キャラクター概論29「言動決定要素⑤テンション:曖昧性と一時性」

これまで、トイストーリーの分析スキーマについて挟みながら、言動決定要素について考えてきました。今回からは5つめの「テンション」について考えていきます。

【何となくにも理由がある】
テンションというのは一言でいってしまえば「今の気分」です。
「今日はご飯よりパンの気分」とか、いつもはそんなことないのに「今日は学校や仕事に行きたくない」とか(え、いつも思う?それは気分ではなく価値観気質からくるものかもしれません)。
自分で理由がわからないとか、はっきりした理由があるわけではないけど「なんとなく」そう思うことは誰にでもあると思います。
そういった曖昧なものがテンションです。体調や疲れが原因かもしれないし、気候のせいかもしれません。また、自分でもわからないうちに解消してしまうのも気分です。一時的なのです。
気分は人間の行動を左右します。

【作者のご都合にならないように】
たとえばこんなキャラクターがいたらどうでしょう。

ある女子高校生が「カラオケ行こう!」と友達を誘ったとします。
放課後、グループでお店へ行くと、言い出したその女の子が「わたし、やっぱり帰る」と、帰ってしまいます。
残された友達は「どうしたんだろう?」と思います。

この女の子にとっては「なんとなく」だったかもしれません。自分でもどうしてそんな気分になったのかわからないかもしれません。
友達も「まあ、そういうときもあるよね」と、受け入れてくれるかもしれません。
けれど、読者・観客は「何かあるんだな」と思います。
今後の展開で、それが浮彫になってくるんだなと期待します。

作者がその期待に応えなかった場合、無意味なシーンになったり、ご都合主義の展開に見られたりします。
シナリオや小説のスクールで物語の不自然さを指摘されて「これは実際にあったことなんです!」と主張する人がいますが、読者には通用しません。

【不可解な行動は興味を惹く】
キャラクターはすべてのシーンで統一感をもって一貫されていないといけないかというと、そんなことはありません。
むしろ、人間の不可解な行動こそ、他人の興味を惹きます。

上の女の子の例でいえば「カラオケの店員がDVした元カレだった」となれば、みんな(友達も読者も)納得します。
それを説明してから、帰らせるより、突然帰らせた方が読者の「なんだろう?」という興味が惹けます。

「楽しい気分になると、罪悪感がでてくる」という設定をつけたらどうでしょう?
もちろん、過去に原因となる体験があるのでしょう。
そんなキャラクターを丁寧に描いて、彼女が自分と向き合っていく過程を描けば、これといった大きな事件などなくとも物語になりそうです。

次回から、テンションに関わる要素について細かく考えていきます。

次回は……キャラクター概論30「言動決定要素⑤テンション:キャラクターの気分を上下させるもの」

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緋片イルカ 2019/09/05

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