(※以前、文章添削として連載していたシリーズですが、わざわざ悪文を考えるのがなかなか大変なので添削に拘らずテクニック集として紹介するシリーズに変更しました。キャラクター概論2ではモノローグの使い方について、概論3では地の文での注意なども書きましたので併せてご覧ください)
例文1
タロウ「なあ、中島さんのところへ行ってみよう!」
ハナコ「うん!」
シンプルな会話です。ところで中島さんって誰?って思いますよね。
中島さんは「この物語の第一章でちょこっと出てきたおじいさん」ってことにします。
忘れてしまっている読者も多いかも知れません。
すると、この会話で「中島さん」と言われても混乱してしまいます。
几帳面な読者ならページをめくって戻ってくれるかもしれませんが、別の読者はそのまま進みます。
映画館など、巻き戻しができない環境で見ている人も強制的に進むことになり、ストレスがかかります。
「誰だっけ?」と考えることで、入り込んでいた物語の世界から気持ちが離れてしまいます。
こういう状況で、さりげなく、思い出させるテクニックが「リマインド」です。
例文2
タロウ「なあ、中島さんのところへ行ってみよう!」
ハナコ「中島さんって?」
タロウ「ほら、前に公園で会ったおじいさんだよ」
こうすることで「公園で会うシーン」が、印象に残っていれば思い出してもらえます。ただし、やや説明するための段取り会話になっているかんじもします。
もしもハナコの方が「中島さん」に詳しくて忘れるはずないような関係であれば、不自然な会話に見えてしまいます。
その場合なら、
例文3
タロウ「なあ、あの人のところへ行ってみよう!」
ハナコ「あの人って?」
タロウ「ほら、公園で出会った……」
ハナコ「中島さん?」
タロウ「そう、あのおじいさん!」
こんな風にすれば自然と会話が進みつつ、リマインドできます。
例文4
タロウ「なあ、あの人のところへ行ってみよう!」
ハナコ「あの人って?」
タロウ「行けばわかる。ついてこい!」
と、観客とハナコの疑問をリンクさせて、次のシーンに進めてしまうのは映像的な手法です。
次のシーンで、中島さんの家の外観が映されたりすれば、観客も「ああ、あの人か」と思い出します。
ハナコ「あの公園の会ったおじいさんね」
と、補足を加えても邪魔になりません。
ここから改めて考えると、例文1にあった「ほら、前に会ったおじいさんだよ」というセリフは説明セリフで不必要だったとわかります。
疑問を抱かせたり不必要なストレスを与えないのは、読ませる・見せるテクニックです。
読者・観客が覚えているかどうか、思い出させるきっかけを与えましょう。
緋片イルカ 2019/06/17
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キャラクター論についてはこちら→キャラクター概論1「キャラクターの構成要素」
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