全6回に渡ってスキーマ療法の理論部分を引用してまとめていきます。
ざっくり読書6①『スキーマ療法入門』伊藤絵美(生得的気質について)
ざっくり読書6②『スキーマ療法入門』伊藤絵美(中核的感情欲求と5つのスキーマ領域について)
ざっくり読書6③『スキーマ療法入門』伊藤絵美(18の早期不適応的スキーマ)
ざっくり読書6④『スキーマ療法入門』伊藤絵美(スキーマの作用「持続」と「修復」)
ざっくり読書6⑤『スキーマ療法入門』伊藤絵美(コーピングスタイルとコーピング反応)
ざっくり読書6⑥『スキーマ療法入門』伊藤絵美(スキーマモード)
スキーマモードについてのヤングの定義は、「今現在、その人において活性化されているスキーマおよびスキーマ作用のこと。それは適応的な場合もあれば不適応的な場合もある」(Young et al.,2003)というものである。スキーマが特性(trait)とだとすると、モードは状態(state)である。
前回のコーピング反応のところでも書きましたがstateは「キャラクターの言動決定要素」でいうところの「テンション」とも関連します。ヒステリーな人を想像するとわかりやすいと思いますが、そういう人達も、24時間つねにヒステリックになっているわけではなく、何かのきっかけでヒステリーな状態に入ります。早期不適応的スキーマといえど、そのスキーマを獲得したときには適応するために身につけたものであるので、過去と似た状況に陥ったときに、自己防衛的にスキーマが発動するのです。これが活性化されているスキーマといえます。
ヤングによると、スキーマモードの概念は、境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder:以下BPD)にスキーマ療法を適応する中で構築されたものだという。というのも、BPDのクライアントは、そもそも18の早期不適応的スキーマのうち、そのほとんどを有していることが多く、しかもそれらのスキーマに服従することもあれば、回避することもあるし、過剰補償することもある。つまりその時たまたま活性化されたスキーマと、その時たまたま選択されたコーピングスタイル(とコーピング反応)という「特性」に焦点をあてた概念だけでは間に合わず、ヤングはスキーマモードという「状態」に焦点を当てた概念を編み出した。
ヤングは10のスキーマモードを同定し、それを4つのグループに分類した。以下に各グループと、そこに含まれるスキーマモードを示す。(注 これらのモードもある程度暫定的らしく、2012年現在、スキーマ療法の公式ウェブサイトを見ると、さらにモードの数が増えており、今後、さらに増える可能性があると思われる。)
1) チャイルドモード(chiled mode)
①脆弱なチャイルドモード(vulnerable chiled mode)
②怒れるチャイルドモード(angry chiled mode)
③衝動的・非自律的チャイルドモード(impulsive/undisciplined chiled mode)
④幸せなチャイルドモード(happy chiled mode)2)非機能的コーピングモード(dysfunctional coping mode)
⑤従順・服従モード(compliant surrenderer mode)
⑥遮断・防衛モード(detached protector mode)
⑦過剰補償モード(overcompensator mode)3)非機能的ペアレントモード(dysfunctional parent mode)
⑧懲罰的ペアレントモード(punitive parent mode)
⑨要求的ペアレントモード(demandeing parent mode)4)ヘルシーアダルトモード(healty aduld mode)
⑩ヘルシーアダルトモード
第1分類の「チャイルドモード」は、まさに「内なる子ども」である。
①の「脆弱なチャイルドモード」とは、見捨てられたり、虐待されたり、愛情をかけてもらえなかったり、きちんとしつけてもらえなかったりして、傷ついたり、悲しんだり、苦しんだり、淋しがったりしている子どものモードである。先述した中核的感情欲求が満たされなかったことによって、非常に傷ついている子どもの状態が、「脆弱なチャイルドモード」であると言えるだろう。
②の「怒れるチャイルドモード」とは、見捨てられたり、虐待されたり、愛情をかけてもらえなかったことに対して怒っている子どものモードである。こちらは、中核的感情欲求が満たされなかったことに対して、怒りを感じている子どもの状態であると言える。
③の「衝動的・非自律的チャイルドモード」とは、自己制御することなく自らの欲望や感情のままに行動する子どもの状態である。親のしつけによって自己制御できるようになる前の子どもは全て、時にはこのようなモードになる。
④の「幸せなチャイルドモード」は、中核的感情欲求が満たされ、十分に満足し、楽しみや喜びに満ち溢れたハッピーな子どもの状態である。
第2分類の「非機能的コーピングモード」の下位モードである3つのモードは、先述した3種類のコーピングスタイルとそれぞれ対応している。すなわち、その人が「スキーマへの服従」というコーピングスタイルを使っていればその人は⑤の「従順・服従モード」にあり、「スキーマの回避」というコーピングスタイルを使っていれば⑥の「遮断・防衛モード」にあり、「スキーマへの過剰補償」というコーピングスタイルを使っていれば⑦の過剰補償モードにあるということになる。
「従順・服従モード」にある人は、自らのスキーマに屈服し、受け身で無力な子どもに戻って、他者に服従する。
「遮断・防衛モード」にある人は、感情的に引きこもったり、薬物を乱用したり、何らかの自己刺激を自分に与えたり、他者との関わりを避けたりするなど、さまざまな回避的手段を用いて、スキーマがもたらす心理的な苦痛をどうにかして防ごうとする。
「過剰補償モード」にある人は、自らのスキーマに反撃するために、他者を不当に扱ったり、極端な振る舞いを示したりする。
これら3つの非機能的コーピングモードは全て、結果的にスキーマを持続させてしまう。
第3分類の「非機能的ペアレントモード」における2つの下位モードは、内在化された養育者(多くは親)の状態を示している。
⑧の「懲罰的ペアレントモード」にある人は、チャイルドモードにあるもう1人の自分を「悪い子」だと断じて懲罰を与える。
⑨の「要求的ペアレントモード」にある人は、チャイルドモードにあるもう1人の自分に対し、過度に高い基準を押しつけ、プレッシャーをかける。
第4分類の「ヘルシーアダルトモード」の下位モードは⑩の「ヘルシーアダルトモード」のみである。これは言葉通り、健康な大人の状態を表す。ヘルシーアダルトモードにある人は、自分自身をモニターし、その有り様を理解し、受け入れたうえで、必要であれば何らかの対処を行う。自らの中核的感情欲求を理解し、自分で自分の欲求を適切な形で満たそうとする。スキーマ療法のモードアプローチの最終目標は、クライアントの中にヘルシーアダルトモードを形成し、それを増強することである。
物語への応用として考える場合、キャラクターが動揺したシーンなどの参考になります。動揺した人物の身体的な反応にはおおよそ共通したものがあります。体の緊張、汗、震え、さらにひどくなれば、目眩や卒倒。だれでも似たような経験はあるので想像はしやすいものです。一方、動揺したときに、頭の中で浮かぶ思考や感情には個人差が大きいといえます。具体的なストーリーをつくってみます。
例えば、彼女は小さい頃に両親が離婚して、母親に引き取られた女性を主人公とします。父親が自分を捨てたと「見捨てられ/不安定スキーマ」をもち、一生懸命育ててくれる母にわがままを言ってはいけないと「感情抑制スキーマ」をもったとします。美人で学生の頃から持てるが、何度も失恋を繰り返し「失敗のスキーマ」ももつようになります。そんな女性が、ある男性との関係が始まる「プロットポイント1」を用意します。
彼女はデートの約束がキャンセルされて「見捨てられ/不安定スキーマ」から、また捨てられるのではないかと不安を抱きます。これは①「脆弱なチャイルドモード」に入っているといえます。しかし、「感情抑制スキーマ」も発動して、わがままを言うのも我慢します。この不安や我慢を繰り返すうちに、彼女はストレスを感じて「遮断・防衛モード」に入ると、相手の男性をふってしまいます。これまでの男は彼女がふると、二度と戻ってこなかったが、今度の男性は違います。彼は愛しているから一緒にいたいというようなことを言い、彼女はモードの変更を迫られます。「見捨てられ/不安定スキーマ」や「失敗のスキーマ」の反証となる大きな出来事です(反証については④の記事)。彼女は「ヘルシーアダルトモード」に入り、過去にとらわれていた自分に気付きます(構成でいえば「ミッドポイント」です)。気付くことによって、スキーマがなくなるわけではありませんが「ヘルシーアダルトモード」でいられるうちは、うまくやっていけそうと思うのです。
もちろん物語では、そんな彼女をまた不安に陥れる出来事(「フォール」)が起きるのですが……
このように、キャラクターの言動の影ではスキーマやコーピングスタイル、スキーマモードが発動したり変化したりして、キャラクター自身が変化していきます。
スキーマ療法の理論は、キャラクター=人間を理解するのに、とても参考になることがたくさん書かれています。
緋片イルカ 2019/08/24
●書籍紹介
スキーマ療法入門 理論と事例で学ぶスキーマ療法の基礎と応用
伊藤絵美が書き下ろす渾身の入門書。本書を通して、伊藤絵美と共に学び、実践する仲間になる。スキーマ療法とは,米国の臨床心理学者ジェフリー・ヤングが提唱した認知行動療法(CBT)の発展型である。認知の中でもより深いレベルにあるスキーマ(認知構造)に焦点を当て,CBTを中心に力動的アプローチほか非常に統合的な心理療法を組み合わせてスキーマ療法を成した。本書は入門テキストと事例集の二部構成となっており、特に日本でスキーマ療法を習得し,治療や援助に使いたいという方に向けて書かれた待望の書である。(Amazon商品紹介より)
専門書ですがスキーマ療法の提唱者ヤング自身の本はこちらです。
スキーマ療法―パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法アプローチ
スキーマは,その人の認知や長年培われてきた対処行動などを方向づける意識的・無意識的な「核」であり,〈中核信念〉とも訳される。本書は,幼少期に形成されたネガティブなスキーマに焦点を当て,その成長が健康的ではなかった境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害をはじめとするパーソナリティの問題をケアしていくスキーマ療法の全貌を述べたものである。
人には5つのスキーマ領域からなる18のスキーマがあるとされ,それぞれに際立ったコーピングやモードがあり,幼少期から周囲の環境に応じてパーソナリティを形づくる。こうして固まったパーソナリティの問題は,認知行動療法だけでなく,多くの心理療法や薬物療法でさえ,万全なケアができるとは言いがたい状況にある。スキーマ療法は,こうしたニードから生まれた統合的な認知行動療法アプローチであり,体験療法やエンプティ・チェアなどのゲシュタルト療法,精神力動的な方法といったさまざまな心理療法を加え,基礎的な心理学の知見をも加味して生まれてきたものである。
本書は,リネハンの弁証法的行動療法とともに,パーソナリティ障害をはじめとする人格の問題にアプローチする最良の方法の一つであり,理論的な入口の広さから多くの心理臨床家,精神科医,心理学者などに読んでもらいたい1冊である。(Amazon商品紹介より)
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