三幕構成がっつり分析『22年目の告白-私が殺人犯です-』(#14)

がっつり分析は三幕構成に関する基礎的な理解がある人向けに解説しています。専門用語も知っている前提で書いています。三幕構成について初心者の方はどうぞこちらからご覧ください。

時効後に現れた殺人犯
「はじめまして、私が殺人犯です」
事件は、ここから始まる。

全国民を釘づけにした、殺人の告白
かつて5人の命が奪われ、未解決のまま時効を迎えた連続殺人事件。
その犯人が、事件から22年後、突然みずから名乗り出た。
会見場に現れたのは、自身の告白本を手に、不敵な微笑みを浮かべる曾根崎雅人という男だった。
顔をさらし、肉声で殺人を告白する曾根崎の登場にネットは熱狂!
賛否両論をまき散らしながら本はベストセラーに。それだけでは終わらない。
マスコミを連れての被害者遺族への謝罪、刑事への挑発、そして、サイン会まで。
そのすべてがあらゆるメディアを通じて発信され、SNSで拡散されていく。
それは、日本中を巻き込んだ新たな事件(ゲーム)の始まりだった……。

時効に守られ、絶対に捕まえられない美しき殺人犯・曾根崎に『デスノート』『藁の楯』『僕だけがいない街』の藤原竜也。
22年前、逮捕寸前まで犯人を追い詰めながらも取り逃がした刑事・牧村に、「海猿」シリーズ、『悪の教典』の伊藤英明。
日本中が見守る告白の行方は――?
事件(ゲーム)は、とんでもない領域へと加速していく!

主演: 藤原竜也 伊藤英明
夏帆 野村周平 石橋杏奈 竜星涼 早乙女太一
平田満 岩松了 岩城滉一 仲村トオル
監督: 入江悠  
脚本: 平田研也、入江悠
主題歌: 「疑問疑答」感覚ピエロ (JIJI INC.)
製作幹事・共同企画: 日本テレビ放送網  
企画・制作プロダクション: ROBOT
配給:ワーナー・ブラザース映画

Based on the film “Confession of Murder”, directed by Jung Byung-gil
Executive Producers You Jeong-hun and Billy Acumen

フックのある企画は落し所がむずかしい】
ふだん、邦画はあまり見ないのですが、AmazonPrimeで見てみたいと思いました。
「連続殺人犯が、時効成立後に告白本を出版する」という設定が、とてもエグくてフックだなと思ったら、韓国の『殺人の告白』のリメイクだと知って納得。この映画自体、未解決のまま時効が成立して2019年に真犯人が特定されたという見つかった『華城連続殺人事件』を題材にしたものだとのこと。ちなみに同じ事件を扱った映画で『殺人の追憶』がある。これは先日、『パラサイト 半地下の家族』でパルム・ドールをとったポン・ジュノ監督の作品です。アメリカ映画で未解決事件を扱ったものとしてはデヴィッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』が有名です。

この手の物語で必ずぶつかる問題が「落し所」です。

物語をどう終わらせるか?
ミステリープロットにのせた場合、未解決事件ゆえに、犯人が捕まらない構造になってしまう。
あるいはとってつけたような真犯人をつけてしまうことで、リアルでテーマ性のある作品だったものが、途端によくあるエンタメと化してしまう。

この矛盾をどう解消して、どこに落ち着けるかを意識しなくてはなりません。
韓国の『殺人の告白』は未見なので原作との比較で「どっちがいいか」といった安易な議論ではなく、テーマとエンタメのどちらに寄せるかによって、構成がどう変わるべきだったか?という視点から分析してみます。

※以下、ネタバレ含みますのでご注意ください。分析は広告の後から始まります。










【前半はサスペンス、後半はエンタメ】
結論から先に言えば、この映画のネタバレはこうである。

「犯人だと名乗って告白本を出版した男・曾根崎(藤原竜也)は実は犯人ではなく、被害者の婚約者。主人公の刑事・牧村(伊藤英明)と共同して、真犯人を誘き寄せるための出版だった。そして、テレビでインタビューをしたジャーナリスト仙堂(仲村オル)が真犯人で戦場の取材をしてた頃にPTSDにかかっていたという動機。また、最後の殺人に関しては時効が成立していないため逮捕でき、エピローグでは告白本を書くが、別の遺族から刺される」

前半の観客の興味を引っ張っているのは、殺人の告白本を書いた人間に対して「こんな奴がいたら、あなたはどう思いますか?」という投げかけである。
出版社への批判、街頭インタビュー、サイン会に訪れる軽いノリの人々、感情を逆なでされる遺族達が、リアクションとして描かれていく。
この投げかけが自体が全体のテーマでもあるので、この持っていきかたは間違いではない。フックの強い物語では通用する。
「この後、何が起こるのだろうか?」というサスペンスとなって見れるのである。
ただし、この描き方をするのであればディテールこそが命となる。この作品ではそこが欠けている。

犯人は、犯行の際に必ず近い人間にその現場を目撃させるというルールを課していて、かなりエグい設定だが、次のシーンでは出版された本をあちこちで読んでいる人や、バカな代名詞のように女子高校生が犯人と写真を撮ったりといった描写がつづいたり、ネットの反応として画面に文字が流れる演出など、どこかで見たことあるようなものばかり。

被害者の遺族にヤクザの頭?がいて、鉄砲玉を用意して殺そうとするといった展開も、リアリティに欠ける。

この辺りをビートから見ていくと以下のようになる。(今回は重要ビートのみ)

「カタリスト」は「告白本の記者会見」。曾根崎(藤原竜也)の記者会見があるあるというのが5分あたりで始まる。これはカタリストの始まりである。男の語りに合わせて、回想しながら過去の5つの事件が説明されていく。牧村(伊藤英明)も遺族であり犯人に口を斬られたという因縁があるということもわかり、主人公の説明にもなっているが、牧村(伊藤英明)の目的が見当たらない。曾根崎(藤原竜也)に対して、リアクションとして怒りを感じるが警察の仕事として守るという行動(このあたり藁の楯っぽい)で、何をしたいのか見えず「主人公のセットアップ」が機能していない。曾根崎(藤原竜也)への怒りから「ディベート」はあるし、上司である刑事が殺されたという「デス」もあるが、後半に見せるための真の動機を書くために曖昧になっていて、アクト2がぼんやりとしてしまっている。これをテーマ中心の映画として描いていくのであれば、妹が行方不明になり、その婚約者がいたことは後出しせずセットアップしておくべきである。最初のセットアップでミスしているため観客は、妹の死ではなく上司の死に対する怒りに見えてしまうので後の妹殺害の映像をみるときの苦しさなどに対する共感が少し弱まってしまっている。またエンタメとして構成するのであればミスリードすための別の目的をつくるべきである。

「プロットポイント1(PP1)」は記者会見が終了するところまでとしてとれる。この後、「こんな男、どう思いますか?」というキャラクターのリアクション、社会のリアクション、合わせて観客の興味が動く「非日常」の世界が展開されていく。20分(17%)ほどでやや早いが問題になるほどの時間ではない。だが、上に書いた牧村(伊藤英明)の目的があいまいなために葛藤が生まれていないし、周りの人物の範囲も当たり前に感情的吐露ばかりで個性が見えない。ディテールの弱さが目立ってしまっている。

「ピンチ1」としてサブキャラクターである仙堂(仲村オル)が登場して動き出す。明確な目的をもっているため主人公の牧村(伊藤英明)より、主人公らしく見える。もう一人の主人公のようにミスリードする役割を与えることはできたが、やや登場が遅いためサブキャラ感が出てしまっているのが、もったいないところ。アクト1から正義のジャーナリストとしてセットアップしていけば、犯人であった時のターン(ドンデン返し)がもっと効いてくるところだった。

「ミッドポイント」については主人公の牧村(伊藤英明)の目的があいまいなため登っていくアークがないため、特定しづらいが2つのとり方ができる。1つは仙堂(仲村オル)が代わりを果たしているとして(群像劇ではこのようなとり方がある)、1対1のインタビューで曾根崎(藤原竜也)を問いつめ「真犯人は別にいるのではないか?」と提示するところ。ここから「真犯人はだれだ?」というミステリープロットが作動するため、ミッドポイントとすることができる。もう1つは牧村(伊藤英明)と謎の動画投稿者を含めた4人によるテレビ番組。ただこちらは63分(54%)から始まり、告白本の真相を話す「ディフィート」を経て、覆面の男も犯人ではなかったという「オールイズロスト or プロットポイント2」の82分(70%)までつづく。物語を引っ張るストーリーがエンジンが変化しているという意味では前者が相応しいかもしれない。

「ターニングポイント2」からのビッグバトルはシンプルに、曾根崎(藤原竜也)が、仙堂(仲村オル)が犯人であるとつきとめ殺しにいく。牧村(伊藤英明)も到着して逮捕をできることを告げるツイストが入り、終了。いかにもエンタメな展開。

●感想
観客によっては内容がエグすぎると感じて、悪趣味、イロモノに感じるかもしれませんが最後までみればエンターテイメントとして落としているのでホッとする終わり方ではあります。ただエンタメとして描ききるのであれば、前半をもって二転三転させてドキドキさせるべきだったと思います。前半をテーマ性のサスペンスに寄っかかりすぎて重要なビートがいくつか機能していないことが原因です。一方、テーマを尊重したドラマとして真剣に描くのであれば、ラストのとってつけたような真犯人は薄っぺらいし共感にも欠けます。文学の目指すところでもある安易なドラマタイズに抵抗することで、テーマと真剣に向き合うことが必要だったと思います。これは映画という媒体ではとくに難しいような気もしますが、せめて設定や人物のディティールを掘り下げることで質を上げることはできたはずです。「物語をどう終わらせるか?」。テーマ性の強い物語ほど、むずかしい問題であると思います。

緋片イルカ 2020/01/26

※追記
韓国の『殺人の告白』も見てみました。告白本の出版という設定よりも「この人間を許せるかどうか」というディベートを中心に据えている構成でした。「恨」の韓国らしい作りだと思います。日本版で弱い主人公のアークは、被害者グループによる誘拐事件というエピソードでエンタメとして引っ張っています。全体的にアクションが多いのでジャンル自体が違うとも言えますが、PP2での犯人を目の前にして殺すかどうかという葛藤はしっかりテーマを掘り下げています。テーマでエンタメでしめていた日本版に対して、エンタメで入りつつ、テーマを掘り下げ、ラストはまたエンタメのアクションでしめるというバランスのいい構成だと思います。セリフなどで入るコメディ部分はジャンル違いで雰囲気を壊している感がありマイナス。緊張感を緩和するためにサスペンスにコメディに入れること自体は間違いではないけど、コメディの質がややジャンルミスなところが見受けられました。

●作品紹介

どちらもAmazon Primeで見れました(2020/01/26現在)

三幕構成の分析に基づく読書会も開催しています。興味のある方のご参加お待ちしております。

がっつり分析のリストはこちら

構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」

三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)

キャラクター論についてはこちら→キャラクター分析1「アンパンマン」

文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」

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