三幕構成の作り方 Step1「物語は旅である」（全8回）

書くために使おう！

三幕構成の解説本はたくさん出ています。
さらに細かく分けたビートシートや、そのバリエーションもたくさんあります。
ネットでも、それらをまとめた記事や、構成を分析した具体例を示している記事が簡単にみつかります。

けれど、三幕構成に興味がある人の一番の興味は「自分の作品に応用したい」ではないでしょうか？

三幕構成を学ぼうとすると「プロットポイント」とか「ログライン」とか多数の業界用語が出てくるために、まずは用語を理解しなくてはいけなく手間も時間もかかります。
勉強のように、がんばって読み込んで、理論を理解しても、いざ作品に応用しようとすると、なかなかうまくいかなかったりもします。

そこで、今回から連載する「三幕構成の作り方」シリーズ（全8回の予定）では理論の解説ではなく、応用することに着目していきます。用語の使用も最小限に留めます。本格的にビートを理解したい方や基礎知識のある方は「ログラインを考える」シリーズをご覧ください。音声解説もあります。

また、三幕構成の分析や創作の実践的に興味がある方は「読書会」へのご参加をお待ちしております。遠方の方向けに、こちらも音声解説があります。

前置きが長くなりましたが、さっそく初めていきましょう。

今回のテーマ「物語は旅である」

すべての物語は比喩としての「旅」です。過去にも同じような記事を何度も書いていますが、最重要なので、ここから始めます。

具体例を示します。

桃太郎→「鬼退治」をして帰ってくる。
浦島太郎→「竜宮城」へ行って帰ってくる。
赤ずきん→「おつかい」をして帰ってくる。
シンデレラ→「舞踏会」へ行って帰ってくる。
バックトゥーザフューチャー→「タイムスリップ」して帰ってくる。

いかがでしょうか？
すべて「旅」という構造を持っています。

「旅」で納得できた人は次へいきましょう。

ちょっと待てよ「かぐや姫」はどうなんだ？　鶴女房（つるの恩返し）は？　花咲かじいさんは？
そう感じる人もいるかと思います。しかし「旅」の感覚がつかめるようになれば、比喩としての「旅」という意味で自然とわかるようになります。三幕構成になれていない人は、例外はいったん無視して基本をつかむことをオススメします。
それでも気になる方は、長くなりますが→物語分析講座 第１回「物語は『旅』である」をご覧ください。

今回の課題「旅を見つける」

自分の作品に応用するためには、どこが「旅」なのかを見極める必要があります。
裏返すなら、三幕構成のセオリーが身についていれば、どんなものでも「旅」をつくっていけます。

実例を示します。

以下は、yahooニュースで主要記事を上から３つ、リード部分を引用しただけです。何でも物語になるということを示すために、あえてランダムに選びました。

2018年、仮想通貨交換所「コインチェック」から仮想通貨の「NEM」580億円相当が流出した事件で、流出した仮想通貨を不正に取得した疑いで男2人が警視庁に逮捕された。（最終更新:3/11(水) 13:51 FNN.jpプライムオンライン）

このネタを物語にするとしたら、どこを「旅」にするかと考えます。今回は「旅」を見つける練習なので、面白いかどうかは考えず簡単にいきます。赤太字部分が「旅」です。

警察が仮想通貨を不正に取得した男を捜査して逮捕する。

刑事ものの2時間テレビドラマのようなものが浮かびます。あるいは松本清張のような本格社会派ミステリーでもいいかもしれません。そのあたりは描き方次第です。物語冒頭で「コインチェック」の事件が起きて、警察が捜査していき、犯人2人を見つける。事件解決にはならないかもしれませんが、あえて後味を悪くして続編につなげる終わり方でもいいし、逮捕された２人をきっかけに真犯人を逮捕するまでを創作してもかまいません。細かくはおいおい考えるとして、まずは「旅」を見つけましょう。

「警察の捜査」はよくある「旅」です。「旅」には「行って」「帰ってくる」という構造があります。旅行をするときに家を「出発」して、帰ってきて「到着」するという感覚と同じです。旅の始まりと終わりと言い替えてもかまいません。

これを「警察の捜査」で言うならば、

捜査を開始＝出発
犯人逮捕で捜査終了＝到着

旅の目的「どこで何をするか？」＝「どんな事件で、どんな犯人を捕まえるか？」です。刑事ドラマが続くのは目的地（＝事件内容）を変えれば、同じキャラクターを使って何度でも「旅」に出られるからです。

次の記事に行きましょう。

　愛知県内で２０１７年、当時１９歳の娘に性的暴行をしたとして準強制性交等罪に問われた父親（５０）に対する控訴審判決が１２日、名古屋高裁である。一審の無罪判決は、８日に節目を迎えたフラワーデモのきっかけのひとつとなった。控訴審では、事件当時、娘が抵抗できない状態だったか否かが争点となっている。（最終更新:3/11(水) 16:45 朝日新聞デジタル）

娘の弁護士が裁判に挑んで勝訴する。

あるいは

娘の弁護士が裁判に挑んで敗訴する。

もつくれます。現実の裁判をモデルに、社会問題を提起するような作品であれば、事実に即して敗訴する展開もありえます。また、主人公を逆転して以下もつくれます。

父親の弁護士が裁判に挑んで勝訴（敗訴）する。

「警察の捜査」同様に「裁判」はわかりやすい「旅」です。裁判はどちらかが正しいかを決める場なので（あくまで法律的にですが）、どちらを主人公にすることもできますし、両方を立てて客観的に描いていくこともできます。こういった視点が変わると、同じ題材を扱っていてもまったく別物の物語になります。

次の記事に行きましょう。

　神戸市立東須磨小で教諭４人が同僚をいじめていた問題で、兵庫県警は１１日、強要と暴行の疑いで、加害側の４人を書類送検した。捜査関係者への取材で分かった。４人はすでに神戸市教委から懲戒処分を受け、いじめへの関与が強いとされた男性２人は懲戒免職となっている。（最終更新:3/11(水) 17:04 産経新聞）

これも前２つと同様に「警察の捜査」や「裁判」を「旅」として描くことはできます。それだと同じになるので、あえて変えると、

新任としてやってきた教師が同僚からのいじめに耐え、世間に発覚して解放される。

「いじめ」を「旅」としてとらえます。

いじめの開始＝出発
いじめの終わり＝到着

となります。いじめの終わり方は誰かの告発かもしれないし、いじめられていた人間の死のような悲惨なこともあるかもしれません。旅行でいえば、旅先で事故にあって遺体として帰ってくるということだってありえます。ともかく「いじめ」を旅としてとらえるのです。

次回へ向けて

ニュースをもとに「旅」を見つけるという感覚を説明してきました。これは「物語を見つける」とも言えるかもしれません。どんな日常にも物語は潜んでいるのです。あなたが、書きたい題材やキャラクターは見つかっているのに、どう物語にしていいか見えないのでしたら「旅」が見つかっていないのです。「旅」が、見つかると三幕構成を応用して形にしていけます。

あなたが書こうとしている物語の「旅」はなんでしょうか？

今回とりあげたニュースは、どれも事件性の強い内容ばかりでした。ランダムに選んだものですがニュースになるぐらいだから当然かもしれません。
では、次のようなニュースから「旅」を見つけるにはどうしたらいいでしょうか？　同じくyahooニュースからですが事件性のなさそうなライフ欄からとったものです。

「ヒルトン名古屋」(名古屋市中区)の「オールデイダイニング 『インプレイス3-3(スリー・スリー)』」では、2020年5月6日(祝)の木曜～日曜、祝日(※3月19日(木)～4月5日(日)は毎日開催)まで「～ハードに恋して～ ストロベリーメタル・デザートビュッフェ」を開催する。（最終更新:3/11(水) 17:45 ウォーカープラス）

こんな日常的なネタからどうやって「旅」を見つけたらいいのでしょうか？

くわしくは次回解説します。→　Step2「誰の旅なのか？」

「三幕構成の作り方シリーズ」（全8回の予定）は毎週月曜8時更新です。

緋片イルカ 2020/03/11