「愛着スタイルと回復変化」(キャラクター論41)

キャラクターに人間のこころを込める

愛着スタイルから「心の悩み」と向き合っていくのはカウンセリングの臨床でとても効果があるそうです。これはキャラクターづくりの実践にも応用できます。
神話学的な「ヒーローの冒険」といった捉え方は構成をつかむときには有効ですが、主人公の行動の軌跡(アーク)だけ示しても、それは人形のようで、昔話のような人物のような薄っぺらいキャラクターになってしまいます。生身の人間を描くには、臨床的なモデルの方が効果的です。

以下は『マンガでわかる 愛着障害 自分を知り、幸せになるためのレッスン』『死に至る病 あなたを蝕む愛着障害の脅威 (光文社新書)』からの要約です。
岡田尊司さんの本はがっつり読書でも何冊か紹介しています。どれも深くて面白いのですが、このマンガ版は、とてもわかりやすいのでオススメです。心理学に疎い人でもすぐに読めると思います。

「愛着スタイル」

・人格の根底にあり、対人関係だけでなく、感情や認知、行動に幅広く影響している。パーソナリティーの重要なベースになっている。
・愛着スタイルは、幼少期の親との関わりを出発点として、その人にとって重要な他者との関係のなかで、長い年月をかけて培われていく。
・愛着を脅かす、もっとも深刻な二つの状況。一つは、愛着対象がいなくなる場合。つまり死別や離別によって母親がいなくなるような場合。もう一つは、守ってくれるはずの親から虐待を受けるなど、安全が脅かされる場合。
・成人でも3分の1もの人が不安定型の愛着スタイルをもっている。2人いればどちらかが不安定型の確率は5割を超える。3人いれば7割にも達する。
・安定した愛着を形成するための臨界期には二つあり、一つは生後六ヶ月から一年半。もう一つは、生まれてから数時間。その間にできるだけ母親のそばにおいて過ごすと愛着が安定しやすい。

安定型
①「安定型(自律型)」
・対人関係における絆の安定性。
・自己肯定感があり、自分が信頼している人が自分をいつまでも愛し続けてくれると確信している。
・率直で前向きな姿勢。肯定的。
・基本的な安心感を持っている。
・父親から身体的虐待を受けたような場合でも、母親との愛着が安定していれば、行動上の問題や精神的な問題を生じるリスクは下がる。トラウマも残りにくい。

不安定型
②「不安型(とらわれ型)」
・不安型の人にとっての一番の関心事は「人に受け入れられるかどうか」「人に嫌われていないかどうか」
・両価的。求める気持ちと拒絶する気持ちの両方が併存している状態。
・幼いころから養育者に過保護に甘やかされる一方で、意に沿わないと強く否定されるといった、極端さの中で育っていることがよくある。そのため「甘えたい」「愛情を求めたい」と願いながらも、「またいつ、手痛い仕打ちが待っているかもしれない」と思う。愛情が無条件なものではなく、状況が変われば見捨てられるという不安を消せない。
・痛みに敏感で慢性疼痛に苦しめられやすい。うつや不安の症状も強い。
・自分の痛みに囚われて、他人の気持ちや考えを理解する力(メンタライゼーション)が弱い。
・親密な関係になると相手に依存し、相手に完璧な親役を求め、自分の期待通りでないと激しい怒りを向けるようになる。
・自殺企図や自傷行為のリスクは「親子関係」がうまくいっているかどうかが重要。
・大宰治。

③「回避型(愛着軽視型)」
・距離を置いた対人関係を好む。親密さを回避して、心理的にも物理的にも距離を置こうとする。親しい関係や情緒的な共有はむしろ重荷。
・願望は「縛られないこと」。依存もしなければ、されることもなく、自立自存を最良とみなす。ゆえに自己責任を重視する。
・葛藤を避けようとする。人とぶつかり合う状況が苦手で、自分から身を引くことで事態の収拾を図ろうとする。
・葛藤を抱えられないことは、短絡的に反応して攻撃的な言動に出やすいことに繋がる。他人の痛みに無頓着なので、相手を傷つけていることに気付かない。
・恋愛では淡白で、相手との絆を何としても守ろうとする意志に乏しい。
・回避型は成長すると大きく二つに枝分かれしていく。
一つは内気なタイプで、自己主張や人との接触を好まず、抑制的に振る舞う。シゾイドのようなタイプも。
もう一つは自己愛型。傲慢なタイプで、ドライで共感性に欠け、相手を見下し、思い通りにしようとする。自己主張が強く、態度は居丈高で、相手を力や理屈でねじ伏せようとする。反社会性パーソナリティ障害のような冷酷で、他人を容赦なく搾取するようなタイプも含まれる。三島由紀夫。
・傷つくようなことがあっても、平然としていて、何事にも動じないかのように見えることがあるが、心拍数や血液中のストレス・ホルモンの変化をリアルタイムで調べると、実はストレスを感じていて、心拍数が上昇したり、ストレス・ホルモンの分泌が亢進したりしている。体に起きている変化に気づかないことで、何も感じていないと錯覚するが、本当はストレスを感じている。ストレスは溜まる一方。
・メンタライゼーションは、他人だけでなく、自分に対しても弱い。自分の気持ちや感じていることに関心が弱く、言葉に表現したり相手に伝えることにも関心がない。失感情症になりやすい。
・自殺企図や自傷行為のリスクは「仕事」がうまくいっているかどうかが重要。

④「恐れ・回避型」(不安型と回避型を同時に持つ)
・愛着不安と愛着回避がいずれも強い愛着スタイル。対人関係を避けて引きこもろうとする人間嫌いの面と、人の反応に敏感で見捨てられ不安が強い面の両方を抱えている。
・疑い深く、被害的認知に陥りやすい。

⑤「混乱型」(無秩序型)
・虐待された子どもに典型的にみられるもので、一定の対処戦略を確立することができないでいるもの。年齢とともに一定の愛着スタイルをもつようになるが、不安が高まると混乱型の状態に戻ってしまうことがある。一過性の精神病状態を呈することもある。
・境界型パーソナリティ障害は、愛着という観点でみれば混乱型に逆戻りした状態といえる。
・愛着の障害が深刻であると、カウンセリングや通常の認知行動療法が機能しない。
・安全を脅かされる体験をくり返し味わうと、交感神経が極度に緊張し、限界を超えると、フリーズやトランス状態を呈し解離する(解離性障害)。

愛着の傷を回復するために

①共感的、体験的なプロセス。
・「安全基地」を確保して不足を取り戻したり、周囲に受け入れられること。
・「安全基地」となる5つの条件。
 1:安全感:一緒にいても傷つけられないこと。もっとも重要。
 2:応答性:求めてるときに応じてもらえること。責任を侵害しないことも重要。依存と安全基地はちがう。
 3:共感性:共感してもらえること。(応答性も共感性も基本は受け身。主役は相手。)
 4:安定性:一貫した行動をとってもらえること。気分や都合で対応が変わらない。
 5:誠実さ:一人の人間として尊重してもらうこと。必要なときには意に反することも言えること。

②言葉を介した認知的なプロセス。
・言語化の不十分な情動的記憶は、無意識に支配し、ネガティブな反応や感情の暴走、乖離を引き起こす原因になる。
・その人の言葉で語ること。

③「振り返る力」
・自らを反省する力であるとともに、相手の気持ちを推測し汲み取る力。状況から一歩下がって、事態を高みから俯瞰するように、大きな視点で眺める力。「内省する能力」「共感する能力」「客観視する能力」。
・自分が自分の親になること。
・メンタライゼーションを高める。

⑤「小さなステップを段階的に進む」
・いきなり難しいことをやろうとせず、自分が努力すればできるレベルから練習を重ねていく。

⑥「決断する」
人に期待や執着するのをやめて、自分が変わることにする。どん底まで落ちて、諦めがついたケース。

現代におけるキャラクターの変化とは

 愛着障害を抱えた人が「安全基地」を見つけて自分に向き合えるようになり、安定を取り戻していく。これはリアルな人間の変化です。その人の人生の幸福がかかっていることを考えれば「命がけの変化」と言いかえることもできます。実際、ひどい愛着障害は自殺や犯罪につながります。それに対して「お姫様は王子様と結婚して、幸せに暮らしました」という終わりがいかに作為的であるかは言うまでもありません。

物語は作り物であるのでリアルにはなりません。自伝を書いても、リアルでなくやはり物語になるのです。リアルの方が正しいわけではありません。たとえばCG技術を見せるためのアクション映画であれば、神話的な主人公でもかまわないのです。

しかし、キャラクターの変化を描く物語であれば、そうはいきません。
そこが見せ所だからです。
CGを見せるためのアクションで、カクカクした動きや、爆発のエフェクトがしょぼければ、観るに耐えないのと同じです。

「心に傷を負った子どもが、優しい人と出会って、幸せになっていく」
こんなドラマが腐るほどあります。

「心に傷を負った子ども」=愛着障害を抱えた人
「優しい人」=安全基地となる人

と置き換えれば、同じキャラクターアークを辿るのは明らかですが、物語では、どうしてもとってつけたようなハッピーエンドになりがちです。

この背景にあるのは、この手の「こころのドラマ」を描こうとする作者が不安定なスタイルであるということがあるのかもしれません。
自身が不安定であるために、物語の中で、自己カウンセリングしているようなものです。これは同じ愛着スタイルを持つ人には、共感されやすいですが、都合のいい願望ばかりで辟易する場合もあります。
その違いは、作者自身が、きちんと安定を取り戻した経験に基づいているかによるのだと思います。

また、元々安定した愛着スタイルを持った人が「こころのドラマ」を書くと、安易な変化が起こります。
自身が安定しているため、人は簡単には変われないということがわからないのです。こういう人こそ、臨床的なモデルを学んでから物語を描くべきです(取材不足と同じです)。

「成人でも3分の1もの人が不安定型の愛着スタイルをもっている」ということからみても、いわゆる「メンヘラ」とか「病む」というのは一部の人の問題ではありません。
岡田さんが別の本に書かれていますが、現代はとても不安定な愛着を抱えやすい社会になってきているのです。

キャラクターアークという物語論的な概念だけでは、物語は通用しなくてなってきてるのです。

緋片イルカ 2020/02/09
2020/03/02補足

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三幕構成の書籍についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)

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