですか?」と、全くピンと来ない返事が。
Debate「ディベート」:「スーパーに入るか悩む」
「作る? 俺が? 料理?」と乗り気でない勝男。スーパーに入るかどうか右往左往する。
PP1「プロットポイント1(PP1)」:「スーパーに入る」
「要は野菜を切って煮ればいいんでしょ?」と、結局入る。プライドが高く、料理は女がやるものという考えの勝男が自ら変化し始める地点としてのキャラクターアーク上のPP1。プロットアーク上のPP1は「鮎美に振られる」になる。
Battle「バトル」:「筑前煮を作る」
スマホのレシピ片手に筑前煮の買い出しを開始。スーパーで食材を買ったことすらない勝男、買い出しを終えるだけで一苦労。
ゴボウの皮をピーラーで剥き、鮎美を思い出してニンジンの飾り切りに挑戦するも指を切る。なんとか具材を切り終えたところで、出汁がないことに気づき、再びスーパーへ。
顆粒出汁を勧められるも「ありえない。こんな手抜きなもの」と、昆布と鰹節から出汁を取り始める。落とし蓋がないのは諦めて、なんとか完成。気付けば日付も変わり、真夜中。味が濃くて不味い。流しには大量の洗い物が。
「鮎美の気持ちを知るため」のバトルが、「あの勝男が自ら筑前煮を作る」という形で展開されるのが楽しい。細かいながらも、孤独な勝男を描く上で「自然に独り言を言う人物」であることが便利に働いている。さらにスーパーの店員を通して客観的に見た勝男も描いており、会社における白崎や南川の役割を果たしている。勝男のズレた独り言と店員のリアクションとの対比によって勝男の異常性が際立ち、コメディとして見られるようになっている。
MP「ミッドポイント」:「筑前煮を白崎、南川に振る舞う」
自分で作った筑前煮を白崎、南川に食べてもらうも「見た目めっちゃ茶色っすね」「煮詰まってて、ちょっと」「食感もキモいですね」と散々な言われよう。
Reward「リワード」:「料理を酷評され、傷付く」
筑前煮を酷評され、傷付く勝男。茫然自失して「元カノさんの気持ち分かりました?」の言葉にも気付かない。
プライドが高く、作中で誰にも欠点を指摘されることなく生きてきた勝男にとって、傷つく経験自体がリワードとなる。自分も鮎美に同じことをしていたと気づくにはまだ至らず、単にムカついてしまう。
Fall start「フォール」:「包丁を封印」
ムカついた勝男は包丁を紙とレジ袋で包み、キケンと書いて燃えるゴミへ。「一生コンビニ弁当食ってやる」と宣言。
Pinch2/Sub2「ピンチ2」/「サブ2」:「なし」
PP2(AisL)「プロットポイント2」:「白崎と喧嘩」
白崎とランチへ。公園で食べようと誘う白崎に「男同士でピクニックは気持ち悪い」「彼女が弁当作ってくれないんだもんな」と、決めつけで生きる元の勝男にすっかり戻っている。「そうやって馬鹿にしてますけど、めんつゆが何でできてるかも分からないじゃないですか」と白崎は勝男を拒絶し、席を立つ。
DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「オフィスで急に立ち上がる」
なぜ白崎が怒っているか分からない勝男。さらに白崎の「分からない」の言葉に思わず鮎美に振られた時のことを思い出す。
BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「麺つゆを作る」
麺つゆを作ってみると、思いの外簡単。美味い。そして肉じゃがの味付けが麺つゆの材料と同じであることに気づく。ここで勝男は「鮎美の気持ちを知るために料理をする」という、一度は辞めた旅を再開することになる。
Twist「ツイスト」:「なし」
Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「白崎と公園でランチ」
自作の麺つゆ片手に、白崎と公園でランチ。白崎が先に謝るも、勝男も「麺つゆが手抜き」とか「彼女が料理作ってくれない」とか決めつけだった、「男同士で外でそうめん食べんの結構いいな」と話す。二人は仲直り。少し変わった勝男に驚く白崎。
Epilog「エピローグ」:「筑前煮を作る」
包丁の封印を解いて筑前煮を作る勝男。「不味くはない」レベルのものを作れるようになっている。冷蔵庫から鮎美が作った筑前煮を発見。腐っている。プロポーズした記念日の日に鮎美が筑前煮を作っていたことを知り、鮎美との思い出が一気に込み上げる。「鮎美、ごめん。俺変わりたい」
Image2「ファイナルイメージ」:「鮎美と再開」
ビアフェスで偶然、ピンク髪になった鮎美と再開するというクリフハンガーで一話が終わる。別離と再会というオープニングイメージとの対比。
(実際には勝男だけ鮎美に気付いていないことが次話で分かる。)
【作品コンセプトや魅力】
漫画原作もの。時代遅れの「化石男」である勝男が、鮎美からプロポーズを断られたことをきっかけに「料理」を通じて自らを見つめ直していくという成長ストーリーの第一話(これを書いた時点では三話まで鑑賞)。「なぜ俺は振られたのか」という、視聴者と勝男以外の登場人物全員にとっては自明の謎を健気に追う勝男を眺めるのが楽しい。たった一人問題に気付いていない彼が奮闘し料理を通じて変わっていく姿を、我々は白崎や南川達と一緒に呆れ半分同情半分で見守ることになる。そんな二重の劇的アイロニーで描かれる勝男の滑稽さと、「気付き」の瞬間がどこか魅力的な作品。一話のタイトル通り、勝男が「気づく」話なのである。
第一話最大の魅力はトップシーンに詰まっている。まず冒頭にフックのあるシーンを置いて視聴者の目を引くだけでなく、倒叙的に構成することでハウダニット的に持続する謎を生み出している。
そして次第に勝男の本性が明らかになってくると、視聴者にはこの後フラれる勝男が滑稽に映る。トップシーンを作ることで構成的に劇的アイロニーを作り出し、コメディとして成立するのである。さらに、単に結末を知らない登場人物として描かれるのではなく、彼が客観視が出来ておらず、思い込みの強い人物である様が構成によって強調されることでキャラクターの説明にもなっている。「無自覚な勝男を白崎や南川と一緒に半笑いで眺める」という本作全体の趣向を、無駄なセットアップをせず手っ取り早く描いており、連ドラの一話としての役割を果たす上で技巧的に優れている構成だと言える。
また、勝男は無自覚であるがゆえに悪気がない。結末を知らずに健気に頑張る様を最初に見せることで、いかに彼が「嫌なやつ」であっても、どこか憎めない可哀想な奴としても映り、結果として勝男は魅力的な主人公たり得ているのである。
【問題点と改善案】(ツイストアイデア)
本作の面白さの根幹を成すのは、主人公・勝男の「無自覚」が引き起こす劇的アイロニーである。トップシーンからのティザーによって最初からその趣向を構成として発揮していく巧さは名刺代わりの第一話として申し分ない面白さがある。小ボケや音楽を使ったシークエンスを積極的に取り入れていて娯楽性も高く、完璧。強いて言うならおかずが全体的に茶色過ぎるかな。さておき、連ドラの一話としてかなり完成度の高い作品だと素直に感じた。問題点があるとすれば重箱の隅を突くようなものか、別解程度のものになる。
まず、鮎美の変化(ピンク髪)をこのタイミング(22分)で見せる必要があったのかという点。かなり早いタイミングで、鮎美が打って変わって開放的な生活をするようになったことがピンク髪で踊る姿から暗示される。別れたことで人生が好転した=それ以前の生活において鮎美が抑圧されていたことが示され、視聴者の関心は「勝男が鮎美に何をしたのか」に自然と向くようになるという効果がある。また二話目以降を観ると分かるが、本作は勝男視点のみで進行するのではない。ここで早々に鮎美を描くことで、暗に群像劇であることを宣言しているとも言える。ツイストアイデアとしては最後のビアフェスの場面で初めてピンク髪の鮎美を描くというものである。開放的に過ごすようになった様はテキーラを飲んでいるだけでも十分描ける。効果としては、視聴者にとっての「居なくなった鮎美」に対するイメージを勝男と同じにすることで、ダークナイトや筑前煮発見時の感情移入を高めるというもの。さらにラストで初めて鮎美の意外な姿を描くことで、クリフハンガーの緊張感を高めることもできる。
次に「流石に勝男、一話で変わりすぎじゃない?」という点。よくあるセットアップとカタリストまでで終わる連ドラの一話に比べれば、これだけのビートを詰め込んでアークを描いていること自体が大きな特徴であり、概ね成功していると考える。一方で、良くも悪くも勝男の気まぐれによって行き当たりばったりに話は進むため、「なぜ公園で食べようとまで提案したのか」とか「なぜ『麺つゆが手抜き』だけでなく、『白崎の彼女が料理作ってくれない』まで決めつけと気付けたのか」とか勝男の行動に対する些細な違和感はいくつかある。しかしこのドラマは基本的に見守るドラマであるので強い共感はいらないと言えばいらないし、何よりそうした違和感を感じさせないような演出上のリズムの良さがある。小ボケや、音楽を使ったシーケンスを積極的に取り入れるなど、とにかく見やすい。展開とリズムの良さがストーリーエンジンとなってあれよあれよと見進めてしまう不思議な魅力がある。論理的飛躍をエンターテインメントとして十分に補完しているといえよう。そして結局のところ勝男が変わる余地はまだまだたくさんあるようなので、一話でこれくらいのアークは問題ないかもしれない。そして本作の真の焦点は勝男の変化の過程そのものではないようなので、十話全体で見れば些細な問題かもしれない(後述)。ツイストアイデアは無し。
最後に、歴代彼女がダッシュで勝男の元を去る演出(21分)。これは無い方が良かったと思ってしまった。ボケでもないし、ここだけトーンの違う演出で一話全体を通して見た時浮いている印象だった。次話以降で使うためのセットアップなのかもしれないが、特にボケ以外のシーンでトリッキーな演出をしなくてもいいように思い、必要性が分からなかった。はじめは回想をしたくなくてこうなったのかなと思ったが、原作にあるシーンのようで、映像的に表現した結果こうなったものと考える。ツイストアイデアはモノローグだけで処理するか、このシーン自体無くしても差し支えないように思った。
【感想】
「好き」4「作品」4「脚本」5
原作漫画のドラマ一話相当部分だけを読んだが、連載の二話分だけという非常に短いボリュームで驚いた。トップシーンの構成や、コメディ要素、さらには勝男の過剰なキャラクター設定などは映像化に際して加えられたものと思われる。勝男視点だけで進行する原作に、南川や白崎など登場人物の視点、倒叙的な構成によって視聴者自身の客観的視点を加え、「滑稽な勝男」を映像的に描くコメディへと翻案した筆力が光る。視聴体験としても楽しく、あっという間に見終わってしまった。
これを観た時点ではドラマ三話まで見た。これからトントン拍子に気づきを得ていくであろう勝男が、ゆくゆくは安全圏で見ている視聴者にも新しい気づきを与えてくれそうな期待もある。そして本作では勝男だけでなく鮎美も変わること、そして互いに変わった二人が再び出会うことがこの一話で示されている。縦糸としての(一話単体ではなく、十話全体で見た時の)方向性も提示され、自然と次話への興味を引かれた。成長ストーリーでは「変わること」は既定路線だが(あるいは「変われるか」という問いに答えること)、本作では変化は早々と済ませ「変わった二人がどうなったか」もメインとして描いていく狙いが構成から伺える。成長した勝男が鮎美と対峙する瞬間が、今から待ち遠しい。
(さいの、2026.1.3)

