今回は、シーンにおけるストーリーの役割と、演出の役割ということを考えてみます。
ストーリーを脚本家、演出を監督の仕事と置き換えてみると、それぞれの仕事の領域とも考えられると思います。
演出にリアリティがない脚本の例
○路上(夜)
タロウとハナコがケンカしてる。
ハナコ、タロウをビンタする。
タロウは転んで、スマホが落ちて壊れる。
こんな脚本は「演出」がわかっていない人が書く本です。
どこがいけないか、わかりますか?
わからない人はタロウの役を、あなたが演じると思って読んでみてください。
性別は無視して、タロウを女の子にしても構いません。
わかりましたか?
ビンタをされて転ぶという演技はとても難しいと思います。
ビンタというのは横から叩かれる動作なので、その力で転ぶとなると、相当な力です。
屈強な男に殴られたというのなら、まだ、わかります。アニメやアクション映画ならありえます。
けれど、女の子にビンタされた男が転ぶというのは、わざとらしい演技になるのです。
リアリティがないとも言えます。
こういうシーンを書くライターは、ストーリーの都合しか考えていないため、キャラクターにありえないことをさせているのです。
どう修正すればいいでしょうか?
ポイントはこのシーンで、ストーリー上、大切なことは何なのか?です。
「タロウとハナコがケンカをすること」が大切であるなら、ビンタしなくても構いません。
ハナコがぷいっと背を向けて、立ち去ればいいのです。
「スマホが壊れること」が大切であるなら、ビンタをしようとするが、スッとかわしたが、手からスマホが落ちたとすれば、シーンの目的は達成できます。
ただし、どちらの例も、リアリティの中で目的は達成していますが、演出的な面白さはありません。
演出が過剰な例
では、今のシーンを演出家の立場から、面白くすると考えてみましょう。
「ビンタでは面白くない。ハナコにハイキックさせてみよう。それならタロウも転ぶだろう」
こんなことを考える監督は、脚本が読めない監督でしょう。
ビンタよりハイキックの方が、演出的には派手で意外性もあるかもしれません。
けれど、ハナコには格闘技術をもったキャラクターだったのでしょうか?
監督の思い付きのせいで、脚本家が創り上げたキャラクター性を壊してしまいます。
「いや、ここは、ただのギャグだから」なんていう演出方針の監督もいるかもしれません。
実際、韓国映画では、こういった演出法が許容されているので、シリアスの中に不自然な笑いが入ります。
好みが分かれるところですが、個人的には、これは演出のブレだと感じます。アメリカ映画では、リアリティを崩さずに笑いを入れます。韓国映画ではコミックリリーフの入れ方が雑に見えます。
話を戻します。
リアリティの中で、面白味を加えつつ、ストーリーの流れも崩さない。これが演出の仕事です。
僕は脚本寄りの人間なので、演出は巧くありませんが、
「ビンタをかわしたタロウが、ちょっと勝ち誇った顔をする。それに苛ついたハナコは股間を蹴り上げる。思わず手からスマホが落ちる。」
こんなところでしょうか。
脚本と監督の領域
脚本家は「面白いストーリー展開を創り上げる」のが仕事ですが、リアリティのあるシーンづくりも大切です。
そのためには、脚本家も演出のことが、わかっていなければなりません。
一方、監督は、それぞれの「シーンを面白く演出していくセンス」のが仕事ですが、それだけでなく、ストーリー展開を崩さないだけの読解力が必要です。
監督と脚本を両方やる人もいますが、本当に両方の才能を持っている人は稀で、どちらかだけが前面に出ていて評価されていることが多いように思います。
演出の能力が高い人は、映像的には面白いのだけど、ストーリー的にはごまかしがある(分析記事の中でいえば『ジョーカー』。監督と脚本は別の人ですが。演出優位の作品です)
脚本優位は、ストーリーや台詞は面白いけど、演出はそれほどでもない(分析記事で言えば『女と男の観覧車』。赤と青は演出としてはやり過ぎです)
監督と脚本が、分業をするのは、当たり前によくあります。うまく噛み合えば、それぞれの良いところが出て、相乗効果が働くでしょう。その逆も、またしかり。
どこまでが、どちらの領域なのか、考えてみることは、その仕事の本質を見抜くヒントになると思います。
小説ではストーリーも演出も一人でこなすことになります。
シーンに魅力がないとき、ストーリーに問題があるのか、演出に問題があるのか、分けて考えてみることは有効なはずです。
緋片イルカ 2021/04/05
おかしな人間の夢
自殺を決意した男が夢から覚めた後、真理を発見し自殺をとりやめる幻想的な短篇
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話にでた小説です