文章テクニック9「言い間違い」

今回はセリフにおける「言い間違い」について考えていきます。

【リアルな会話とリアリティのある会話の違い」
まずはじめに「セリフはリアリティが大切だけど、リアルではない」ということを確認しておきましょう。
リアリティとリアルは違います。
現実のように生々しいセリフはいいセリフですが、現実そのままの会話は単調でムダも多くて退屈です。

この違いがわからない方は、友達でも家族でもいいので、意識せずに会話したものを録音して、一字一句性格に文字起こししてみるといいと思います。
イルカはカウンセリング勉強している時に、この作業をしたことがありますが、いかに自分が、無意味な相槌を打っていたり、言い間違えてもそのまま会話が進んでいたりといったことがわかります。

例えば、家族との会話で母が「中島さん」と呼んでいても、流れから「ああ、中野さんのことだな!」と思えば、いちいち訂正せずに話を聞いてしまうことがあります。それがリアルな会話です。
しかし、物語で名前を言い違えてしまうと、作者か演者のミスと思われて観客・読者に指摘されかねません。

では、物語のキャラクターは言い間違えてはいけないのかというと、むしろ逆で、意図的に言い間違いをさせることでリアリティを出すこともできます。

例文1
タロウ「あの中島さんっていただろ、頭の禿げた……」
ハナコ「中野さんでしょ」
タロウ「どっちでもいいけど、その中野さん、さっき道で警官に捕まってたよ」

とでもすると、タロウは「中野さん」にも事件にも、あまり興味のない様子がうかがえます。
続きを考えてみます。

例文2
タロウ「あの中島さんっていただろ、頭の禿げた……」
ハナコ「中野さんでしょ」
タロウ「どっちでもいいけど、その中野さん、さっき道で警官に捕まってたよ」
ハナコ「ふーん」

このセリフだけを見るとハナコも興味がないように見えます。
しかし、ハナコが実は動揺していて「もっと詳しく聞きたいと思っているが夫に中野さんとの関係を知られたくない」といった状況だったら、これだけでは誤解されてしまいます。
ト書きで「ハナコは動揺を隠しつつ、」などと書いてしまうことで演出家や役者が汲み取ってくれることもありますが、読み手に想像力がないとハナコも興味がないのだと受け取ってしまいます。
それで下手なテレビドラマなどでは、

例文3
タロウ「あの中島さんっていただろ、頭の禿げた……」
ハナコ「中野さんでしょ」
タロウ「どっちでもいいけど、その中野さん、さっき道で警官に捕まってたよ」
ハナコ「え?」
タロウ「なんだ、お前、あの人と知り合いなのか?」
ハナコ「別に知らないけど……」

などといった不自然な説明会話になってしまっていることが多くあります。これが脚本家や演出家のレベルによるのか、観客のレベルに合わせて意図的に説明しているのかは知りませんが、あまりリアリティのある会話でないことは明らかです。

【小説では地の文で空気感を出せる】
小説であれば、地の文を使うことで、その会話での空気感をいくらでも描写できるので、セリフ自体は単調やリアルであっても構いません。ただし作者の筆力が問われます。

例文4
「あの中島さんっていただろ、頭の禿げた……」
 タロウが中野さんのことを言ってるのだとすぐにわかった。だけど私はあえて訂正しなかった。
「あのじいさん、さっき道で警官に捕まってたよ」
「ふーん」
と、最大限どうでもいいふりをして私は相槌をうったが、食器を持つ手が震えるのが自分でもわかった。

拙い例文ですが、「ふーん」というセリフでも描写と組み合わせることで意味がでてくることはご理解いただけるかとは思います。

精神医学のフロイトに言わせれば、言い間違いや言葉を噛んでしまうことでも無意識に現れになります。
そこまでではないにしろ、言い間違いを効果的につかっていくことで、会話にリアリティを持たせることができるのです。

緋片イルカ 2019/06/17

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