言動決定要素の「テンション」について考えています。前回、主人公のリアクションを考えることでキャラクターの個性が生まれたり、プロットと噛み合っていくことをお話しました。今回はそのリアクションをさらにキャラクターコアまで掘り下げていきます。
【キャラクターコアがテンションを生む】
前回、プロットの例として以下をあげました。
1「宝くじで1億円あたった!」
↓
2「どこかに捨てなくてはいけないと思い、宝くじの捨て場所を探す」
ふつうは「宝くじがあたって」→「嬉しい」とテンションが上がるところが、この主人公は「どこかに捨てなくては」と「不安」を感じてテンションが下がっています。
この主人公はどうして「不安」を感じるのでしょう。それを考えるのが作者の仕事です。
「父親が会社に成功したが、家族が離散した」とか「金持ちな祖父が大嫌いで、ああなりたくない」と思っているなどトラウマめいたものがあるのでしょう。
主人公のキャラクターコアと言えます。
【価値観の変化はテンションの変化を生む】
前回のプロットのつづきをみてみます。
1「宝くじで1億円あたった!」
↓
2「どこかに捨てなくてはいけないと思い、宝くじの捨て場所を探す」
↓
3「捨てようとする度に、誰かが拾おうとして捨てられない」
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4「父親が病気で大金が必要だという少女に出会う」
↓
5「少女にくじをあげようとするが拒まれる」
3の「捨てようとする」はキャラクターコアに従った行動です。「大金が必要な少女に出会い」、主人公は「少女に宝くじをあげよう」とします。それは親切心でもあり、大金を持ちたくないという自分のエゴでもあります。三幕構成で言えばアクト1、まだ日常の世界にいます。
そして「少女に、大金をあげようとしてつきまとう」アクト2に入るとします。
少女は頑なにお金を拒みます。はじめは知らない人からお金を貰うことはできないと言っていましたが、本当はお金をつかって手術をしても、成功率は低く、成功したとしても数年延びるだけであることまで知っているのです。「人間はいつか死ぬ」。少女は10歳にして人生の真理と向き合っていたのでした。
この少女に何かしてあげたいと、変化する主人公。
父親は病気になる前に家族をハワイ旅行につれていきたいと言っていたが、自分の治療代で連れていくことができなくなってしまった。
主人公は、旅行費を稼ぐために働きます(宝くじのお金では少女は受け取らない)。
そして、働いたお金を手にした主人公は喜びます(テンションが上がります)。
少女との出会いによって「お金は人を不幸にする」という価値観が変化したのです。
以前書いたように(キャラクター概論30「言動決定要素⑤テンション:キャラクターの気分を上下させるもの」)、テンションは自分の意思で上げ下げするのではなく、身体や精神への働き掛けを経て上がり下がりします。
テンション上下のリアクションが変化したということは、深いレベルで価値観が変化したことを暗示します。
こういったシーンを利用することで、「私は○○と思うようになった」といった露骨な説明セリフを避けて、映像的に伝えることができます。
次回……キャラクター概論33「言動決定要素⑤テンション:スキーマとの関連」
緋片イルカ 2019/09/11
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