映像作品の尺には「短編映画」「一話完結ドラマ」「映画」「連続ドラマ」があると言える。
それぞれ構成(ビートの使い方)も変わるし、ストーリーのネタも随わる。
短編映画
短編映画の構成については以前に記事を書いた。短編映画の構成と魅力(三幕構成51)
短編映画の尺は仮に「10分~30分」とする。
僕が陸上競技をやっていたのになぞらえて喩えるなら100m走だと思う。「よーい、ドン!」でスタートしたら全速力で走り抜けるだけ。
ストーリーのネタやキャラクターとして何か惹きつけるものがあるか、演出が巧みなだけでも30分ぐらいなら楽しめる。
荒削りなところがあっても、目立った魅力があれば楽しめる。耐えきれるとも言える。
日本ではショートフィルム文化が浸透していないが、海外では新人監督の登竜門になるのも当然で、短編で魅力を出せない監督が、それ以上の尺で惹きつけられるわけがない。映画でいえば最初の10分、ましてや30分しても面白くならない作品など、その後には期待できない。
なお、超ショートとでもいうべきか、5分以下ぐらいになってくると、もはや構成の入る余地などほとんどなくなってきて、一発ネタのような動画になる。そもそもストーリーですらないものも多い。SNSや動画サイトの素人が作った動画がバズるのは、この一発ネタのようなものばかりで、数秒で人を面白がらせる能力と、2時間で面白がらせる能力はまるで違う。
超ショートで台詞なしで「人間の一生を早送りにしたようなもの」がときどき流行るが、あれは普遍的なテーマを、セリフないゆえの映像的な強さで見せるモンタージュに過ぎない。感情的なフックはあるが、それ以外のタイプでストーリー性を感じる超ショートを、僕は見たことがない。
日本アニメは30分枠が基本で、本編にすると25分弱で一話完結であれば短編動画の範疇と言える。
『サザエさん』や『ドラえもん』のような定番アニメは30分枠に2、3話あったりしてさらに短い。
『名探偵コナン』の一話完結の回も想像しやすい。
トリックや犯人に強引なところがあっても、短編の時間内に完結させられると、大満足でなくても不満というほどでもないということがよくある。
一話の中に事件があって、それなりのアイデアがあるので楽しめるのである。『ドラえもん』でも1話内に1つの道具が出てくる。
もちろん、これらを成立させている前提として、観客がキャラクターを承知しているのでセットアップに時間がかからないということもある。
完結ドラマ
ここでいう完結ドラマは、ストーリー的に一話完結のドラマで、尺としては「45~80分」ぐらいとする。
テレビドラマの1時間枠から、初回や最終回のスペシャル回などの長さ。
短編に比べて、この尺が日本では鬼門になっているように感じる。
とくに地上波連続ドラマで10話ぐらいの尺があると、実質は「45分×10回」という尺になる。
初回はキャラクターのセットアップしながら事件を起こすので、自然と映画に近い構成になるが、2話目以降は間延びしがちになる。
ビートの考えが浸透していない日本ドラマでは、短編程度の内容を間延びしただけの演出になってしまいがちで、テンポが悪く見える。構成上の弱さが原因である。
間延びを埋めているのは、役者の遊び(もちろん良い遊びを含む)で、それを楽しめる人は良いが、そうではない、映像作品としての面白さを求める人は映画や海外ドラマに流れていってしまう。
映画
映画はおおよそ「100分~180分(3時間)」ぐらいとしておく。
基本のビートは120分ぐらいに出来ていて、スリーポインツで4等分すれば、実質は「30分×4つのシークエンス」にしているようなもの(各アクトでテンションが変わるが)。
最近の映画で増えてきた、3時間あたりの映画では、演出、予算などで、スケールが大きいので耐えられるが、ストーリーのテンポとしては間延びしてしまっているものも多い。ハリウッド式ビートシートの弊害だとも思う。これは日本の地上波ドラマで起きている問題と似ている。
逆に、100分程度の映画の見心地の良さは、30分枠アニメに似ている。
120分に比べれると、20分程度の長さになるが、それが少ない分、テンポの良さに繋がる。けれど、映画としてはあっさりし過ぎていて物足りなさに繋がる場合もある。
観客は、提供される尺の中で見るしかないが、テンポの良し悪しは無意識的に感じている。
邦画ではテレビドラマの延長で、予算が多いのと尺が長いだけの映画のようなものがあり、レビューなどで「テレビで十分、映画館で見なくていい」などと書かれてしまうようなもの。
観客は、映画版だからといって、爆発とかの派手さばかりを求めている訳じゃない。観客はそんなにバカじゃないし、それが見たいだけならハリウッドの大作映画を見に行く。
映画版には、ストーリー的なスケール感も映画にする必要がある。
連続ドラマ
一話完結ドラマを「45分×10回」と想定したが、連続ドラマと呼びたいものは「45分×10話」で一つのストーリーが完結するようなもの。実質は「450分」ものと考えると3時間映画よりも長い。それでいて、予算も映画より小さいことがほとんどだろう。
この条件になると、観客を引っ張り続けるのは難しい。
最近の地上波ドラマで流行るものは、良い意味で「ダラダラ」を許容できるものが多い気がする。
海外ドラマは予算が大きいのもあれど、ビートがしっかりしているので、次々と先を見たくなる構成をしている。ドラマやサスペンスのような、一般観客の印象として、予算差を感じにくいジャンルで比べるとよくわかる。一話完結ものでも、連続ドラマとししての大きいアークと、シーズンごとのアークが二重、三重に重なって進行している。
連続ドラマの長さ(3時間映画でも同じ)に対応するにはセーブザキャットのような映画用のビートでは足りない。
つまり主人公のアークプロットは120分もあれば十分に描けるのに、それを3時間以上も引っ張るのは間延びしているだけでしかない。
マルチプロットにするかヴォルテックスを応用するかが、現状、僕がわかる対応策。
陸上競技になぞらえるなら長距離走といえる。トラック競技の長距離走でもマラソンでも構わないが、トラック競技としてみると10000m走は競技場のトラックを25周回る。
400m×25周というイメージは連続ドラマに近いかもしれない。実際、海外ドラマでは人気あれば何周(何シーズン)でも走り続ける勢いだ。
競技としての長距離走を経験したことがない人は、1周や2周、調子が悪くても後半で取り戻せると思うかもしれない。オリンピックなどの予選や決勝が分かれているレースでは、順位が重要なので、お互い様子を見合ってペースが遅くなることもあるので、そう見えるだけで、実際タイムという観点で見たら、気を抜いていい周などない。
世界新記録を出すつもりであれば、最初から最後まで世界一で走り抜けなければいけない。
日本のドラマで世界に戦っていくなら、すべての話数、すべてのシーンで完璧を求めていくような意識を持っていく必要がある。
海外ドラマでも、実際は、隙がけっこうある。
映像作品は企画~撮影~ポスプロまでのいろんなことが絡まって、完璧にいくとは限らないし、ひょうんなことから奇跡的な完成度が生まれている回もあるだろう。
とはいえ、全くの運というわけではなく、常に完成度を高める意識があれば、平均的に高まることは間違いない。
意識を高めていければ、日本のドラマでも、海外ドラマに戦っていけるはずだ。韓国ドラマには負けていられない。
イルカ 2024.2.16