これまで言動決定要素について順番に考えてきました。前回はシーンにおけるWANTの変化について考えました。今回は物語全体におけるキャラクターの変化とWANTの変化を考えます。
【キャラクターアークの復習】
物語全体を通して主人公が変化するというのはベーシックな物語の考え方です。
主人公は、非日常の体験に接して、自分自身の問題や置かれている困難などに向き合い、成長・変化して、乗り越えていきます。生き方そのものが物語のテーマになるのです。
このキャラクターの変化の過程をキャラクターアークと呼びます。
また、アクション映画などでは、たとえば「地球に危機的な状況が迫る」→「解決する」というように主人公が変化するのではなく、状況が変化するものもあります。
変化しないタイプの主人公についてはフラットなアークと呼びます。
これらは三幕構成の基本的な考え方です。(ご興味があれば成長物語と成長しない物語もご覧ください)
【物語のWANTとシーンにおけるWANTの変化】
WANTという用語は物語全体を通した主人公の目的を言う場合もあるし、1つの1つのシーンにおける「目的」として使う場合があります。基本的には同じなので、厳密に区別する必要は無いのですが、一応整理しておきます。
今回は、わかりやすい変化をしない主人公の例で見てみます。
ドラゴンクエストのようなRPGゲームを想像してみてください。
勇者の物語全体としての目的は「魔王を倒す」です。そのために、冒険へ旅立ちます。
魔王の元へ行くには、洞窟を抜けなくてはいけません。そのためには「仲間の助けが必要」だとします。
これがシーンのWANTです。
その仲間を冒険に誘うと「行きたいが、妹が泉から帰ってこないから今はいけない」と言われます。
ではまずは「仲間の妹を助けたい」というWANTに変わります。
無事に妹を助け、仲間とともに洞窟を抜けていく。
すると次には、魔女の森があり、魔女から次の課題を出されます……
このくり返しで、「魔王を倒す」という目的に向かって、WANTが変化していくのです。
勘の鋭い方はお気づきだと思いますが、WANTは「課題」とセットになっています。
課題は神話論でいえば「試練の道」、ビートシートでいえば「バトル」です(※これはビートシートのベースになっている『Save the cat』には欠けている概念です)。
主人公はいくつかの試練を乗り越えて「宝物」(=「究極の恵み」)へと近づいていくというのが神話論の考え方です。
もちろん「宝物」は比喩で、金銀財宝とは限りません。
この勇者は魔王を倒すことで「平和」を取り戻します。帰ってからはお姫様と結婚したり、褒美の宝をもらうかもしれませんが。
今回は変化しないキャラクター、フラットなキャラクターアークをみてきましたが、「宝」が愛や成長といった精神的なものである場合は、主人公が変化するパターンになります。それについては次回、お話いたします。
次回……キャラクター概論39「言動決定要素⑥目的:ヒーローズジャーニーとWANTの変化」
緋片イルカ 2019/09/21
構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)
文学(テーマ)についてはこちら→文学を考える1【文学とエンタメの違い】
文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」
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