「チビの憧憬」

 日曜の朝だというのにチビ達が兄弟げんかを始めた。2DKマンションの一室で一台しかないテレビの取り合いだ。弟の正直が大好きな特撮ヒーロー番組の「セイギマン」を見ようとしているところを、テレビゲームをやろうとした兄の一輝が横取りしようとしたらしい。
「お兄ちゃん、我慢しなさい。」
 正直にとってセイギマンだけは譲れない。それは家族によく知れていた。週に三百円の小遣いを貯めてはソフトビニール人形に費やす姿からも味方してやりたい。普段は兄が優先権を得ても正直はその横暴に逆らおうともしない。腕力で敵わないせいもあろうが、その正直が身を挺してまで我を主張するのはセイギマンに関することだけなのである。
 またそれが一輝には気に入らないのだった。いつも勝っている自分がセイギマンを味方につけた弟には敵わない。それが一輝の嫉妬と競争心を煽るのだった。
「ゲームは後でも出来るでしょう? 三十分だけ直君に貸してあげなさい。」
「俺だって今ゲームやらないと、駄目なんだ。」
「何が駄目なの?」
「今しかやりたくない。」
 母と一輝が言い合うそばで、正直はテレビに齧りついている。オープニングが始まっている。リモコンを両手で抱え込み画面を死守している。
 とうとう手が出た。正直は小突かれた頭をさすりながら涙目でちらっと兄を睨んだが、コマーシャルが終わるとまた画面に吸い寄せられた。兄はその態度が気に入らない。
 一輝はすうっとテレビに近づくとテレビ本体の電源スイッチを押した。本体の電源を消すとリモコンでは点けられない。正直は兄を押しのけ点け直す。弟の力とはいえ不意に押されて兄は倒れ込んだ。
 今度はコンセントを抜く。正直は怒るより早くテレビの修正に取りかかる。
「お兄ちゃん。いいかげんにしなさい。」
 母の語気が強くなったので一輝はつまらなそうに引き下がった。正直はその母の声すら邪魔というように、音量を上げて耳を近づけた。
 父が起きてきた。
「あら、騒がしかった?」
「いや、いいんだ。」
 ふくれた一輝の頭をぽんと叩いて。
「お父さんとお出かけするか?」
「どこに?」
「銀座だ。」
「あら? 中野さんのところ?」
 聞いてないわよとばかりに母が口を挟む。
「ああ、この前のお礼も兼ねて挨拶に行ってこようと思って。」
「一輝が行って邪魔じゃないかしら?」
「いや、子供がぐずってくれる方がいいんだ。一人で行くと、どうも引き留められてね。」
「それもそうね。私も掃除しようと思ってたから助かるわ。夕飯はまでには帰るでしょ?」
「そのつもり。」
 一輝は早々と準備するとパジャマの父を急かした。父が銀座に連れて行ってくれるとということは帰りにデパートで何かを――新しいゲームソフトにするつもりなのだが――買ってもらえるということを経験で知っていた。一輝の頭の中では弟のことなどすっかり飛んでしまった。

 昼過ぎには正直も家を追い出された。小遣いの百円玉を三枚に、今日は特別にもう一枚もらい、
「お天気がいいから外で遊んでらっしゃい。」
 正直は促されるままに外へ出たが、何処へ行こうか考えていなかった。頭の中ではまだセイギマンが動いているのだった。
 今週のセイギマンは刺激的な内容だった。今まで変身しては颯爽と敵を倒していたセイギマンが、今回ばかりは一筋縄でいかない。あれれと思っているうちにピンチに追い込まれ負けてしまう、というところで新しいキャラクターが助太刀に現れたのだった。名前はまだ出てこなかったが、次回予告ではゼギン――偽善をもじったものだったが正直はその言葉を知らなかった――と呼ばれていたのでそれが名前だろう。
セイギマンの白いボディに対してゼギンは赤いボディに黒いラインが入っていた。そして鹿のような角がセイギマンとの大きな違いであった。敵か味方かわからないところが魅力的でもあった。
 正直はもう少しゼギンの姿を見てみたかった。終わり際に現れたかと思ったら、よく見る間もなく次回に持ち越してしまったのだ。
 団地のそばの公園に通りかかるとクラスメイト達が数人集まっている。
「おい、正直! セイギマンごっこやるぞ?」
「今日の見た?」
「おう、ピンチだったな。」
「あれ、仲間かな?」
「今、それを話してたんだ。」
 正直は輪に加わった。「セイギマンごっこ」は一時おあずけになり、ゼギンについての討論が始まった。六人中、三対二で味方が多かった。あと一人はどっちとも言えなかった正直だった。
「正直も敵だと思うだろう?」
 少数派の一人が正直を引き入れようとする。
「ううん。そんな気もするけど。」
「味方じゃなかったら助けたりはしないだろう?」
「うん。それもそうだよね。」
「でも次回予告でセイギマンと言い合ってたじゃないか。」
「うん。」
「いったい、どっちなんだよ?」
「わからないよ。味方かも知れないし敵かも知れない。」
 正直は本当は敵かも知れないと思っていた。しかし味方でいて欲しいという気持ちから素直にそう言い出せないでいたのだ。
「もういいよ。セイギマンごっこ始めようぜ。」
 じゃんけんで勝った一人がセイギマンになれる。あとは敵役の怪人達だ。正直がゼギン役も作ろうと言ったが、どっちと戦っていいかわからないということで却下された。
 正直は怪人役だったが楽しかった。自分が気持ちよくやられることがセイギマンの活躍に繋がるからだ。

 公園のチャイムが鳴った。もう辺りは薄暗くなっていた。
「よし、とどめだ!」
 セイギマン役が言った。セイギマンの決め技に合わせて怪人役達はいっせいに倒れた。
「そろそろ帰ろうぜ。」
 起きあがった怪人役の一人が言った。みんな返事をするでもなくそれに従った。
 父と兄は先に帰っていた。兄はテレビゲームをしている。見たことのないソフトだ。正直は兄の後ろに座って眺めていた。
「やらせないぞ。」
 兄は画面を見つめたまま言った。
「やらせないぞっていってんだよ。」
 お前に言ってるんだとばかりに顔を見て言った。正直は黙って頷いた。
 兄は見ていると、ときどき正直にやらせてくれる。けれど兄のように上手く出来ないのでそれほど面白いとは思わなかった。むしろ兄のやっているのを見ている方が好きだった。
「ご飯にしましょう?」
 母が二人を呼んだ。正直はすぐにテーブルについたが、一輝はテレビゲームから離れなかった。
「お兄ちゃん? 食べないの?」
「食べる。」
 そう言いながらコントローラーから手を離さない。
「もう、お父さんがテレビゲームなんか買ってあげるから。」
「いいじゃないか、やらせておけば。そのうち腹が減ってくるだろう。」
 父は席に着いた正直に、
「正直も今度連れてってやるからな、デパート。セイギマン人形もたくさんあったぞ。」
 興味なさそうに相槌を打っていたが、突然ある考えが頭をよぎって声を張り上げた。
「ねえ、新しいのもあった?」
 もしかしたらゼギンの人形が出ているかも知れない、そう思ったのだ。
「新しいの? どうだろう。デパートにはこの辺にないのもあったかもしれないな。」
「本当? いつ連れてってくれる?」
「ええ? そうだなあ。」
「あら、大変ね。」
 母が冷やかす。
「よし、じゃあ今度の休みに連れてってやろう。」
「来週の日曜?」
「急な仕事が入らなければ、そうだ。」
「日曜かあ。」
 正直は来週の日曜なら「コダマヤ」でも売っているかも知れないなと思った。

 翌日、正直は学校から帰るとすぐに「コダマヤ」に向かった。セイギマンのソフトビニールの人形を売っている駄菓子屋だが正直は人形を買う時にしか行かない。小学校と離れているし、公園の近くの別の駄菓子屋にクラスメイトは集まるからだ。店はいつもがらがらだから、店の婆さんもたまにしか来ない正直の顔をよく覚えていた。
「あら、正直ちゃんいらっしゃい。」
 正直は目だけで挨拶して、さっそく人形を物色し始めた。
 人形は大きな段ボール箱に無造作に放り込まれている。箱ごとに値段が付いていて、この箱ならどれもいくらいくらという具合だ。同じセイギマンでも大きさによって値段が違うが、正直が集めているサイズは一体三百円のシリーズだ。
 箱の縁に300と赤マジックで乱暴に書かれた箱を漁る。まだ持っていない人形が出てくると探す手を止めて眺めたりして、また使命を取り戻したかのように漁る。
 結局ゼギンは出てこなかった。念のため五百円の箱も見たが、そこにはセイギマンを含めた人気のある数種類しかなかった。大きくなるほど種類は少なくなるので千円の箱は探すまでもなかった。
「どうだい? 欲しいのは見つかったかい?」
 正直は首を横に振った。
「そうかい? 何が欲しかったんだい?」
「新しいやつ。」
「どれどれ。」
 婆さんはもう一度探してくれようとするが、自分が見つけられなかったものを婆さんが見つけられるわけがないと思った。婆さんはキャラクターの名前も知らないのだ。
「新しいやつ、いつ入る?」
「そうだね。来週かその次の週か。」
 正直は何も言わずに立ち去ろうとした。
「また、おいで。」
 婆さんは言った。

 まだ外は明るかったが家に帰ると、兄がテレビゲームをやっていた。とぼんと後ろに座って眺めていた。
「やるか?」
 正直は首を振る。
「遠慮すんなよ?」
「いい。」
 正直は兄と共同の子供部屋に行って、人形のコレクションを出してきた。箱いっぱいに人形が詰まっている。コダマヤの売り物と比して変わらない。新しいのが出る度に買っていたのだから当然だ。まだ持っていないものもいくつかあったが、ゼギンの人形を思うと、それ以外は欲しいと思えなくなるのだった。
 順々に箱から出して並べているうちにうとうとしてきて、人形に囲まれたまま眠ってしまった。

「学校でなんかあったのかしら?」
「疲れていただけだろう。」
「でも一輝がゲームを勧めても、いいって。」
「もともとゲームの好きな子じゃないだろう。」
「そうだけど。」
「心配することはないよ。」
「だといいけど。」
 それが父と母の声だと思ったら目が覚めた。周りの人形がないと慌てたら、箱にきれいに片づけられていた。
「正直、お風呂入って、お布団で寝なさい。」

土曜の夕方。
「正直、お買い物一緒に行く? お留守番してる?」
 家には母と正直しかいなかった。
「いつものスーパー?」
「そう。行く?」
「行く。」
「じゃあ準備して。」
 スーパーの帰りにコダマヤに寄ってみようと思いながら広げていた人形を寄せた。
「帰りにコダマヤ寄っていい?」
「閉まっちゃわないかしら? じゃあ、先に行こうか。」
「うん。」
 正直はコダマヤが近づくとすうっと先に行き、自転車を止めると母を待たずに物色を始めた。母は遅れてついて正直の自転車が歩道の邪魔にならないように端に寄せる。
 品揃えは変わっていなかった。前に正直が漁った状態のまんまだった。
「欲しいのあった?」
 正直は首を振る。
「そう、じゃあいいの?」
「うん。」
 その様子を聞きつけて婆さんが出てきた。こんな時間には客が来ないので奥に引っ込んでいたのだ。
「あら、正直ちゃん?」
 婆さんはサンダルを突っかけて出てきた。
「お母さんも一緒なのね。」
 母と婆さんが挨拶を交わす。
「正直ちゃんね、新しい人形もうすぐ入るわよ。」
「ほんと?」
「来週の月曜日。」
 しかし婆さんのことだから用心して、
「どんなやつ?」
「赤いやつだったかしら。」
「角が生えてる?」
「そうよ。生えてたわ。」
 婆さんは以前に自信たっぷりに間違えたことがあったが、今回は間違いなさそうだと思った。
 買い物をして帰ると、正直はご機嫌で人形遊びを再開した。
 父は帰ってくるとその様子に気が付いた。
「なんだ。正直元気そうだな。」
「そうなの。さっき一緒に買い物に出てコダマヤに寄ったの。」
「コダマヤって駄菓子屋の?」
「そう。どうやらセイギマンの人形の新しいのが待ち遠しかったみたいなのよ。」
「そうか。明日休み取れたからデパートに連れてこうと思ったんだが、もう必要ないかな。」
「どうかしら。本人に聞いてみたら?」
「そうだな。」
 父は人形を踏まないように足の踏み場に気を付けて近づいた。
「正直、ただいま。」
「おかえり。」
「明日、お休み取れたけどデパート行くか?」
 正直はどうしようかしらという顔をする。
「欲しい人形はもう見つかったんだろう?」
「うん。」
「じゃあいいか?」
 テレビゲームをしていた一輝が口を挟んだ。
「正直、違うやつ買ってもらえばいいじゃん?」
 父はそれを受けて、
「そうするか? 行くだけ行ってみるか?」
「うん。」
「よし。」
 父は戻るときに怪人を一体蹴飛ばした。
「ああ、倒さないでよ。」
 正直の気持ちはゼギンさえ手に入ればあとはどっちでもいいのだった。

 セイギマンを見た後、家を出た。母と一輝も付いていきお昼を外で食べようということになった。一輝は買ってもらえないだろうとは思っていたが、もしかしたらという気もあるせいかうきうきしていた。それでテレビの取り合いも無かった。
「デパートにはすごいたくさんオモチャがあるんだぞ。」
 などと正直に言っているのだが、正直の方は、その日のセイギマンの放映で頭がいっぱいだった。
 今回でゼギンについてはっきりしたことは敵ではないということだ。セイギマンに敵対心を持っているが怪人を倒すという目的は共通している。子供達の推測はどれも当たっていたのだ。今回はそれだけではなかった。最後の数分で敵の親玉がセイギマンに怪人がやられたことを憤る場面が毎回あるのだが、いつもは黒いマントを着ていて姿の見えない親玉が、マントを着ないで現れたのだ。新しいキャラクターというわけではないが正直にはそれなりに衝撃的だった。
「なんて人形が欲しいの?」
 上の空の正直の気を引こうと兄がセイギマンの話をする。
「今日出てたの?」
「うん。」
 デパートに着くと、父と母は見るものがあるので、一輝と正直はオモチャ売り場で待っていることになった。一輝は気を引こうとお兄さんらしく引っ張って行くが、母にやんわり釘を刺された。
「お兄ちゃんはこの前買ったんだからね。」
「わかってるよ。」
 正直はオモチャ売り場に初めて来た。兄のテレビゲームもこんな種類があるとは知らなかったし、女の子向けのオモチャも初めて見た。色とりどりのオモチャ達に圧倒された。
「セイギマンはこっちだよ。」
 兄について行くとまずセイギマンの等身大の写真ボードが立っていた。正直はボードを見上げてセイギマンの身長を感じた。
「こっち。」
 兄に促されて向くと同じ大きさの箱が整然と吊されている。近づくとそれがセイギマン人形だと知れた。箱に覆われて前面だけが透明になっていて中が覗ける。そこには紛れもない正直の集めている三百円シリーズの人形が収まっていた。
「どう?」
 兄が誇らしげに聞く。正直は言葉を失って唾を飲み込んだ。家にあるのと同じ人形達も箱に入っているだけで違って見える。種類ごと一列に吊されていて、人形を一つ取ると後ろにも同じものが吊されているのが圧巻だった。
 正直が一つ一つじっくりと吟味していると、兄は順々と正直の欲しい人形を探した。
「これじゃないの?」
 兄が見つけた人形はまさしくゼギンの人形だった。求めていた人形が目の前にあることに正直は興奮した。
「どこにあった?」
「ここ。」
 兄が指差した場所には、他の人形と同じようにゼギンが連なって吊されている。二つ目も三つ目もやはりゼギンの人形だ。さらにその隣りには今日出てきたばかりの親玉の人形があった。親玉の人形も初めて見た。
 手にとって見ると箱の裏側にはマントを外した姿――テレビで見たばかりの姿――で写真が写っていた。マントは取り外し可能と説明書きしてあった。途端に親玉も欲しくなってしまった。
 どちらを買ってもらおうか選びきれないうちに父と母がやってきた。
「欲しいの決まったか?」
 正直は難しい顔をする。
「どうした? 欲しいの無かったのか?」
 代わりに一輝が答えた。
「違うよ。二つあって迷ってるんだって。」
「どれ?」
 兄は正直の気持ちを丁寧に代弁した。
「よし、両方買ってやろう。」
「お父さん。駄目よ、そんなの。」
 母が口出しする。
「いいじゃないか、大した額でもないし。」
「金額の問題じゃないわよ。」
「今日は特別だ。一輝もゲームソフトみたいに高いものじゃなければ買ってやるぞ。」
「やった。」
「もう。」
 一輝ははしゃいで自分の買ってもらうものを探しに行く。母も渋々だが納得したようだ。
 正直はすぐに両方とも買ってもらえるなんて現実とは思えなかった。手提げの紙袋が店員から父へ、父から正直に渡る。手提げの口を広げると確かに人形が二体入っている。
「よかったわね。」
 母が正直の頭を撫でた。ようやくそれが自分の手に入ったと実感した。

 翌日、正直は一人で人形を戦わせていた。欲しいものは手に入ったので、まだ買っていなかった怪人を買いに行こうと思った。昨日の今日で新しいのを買うのはいけないことのような気がした。
「ねえ、お母さん。人形買っていい?」
「人形?」
「うん。自分のお小遣いで買うの。」
「自分のお小遣いで買うならいいわよ。好きにしなさいよ。」
 正直は安心して笑顔を見せた。
「コダマヤに行くの?」
「うん。」
 頷いてから、どきっとした。正直は婆さんの言葉を思い出した。今の今まですっかり忘れていたのだ。
 コダマヤでゼギンの人形が入ると聞いて、デパートでは揃ってない怪人を買ってもらうつもりでいた。しかしデパートの雰囲気に興奮してすっかり忘れていた。忘れたどころか今日コダマヤに入るはずのゼギンの人形もすでに買ってもらってしまった。
 正直はコダマヤに向かいながら思った。どうせあの婆さんのことだから、間違えて違う人形を入れているかも知れない。きっとそうだ。そうに決まっている。
 店に着くと奥に気付かれないように300の箱を見た。ゼギンの人形はなかった。
 ほれ見たことか、デパートで買ってもらっておいてよかった。正直はそう思いながら、持っていない人形の一つを手にとって、奥に入っていった。
「いらっしゃい。正直ちゃん。待ってたのよ。」
 婆さんは箱に入ったゼギンの人形を持って出てきた。
「これでしょ? 欲しかったやつ。」
 しわくちゃの手に掴まれた人形はデパートに売っているのと全く同じにきちんと梱包されている。今まで婆さんは箱から出して陳列していたのだと悟った。
「これじゃなかった?」
 正直は嘘をついた。
「そう。違うの。じゃあ、また探しとくわね。今日はこれね?」
 小さく――わからない程に小さく頷いて、ポケットから三百円渡すと、人形を片手に走って逃げ出した。
 それが正直が買った最後の人形になった。
(了)

SNSシェア

フォローする

『「チビの憧憬」』へのコメント

  1. 名前:匿名 投稿日:2018/11/09(金) 02:34:03 ID:e0bb3ad07 返信

    お名前が正直なのに正直になれない……淡々と進んで行くのに終わりが悲しい

    • 名前:緋片 イルカ 投稿日:2018/11/09(金) 19:18:59 ID:1a90afcd9 返信

      お読みいただいてありがとうございます!
      子どもならでは気持ちが伝わったらなら嬉しいです。
      今後ともよろしくお願いします。