三幕構成は設計図に過ぎない(#30)

三幕構成は「プロットポイント」と呼ぶ二つのポイントで、物語を三つの幕(アクト)に分けてとらえます。

「ビートシート」では、より細分化したポイントで構成をみていきます。(「ビート」って何?

三幕構成よりも構成の目盛りが細かいのです。

何をもってビートとするかは個人の解釈次第です。

『セーブザキャット』のブレイク・スナイダーは15個のビートを使います。

ハリウッドの企画書などでも使われるほど一般的なビートシートだそうですが、もう20年以上前の考え方です。

実際に、これに基づいて作品を分析してみるとわかることですが、大雑把で使いづらい部分があったり、不足している部分もあったりするので、このサイトでは他の研究者の考えもとりこんだりして改良した17個のビートを基本としています。

サイトではほとんど解説していませんが、ある種なジャンルやタイプだけに使われる「特殊なビート」もありますが(そのひとつは「ターンオーバー」です)が、今のところはこの17個のビートシートで当てはまらなかったものはありません。

今後、当てはまらない要素が見つかれば、改良していきます。

シド・フィールドは、ブレイク・スナイダーよりもさらに古く「プロットポイント」を2つと「ミッドポイント」のスリーポインツだけで捉えようとする立場もあります。

あらすじのように全体をつかむだけであれば、このスリーポインツだけで十分ともいえます。

むしろビートの意義を掴み切れていない人が、無理にビートシートを使おうとすると混乱します。こっちを立てると、あっちが立たぬといったようになってしまうのです。

それならば、スリーポインツをしっかりと定めた方が効果的です。

三幕構成やビートの考え方は、あくまで「魅力的な作品をつくるため」のものです。

自分が使いやすい形で、効果的に使っていけばいいのです。

書籍や記事だけ読んで、有名な○○さんが言っているからと受け売りで理論を弄んでいても、使えるようにはなりません。

「三幕構成はハリウッドで使われているからすごい!」

「面白い物語は三幕構成になっている!」

といった理屈も同じです。

ハリウッド映画には大成功した作品がたくさんあるけど、大失敗した作品でも三幕構成は使われています。

書籍でも「ビート」の有無ばかりで「きちんと機能しているか?」という観点で分析をしているものは多くありません。

機能していないビートは、ときに弊害ですらあります。

構成はよく設計図に喩えられます。

物語を「家」だとすると、その構造を支えている柱がビートです。

三幕構成を知らない人は、家の壁の内側が、どのような骨組みになっているか知らないようなものです。

建築に携わっていない、われわれ素人が設計図を読めないように、物語を創作する人でなければ知らなくていいのです。

できあがった家だけを見て、感動してもらえば十分です。

けれど、建築家=物語作家になろうとするなら、設計のルールや技法を知らなくては作れません。

スリーポインツは大黒柱のようなものです。これがない物語は、物語としてほとんど成立しません。

三幕構成の理論など知らなくても、物語を作ろうとすれば、無意識に「プロットポイント」は入ります。

だから、どんな物語でも分析してみれば三幕構成にできるし、「三幕構成になっているから面白い」という理屈も成立しません。

「三幕構成になっているから面白い!」というのは「柱があるからいい家だ!」というのと同じです。

家に柱があるのは当たり前です。

「分析をする」というのは、それぞれの柱がどのように配置されているかまで、設計図に書けるまで分析することです。

全体からの配分を測らない分析は、主観的に過ぎないということは前の記事で書きました。

設計図にできた物語は、再現が可能です。

自分の作品に応用が可能なのです。

けれど、これも、書いてみればわかることですが、設計図通りにやっても、うまくいかないことがたくさんあります。

構成は骨格に過ぎないからです。

「家」の柱がどこにあるかは、部屋の構造や強度にも影響して、とても重要な要素ですが「家」を成り立たせているのは構造だけではありません。

壁紙や内装、設備、どういう人が住むのかといったことまで含めて「魅力的な家」ができるのです。

三幕構成を習い始めたばかりに、ビートや構成ばかりを重視して、キャラクターや台詞、文章表現といった基本的な部分を忘れてしまう人も多くいます。

ログラインやビートシートがよくできていても、そこから面白くなるかどうかは、また別の能力です。

このサイトではキャラクター論や、文章テクニックとして解説していますが、こういったものは構成に比べると、やや主観的になりがちです。

壁の色が「ピンク」と「ライトグリーン」とどちらがいいか? といったことに近いからです。

生理学的に白よりもピンクやパステルの方がリラックスできるといった観点から「病院の壁ならこっちの方がいい」といった一般論は引き出せます。

一般論は、大衆受けする=エンタメではその方が受け入れられやすい、売れやすいといえますが、創作はあくまで作者の個人的な表現の部分があっても良いのです。

むしろ、作家としては拘りは捨てるべきでないでしょう。

原色のような真っ赤な壁の病室は、誰が見ても恐怖を感じますが、それが映画のセットや、精神異常者の部屋であれば、演出としては相応しくなります。

こういった、物語の目的に合わせて選ぶことが「ビートが機能している」ということにつながります。

近年、構成の理論ばかり流行っているのを感じますが、地味な文学論や主観的な表現論を、切り捨ててしまうとせっかくの「三幕構成」も、ただのへりくつになってしまうように思います。

(※ここでは前衛的なアートや、そもそも「物語とは?」といった哲学的な疑問は問わないことにします)。

緋片イルカ 2020/11/18

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