「アムロ・レイ」(キャラクター分析#5)

【主人公なのに……】
前回、シャア・アズナブルの分析を行いましたが、シャアと比べて人気の低さを如実に感じたのが、Amazonで検索してフィギュアが上の一種類しか出てこなかったことです。人気アニメシリーズの主人公とは思えません。きちんとカタカナで入力しているのに安室透が出てくる始末です。

シャアと同じく名言の数々があります。
「親父にもぶたれた事ないのに!」
「僕が一番、ガンダムをうまく使えるんだ。」
「もうやらないからな!誰が二度とガンダムになんか乗ってやるものか!」

情けない方の「迷言」ばかりです。
しかし年齢設定は15-16歳。機械オタクの少年です。
主人公としては魅力に欠けますが、思春期の青年が突然、戦争に巻き込まれたりしたら、愚痴りたくなったり逃げたくなったりするのはリアルな反応のように思えます。

まさにファーストと呼ばれる一作目の『機動戦士ガンダム』では、この戦争や人間のリアリティこそがテーマであり作品の魅力です。それは今見ても古びない面白さです(絵柄の古さは仕方ないとしても)。

こんな普通の、どちらかといえば頼りない少年がどう成長していくのか?
それがガンダムの魅力です。

【父親殺しをあっさり達成】
シャアの記事で、シャアは「エディプスコンプレックス」を抱えているということを書きました。
それに対してはアムロは第1話で、あっさりと父親殺しを達成しています。
初見では、登場人物を把握しきれずに見落としがちですが、ガンダムに乗ったアムロがザクを撃破したときに、父親は爆風に飲まれて宇宙空間に放り出されます。間接的ですが父親殺してです。

※このシーンを確認したい方はこちらから→第1話 ガンダム大地に立つ!!

※Prime会員なら月額で全話見れます。

父親は実は生きていて、のちに再登場します。
爆発事故の後遺症で記憶錯乱状態になっていて、役に立たないジャンク品をモビルスーツのパーツだと言って渡します。アムロはそんな父親の姿を見て、涙ながらに役に立たないパーツを投げすてます。もはや父親越えは十分に達成しています。

※このシーンを確認したい方はこちらから→第33話 コンスコン強襲

【究極の成長アークを遂げる】
戦争に巻き込まれたオタク少年は、どこへ向かって成長・変化していくのか?
その答えが「ニュータイプ」という概念です。
アニメを見たことない方にはよくわからないと思いますが、これ自体が作品のテーマみたいなものです。Wikipediaにも以下のようにあります。

『ガンダムシリーズ』に登場する架空の概念である。新しい人類とされる人間を指すが、作品の規模が広がるにつれて言葉の意味する事象も広がりすぎたため、同じ世界観を有するガンダム作品であっても作品毎に解釈が分かれており現在でははっきりとした定義は困難になっている。

「ニュータイプ」は直感力に優れてテレパシーのような能力をもっているとされ、そのためモビルスーツ(ロボット)のパイロットとして、ずば抜けた戦闘力を示します。ガンダムのゲームであれば、そのまま「強さ」として表現されていますが、アニメ内では様々なキャラクターが、様々な意見を述べています。テーマなので見た人が考えて受け止めればいいものですが、個人的に「ニュータイプとは何か?」が一番、はっきりと表現されているシーンはアムロとララァの共鳴です。二人がニュータイプとしてわかり合った瞬間といえます。

※このシーンを確認したい方はこちらから→第41話 光る宇宙

戦争というテーマの作品においてアンチテーゼとしての「相互理解」。
敵同士が、戦闘中にわかり合う瞬間、殺し合う人類が「ニュータイプ」として進化した瞬間ともいえると思います。
そして、そこに割り込んで入るのがシャアです。見方にによっては、人類の進化を一番妨げているのがシャアともいえるかもしれません。

【ニュータイプになれたアムロ、なれなかったシャア?】
機動戦士Zガンダム』では幽閉状態で、活躍がほとんどないアムロですが、映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では、再びシャアと対決します。

映画内のセリフをいくつか引用してみます。

「革命はいつもインテリが始めるが、夢みたいな目標を持ってやるからいつも過激なことしかやらない。しかし革命のあとでは、気高い革命の心だって官僚主義と大衆に飲み込まれていくから、インテリはそれを嫌って世間からも政治からも身を退いて世捨て人になる」

「(シャアに)貴様ほど急ぎすぎもしなければ人類に絶望もしちゃいない」

シャア「このあたたかさをもった人間が地球さえ破壊するんだ。それをわかるんだよ。アムロ」
アムロ「わかってるよ。だから世界に人の心の光りを見せなきゃりゃならないんだろ」

もはや「迷言」とはいえません。
ララァとの共鳴体験をしたアムロだからこそ、人がいつか変われると信じられるのかもしれません。

ジョゼフ・キャンベルのモノミスにおいて「究極の恵み」に到達した者としてブッダが挙げられていますが「ニュータイプ」に到達したアムロも同格に挙げられるのではないかと思います。ニュータイプでありながら、シャア曰く「重力に魂を奪われた人々」の側につくアムロは、帰還した英雄=「二つの世界の導師」にも見えるのです。

【分類】
アニメシリーズ
キャラクターロール:主人公
キャラクタータイプ:思春期の少年
キャラクターアーク:ポジティブなアーク
ストーリータイプ:組織の中で
プロットタイプ:

映画版
キャラクターロール:主人公
キャラクタータイプ:真理を知る者
キャラクターアーク:フラットなアーク
ストーリータイプ:難題に直面した凡人
プロットタイプ:ミッションプロット

●グッズ紹介
アニメシリーズについてはシャアの記事に書きましたので、ここではプラモデルを紹介しておきます。

緋片イルカ 2019/10/23

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