これまで言動決定要素について順番に考えてきました。今回から最後の「目的」について考えていきます。
【構成上のWANT】
物語全体の構成をみたときに、主人公には中心となる「目的」(ハリウッドでは「WANT」と呼びます)があります。
たとえば過去にタイムスリップしてしまう話であれば「未来に戻る」。
そのために行動して葛藤するのがアクト2(ビートでいえば「バトル」。くわしくは構成を考えるシリーズをご覧下さい)です。
これは物語全体だけではなく、シーンごとにも小さな「目的」があります。
「未来に戻る」というのが大きい目的であるとしたら、それを達成するためにまず「科学者を探す」という小さな目的があるのです(物語全体で構成があるように、シーンの中にも構成があります。シーンを構成する要素については「ミニマムビートシート」をご覧下さい)
【シーンにおけるWANT】
物語で目的のない主人公などいないと言えます。
一見、何を目指しているかわからなかったり、受け身で振り回されてるように見える主人公もいますが、シーンごとの「目的」はもっています。
具体的なシーンでみてみましょう。
パターンA
男が歩いていると、老婆に話しかけられる。
老婆「すみません、駅はどっちでしょうか?」
男「この道をまっすぐですよ」
老婆「ありがとうございます」
「目的」の見えずらいシーンです。つまらないシーンともいえます。
しかし男に目的がないかというと、そんなことはありません。
道を歩いていたのですから、どこかに向かっていたはずです。「目的」が読者に見えずらいだけです。
これは作者が未熟で書き方が悪い場合もあるし、ミスリードするために隠しているのかもしれません。
パターンB
男が時計を気にしながら、早足で歩いていると、老婆に話しかけられる。
老婆「すみません、駅はどっちでしょうか?」
男「えっと、この道をまっすぐですよ」
老婆「ありがとうございます」
男「お気を付けて」
男、笑顔で返してから、また時計を見る。
ちょっと文章を足すだけで、どこかに向かって急いでいることは伝わります。
「目的」がはっきりすると、それを妨害するものが現れるだけで葛藤が生まれます。
急いでいる男にとっては、老婆は障害となるのです。
また、それでも親切に教える若者の人柄も出ます。
あえて隠している例もみてみましょう。
パターンC
男が歩いていると、女性に話しかけられる。
女性「すみません、駅はどっちでしょうか?」
男「この道をまっすぐですよ」
女性「ありがとうございます」
男「お気を付けて」
男、女性の後ろ姿見つめて、追いかけるように歩き出す。
道を聞かれた段階では男の「目的」は見えませんが、追いかける不自然な動きから男の「目的」が想像できます。
このように構成全体だけではなくシーン内における「目的」は、とても重要な要素です。
次回……キャラクター概論36「言動決定要素⑥目的:敵対者のWANT」
緋片イルカ 2019/09/14
構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)
文学(テーマ)についてはこちら→文学を考える1【文学とエンタメの違い】
文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」
「三幕構成について語ろう」という掲示板もありますので、ご自由にご参加ください。