行動の規範(キャラクター論48)

社会規範と経済規範

行動経済学の書籍『予想どおりに不合理  行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』という本に、「社会規範」と「経済規範」というのが紹介されていました。

「規範」の意味を広辞苑をひらいてみると、

き‐はん【規範・軌範】
(Norm ドイツ)(「軌」は道筋の意)
①のり。てほん。模範。
②〔哲〕のっとるべき規則。判断・評価または行為などの拠るべき手本・基準。

とあります。

ざっくりと「従うルール」とでもしておきましょう。

書籍にも紹介されていた例で説明するならば、

友人に引っ越しの手伝いを頼まれたら、お金なんかもらわなくとも手伝うとしたら「社会規範」に従っていて、

その引っ越しの労働を、いくらなら手伝うかという考えのときは「経済規範」に従っているということになります。

人は時と場合によって、この規範を切り替えて、行動しているということです。

これも書籍にあった例ですが「男性がデート代をすべて払っているとき」は社会規範に従っていますが、相手がつれなくて「お前のために、いくら払ったと思ってるんだ!」と言った瞬間には経済規範に変わっていているというのもありました。

他にも、実験で示した例などが紹介されていますので、興味のある方は書籍をご覧下さい。

ここでは、その「規範」を物語のキャラクターに応用するということを考えていきたいと思います。

経済規範が強いキャラクター

守銭奴という言葉があります。お金に汚いやつ。シェイクスピアのヴェニスの商人もそうです。

これが経済規範の強いキャラクターです。

得をするためにはあざとく動くが、損するときには弱者にも情け容赦ない。

アメリカの映画では、弁護士がそのロール(物語上の役割)を担ってることがよくあります。

経済規範に従うなら、弁護士に相談するのには相談料がかかります。

社会規範に従うなら、困ってる友人のためなら無料で相談にのるでしょう。

一時間の相談なら構わないが、友人だからといって長期にわたる裁判まで無料で引き受ける人は少ないのではないでしょうか。

「いい加減にしてくれ!」と、どこかで社会規範が経済規範に入れ替わるのです。

社会規範が強いキャラクター

無欲なキャラクターもいます。お金に無頓着な人です。

頼まれれば、グチも言わずに何でも従うタイプで、いい人とも言えますが、愚鈍とも言われかねません。

ストーリータイプの「フールトライアンフ」という型は、まさに「フール(fool)」を主人公とした物語です。

いまの世界では、過剰な資本主義が悪徳とされがちなので、

「経済規範が強い」=悪人、

「社会規範が強い」=善人と扱われがちです。

しかし、善悪の価値観と「規範」はすこし違うように思います。

誠実な銀行マンや保険屋のように「経済規範」にしっかりと従いながらも善人なキャラクターはありえます。

こういうキャラクターが困る(葛藤する)のは、弱者に泣きつかれて「お願いします、どうにかしてください」と、仕事の範疇を超えた借金を頼まれてしまうようなときでしょう。

泣きついてる方は、社会規範で動いてくれるように頼んでいるのです。

規範の違いによる衝突

夫が専業主婦の妻に「俺がいくら稼いでると思ってるんだ!」と言ったときには、「社会規範」に含まれる愛情は「経済規範」置き換えられ、

「主婦の仕事だって、時給に換算したら○○円になる!」と言い返すかも知れません。

経済規範の強い母親は、オモチャを欲しがる子どもに何て言うでしょうか?

「あんなオモチャ、1ヶ月もしたら、すぐに飽きるんだから、それで1万円なんて高すぎる。もっと長く使えるオモチャにしなさい」と言うかも知れません。

孫がかわいい祖母は、社会規範に従って、ムダとわかっていてオモチャを買ってあげるかもしれません。

そのことを後から知った母は、祖母に食いつくでしょう。

「うちの方針で育てるんだから、ムダなものを買い与えて甘やかさないで!」

母と祖母はケンカするでしょう・・・

会社の新入社員がいたとします。親切な上司が、じぶんの担当外ではあったが、新人君のためにあれこれ世話を焼いてあげたとします。

上司は、会社全体の利益という意味では経済規範になるかもしれませんが、社会規範に従ったとします。

この上司が新人社員を、仕事帰りの飲み会に誘います。

新人君は「プライベートな時間なんで、帰ります」と断ります。

上司は「なんだよ、あんなに教えてやったのに!」と憤慨します。上司は社会規範で動いていたのです。

新人君は「上司が、新人に教えるのは仕事のうち(経済規範である)」と思っていました。

こんな例は、枚挙に暇がないでしょう。

物語では、対立させたいキャラクターに正反対の規範を持たせることでケンカさせられます。

その他の規範

行動経済学なので「お金」に関する規範が対比されていますが、それ以外にも規範は設定できると思います。

とくに「社会規範」という言葉は、一般的な価値観というニュアンスがあって、個人単位(キャラクター単位)でみていくと千差万別でしょう。

たとえば「医療規範」があります。

医師としての判断では、もう助かる見込みはなく救命措置を止めるべきとわかっていても、その患者が小さな子どもや身内であったら、なかなか諦めきれないでしょう。

「宗教規範」もあります。カトリックでは中絶や自殺が禁止されていても、可愛いわが子のためだったら悩むでしょう。

「遵法規範」もあります。法律上で禁止されていてる行為でも、緊急事態ではするしかないことがあるかもしれません。

SFやファンタジーでも、その世界の中での独自のルールがあるでしょう。

規範の変化

ストーリーのタイプによっては「規範」をwantとしても使っていけそうです。

「医療規範」の強い主人公が、違法の安楽死をさせてやるというのは、葛藤と決断があってドラマになりそうです。

しかし、ここでは「安楽死には反対である」とか「違法なことはしない」という、社会的に堅実なキャラクターが犯すからドラマになるのです。

元々、モグリの医者のような設定のキャラクターが、違法なことをしても、大きなドラマにはなりません。

主人公のキャラクターアークとしては弱い変化でも、サブキャラクターの変化には使える場合もあります。

たとえば、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』のハン・ソロは、はじめはお金のために宇宙船をだすことで協力します。

レイア姫を救出して、いちど基地の戻ってきたときには、その後の作戦には自分は関係ないと言っています。

あくまで「経済規範」として行動していたのです。

ところが、アクト3で主人公のルークがピンチのときに助けに表れます。このときには「社会規範」で動いているのです。

主人公のキャラクターアークは大きな変化であり、一度、変わってしまった規範は、もう元には戻らないでしょう。

「安楽死」をさせてしまった医師は、もう元の医師ではないのです。「禁忌を犯した医師」になってしまったのです。

警察に捕まれば犯罪者にもなります。

もちろん一度、禁忌を破ったからといって、性格が180度かわって、安易にバンバンと「安楽死」させる医師になったりはしません。極端な変化はコメディになってしまいます。

けれど、禁忌はとても大きいものでなくてはならないし、そういう重さがあるからこそ、映画の120分をひっぱる価値のあるキャラクターアークになるのです。

一方、サブキャラクターの変化は一時的な可能性もあります。

ハン・ソロはシリーズを通して、完全な仲間へと変化していきますが、この手のキャラクターは別のタイミングでは裏切ることもあります(トリックスターです)。

「助けるのは今回だけだからな?」

「一度、助けたからといって、仲間になったと思うなよ?」

こんなセリフを、いろんな作品どこかで聞いたことがあるかと思います。

以上、「規範」という視点からキャラクターを考えてみました。

緋片イルカ 2020/12/15

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