言動決定要素について順番に考えてきました。前回は主人公の「目的」について考えました。今回は主人公と相対する、敵対者のWANTについて考えてみます。
【からあげを取り合う姉妹】
むかし、シナリオのスクールに通っていたころ、クラスの人が発表した10枚のシナリオで「夕食で最後に残ったからあげを取り合う」というものがありました。
細かくは忘れてしまったけど、アクションシーンさながら、からあげを取り合うコメディがクラス内でウケていました。
今でもクラスメイトと会うと、彼の作品として、みんな覚えています。それだけ印象に残ったのだと思います(個人的には彼の作品では終電を乗り過ごして、線路を歩いて帰るという話が好きでしたが)。
姉妹のどちらが主人公だったかは忘れましたが、姉も妹も「からあげを食べたい」という「目的」=WANTを持っています。
そのために二人は競うことになり、葛藤が生まれています。
からあげを食べようとする娘と、それを阻止しようとする母親でも成立します。「お父さんが帰ってくるまではダメ」と隠そうとするのをこっそり盗み食いしようとする。ちびまる子ちゃんやクレヨンしんちゃんでありそうなシチュエーションです。
【脇役のWANT】
「目的」=WANTはすべてのキャラクターがを持っています。ワンシーンしか出てこない店員さんでも「円滑に仕事をする」という目的をもっていて、迷惑な客がくれば困惑します。
ただしこの店員さんが、かっこよく迷惑な客を表に連れ出して説教したりはしません。そこまでするとキャラが立ってしまい、脇役に見えなくなってしまうからです。キャラクターのレベル分けについてはこちらにをご覧下さい。
本当は、店員さんにも年相応の人生や価値観があって、人間関係もあるのですが、物語では脇役のすべてを描くことはできません。むしろ、作者が描きたいと思った対象こそが「主人公」になりえるのです。
【敵対者のWANT】
脇役の「目的」は強めすぎてはいけないけれど、逆にしっかりと描かなくてはいけないのが、敵対者(antagonist)の「目的」です。
からあげの例でいえば、妹が主人公であれば、姉が敵対者です。
姉は「かあらげを食べたい」のか「お父さんが帰ってくるまで守りたい」のか。
これによって細かい行動が変わってきます。
敵対者の「目的」を曖昧なまま邪魔者にしているような例がよくあります。
1:主人公がからあげを食べようとすると、注意して隠す姉。
2:それでもこっそりと食べようとする妹を見て、姉がパクリと食べてしまう。
1の段階では「お父さんが帰ってくるまで守りたい」という行動に見えるのに、2では「からあげを食べたい」になってしまっています。
作者が意識せずに書くと、このようなブレたキャラクターが生まれます。
主人公については意識するのですが、安易な邪魔者にならないよう、しっかりと敵対者の「目的」も考えるべきなのです。
次回……キャラクター概論37「言動決定要素⑥目的:WANTの変化」
緋片イルカ 2019/09/15
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三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)
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