アイデアを育てる(文学#89)

現在「ライターズルーム脚本講習」の課題のひとつに「アイデアを3本提出」というものを入れています。

アイデアといっても「一行でも良い」と伝えています。

まずは日常生活で「作家としてのアンテナを張る」習慣を身につけてもらうことが目的です。

初回ではこんなかんじのものがありました(※参加者が書いたものではなく、あくまで僕が作った「こんなかんじのもの」です)。

「高校生の学園青春もの」

こんなのアイデアにならないと思う人は多いと思います。誰でも思い付きます。

だけど、この人が「刑事が連続殺人事件を追うサスペンスミステリー」とは書かずに「高校生の学園青春もの」と書いたことに意味があるのではないかと思います。

どちらも、この時点ではクリシェです。

企画書として出したら、すぐに破り捨てられてしまうようなレベルです。

ですが「クリシェ」=ダメではなく、クリシェなアイデアを、どうやったらオリジナリティが込められたものに直していけるかが大事ではないでしょうか?

アイデアの種に栄養を与えて、花が咲くまで、しっかりと育てること(果実ができると喩えてもいいですが)。

種だけ見てダメだと判断するような人は(TV局プロデューサーなどに多そうですが)、どんな植物も種から育って花が咲くということを想像すらしていないかもしれません。

最初から花を見せられないと判断できないのです。それは、もちろん自身に「アイデアを育てる能力」がないからです。

だからといって、相手に判断力を求めるのもお門違いです。

花屋では花が咲いている植木の方が目について売れるでしょう。

花でしか判断できない人に見せるときには、ちゃんときれいに咲かせてから見せるようにするという心構えが必要です。

そもそも、アイデアの種を育てて花を咲かせることは作家の仕事です。

経験が浅いと「わからない人」に種の状態で相談してしまい、誤った判断を下され、せっかくのいいアイデアを捨ててしまうことになるかもしれません。

ライターズルームは作家のチームですから、お互いのアイデアに可能性を見つける目をもって欲しいと思います。

具体的に見ていきましょう。

「高校生の学園青春もの」はどこにでもあるジャンルに過ぎず内容が全くわかりません。

主人公は男? 女? どんな性格? 身長/体重はいくつ? 部活は? どんな性格? どんな家族で、どこに住んでいる?……(※あなたなりの主人公像を想像してください)

こんなことを、ねほりんぱほりん質問してやり、作者が答えていけば主人公像が固まってきます。

とくにwantは物語のひとつの軸になります。

「部活の試合で優勝したい」なのか「初めての恋人が欲しい」なのか「受験勉強に追われながら人生の意義を見つけたい」なのか(※あなたなりの展開を想像してみください)

それぞれで、浮かぶ物語がまるで違うはずです。ジャンルも違うはずです。

「学園青春もの」と作者が言っていても、言葉のニュアンスには個人差がありますので、実際は「それ、ラブストーリーだよね」とかって場合もあるでしょう。

主人公の目的から展開が決まれば、クライマックスも浮かんでくるかもしれません。

この過程は「ログラインにしていく」という作業ですが、これは別記事に譲ります。

ともかく、具体的にイメージして育てていくと、最初は「高校生の学園青春もの」という平凡でつまらない種でしかなかったものから花が咲くことがあります。

作者によって花の色が違ったりもします。

種のうちは平凡に見えたのに、咲かせてみたら、初めて見る色の花が咲いたらどうでしょう?

それはもうオリジナリティそのものです。

アイデアを育てるのが未熟な人は、育て方をしっかり学ぶことです。

適切に手を入れてあげれば、必ず花は咲くでしょう。

咲いた花が、やっぱりクリシェだったとしても、育てた経験は次のアイデアを育てるときに役立ちます。

作家として成長したければ、たくさん種を蒔いて、たくさん育てる経験を重ねるしかありません。

書籍で育て方だけ学んで出来る気になってもダメです。

同じ品種の同じ種でも、ひとつひとつ違います。

人間の性格や顔がひとりひとり違うように、物語はひとつひとつ違います。

同じような「学園青春もの」に括られて、同じような展開だったとしても、それでも作者の個性がどこかにはあるはずです。

「クリシェがいけない」というのは仕事や商業的な基準からの評価です。

花屋で売ることはできなくても、自分で咲かせた花はとても素敵に感じられることでしょう。

仕事としての作家を目指しているのでなければ、物語を書くことだけで喜びに感じる人もいます。それはそれで素敵なことです。

仕事との作家を本気で目指している人は、花を商品として見る眼も必要になります。

それは「フックを考える」とか「ビートを入れる」といったことですが、花を咲かせることも出来ていない人が、売ることを考えるのは烏滸がましいでしょう。

まずは「アイデアの育て方」をしっかり身につけましょう。花を咲かせる喜びとともに。

また、仲間との情報交換は有効です。他の人の成功例、失敗例を参考にすることができます。

参考にはできるけど、他人の事例が、自分の答えになるとは限りません。

誰かがうまくいかなかった方法でも、自分にはうまくいくかもしれませんし、逆もまたしかり。

自分の花は、自分で咲かせるしかないのです。

緋片イルカ 2023.8.27

参考記事:
「キャラクターを掘り下げる質問リスト」(キャラクター論43)

「人間のナゾ」(キャラクター論45)

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