【重複はストーリーを停滞させる】
小説でも映像でも、キャラクターの感情を意識することは大切です。けれど、それ以上に大切なのが観客・読者の感情です。
今回は具体例の方がわかりやすいと思うので、みていきます。脚本にします。
例1
○公園
学校帰りの小学生タロウとハナコが通りかかると、段ボールを捨てようとしている男がいる。
男「ごめんな……」
子犬の入った段ボールを植込みにおいていく。
タロウとハナコ、顔を見合わせて近づく。
段ボールの中には子犬が2匹。
ハナコ「かわいそう……」
タロウ「捨てるなんて、ひどい奴だな」
ハナコ「きっと飼えない理由があるんだよ」
タロウ「だけど……」
ハナコ「ねえ、タロウの家で飼えない?」
タロウ「え?」
ハナコ「うちはマンションだからペット禁止なんだよね」
タロウ「飼えるなら飼いたいけど母ちゃん犬アレルギーだからな……」
ハナコ「そっか……」
ハナコ、犬を撫でながら、
ハナコ「タロウが犬飼ってたら毎日、遊びに行くのになあ」
タロウ「……母ちゃんに聞いてみるよ!」
ハナコ「ほんと? やった!」
○タロウの家・玄関・中
タロウ、子犬を抱えて入ってくる。
母が出てくる。犬を見て慌てて、
母「タ、タロウ、どうしたの? その犬?」
タロウ「公園で拾った」
母「え?」
タロウ「男の人が捨ててたんだ。きっと飼えない理由があるんだってハナコと話して……」
母「ダメよ、元の場所に返してきなさい」
タロウ「でもハナコの家はマンションで飼えないし、うちじゃないと……」
母「ダメったら、ダメ」
一見すると、普通の流れに見えるかもしれませんが「ストーリーが停滞してる箇所」があるのがわかりますか?
それはタロウが母親に犬を拾ったシチュエーションを説明しているセリフです。質問をする母も、説明するタロウも、キャラクターの感情としては問題ありません。
しかし、観客は前のシーンを見ているのですべて知っているシチュエーションです。母に反対されることも前シーンの予想通りの展開なので、意外性もありませんし、個性的な母親のキャラクターを見せるシーンにもなっていません。
どうやったらストーリーを進められるか、いくつか見ていきましょう。
【対策1:シーンをごっそりカットする】
以下、具体例で示していきます。太字以外は前と同じです。
例2
○公園
学校帰りの小学生タロウとハナコが通りかかると、段ボールを捨てようとしている男がいる。
男「ごめんな……」
子犬の入った段ボールを植込みにおいていく。
タロウとハナコ、顔を見合わせて近づく。
段ボールの中には子犬が2匹。
ハナコ「かわいそう……」
タロウ「捨てるなんて、ひどい奴だな」
ハナコ「きっと飼えない理由があるんだよ」
タロウ「だけど……」
ハナコ「ねえ、タロウの家で飼えない?」
タロウ「え?」
ハナコ「うちはマンションだからペット禁止なんだよね」
タロウ「飼えるなら飼いたいけど母ちゃん犬アレルギーだからな……」
ハナコ「そっか……」
ハナコ、犬を撫でながら、
ハナコ「タロウが犬飼ってたら毎日、遊びに行くのになあ」
タロウ「……母ちゃんに聞いてみるよ!」
ハナコ「ほんと? やった!」
○タロウの家・玄関・中
タロウ、子犬を抱えて入ってくる。
母が出てくる。犬を見て慌てて、
母「タ、タロウ、どうしたの? その犬?」
タロウ「えっと、公園で拾ったんだけど……」
母の表情がオニのように怖くなっていく。
○公園
タロウ、段ボールを持って公園のベンチに座っている。
母とのやりとりをまるまるカットして、次のシーンへ進める方法です。母の表情など、展開を予想させる描写は必ず残しておきます。「これ以上は言わなくてもわかるよね?」というところでカットをしないと、ただの説明不足になる可能性があるので注意しましょう。
【対策2:意外な展開をみせる】
公園でのシーンは例1、2と同じです。3回目なので、家に連れ帰ったところからはじめます。
例3
○タロウの家・玄関・中
タロウ、子犬を抱えて入ってくる。
母が出てくる。犬を見て慌てて、
母「タ、タロウ、どうしたの? その犬?」
タロウ「うちで飼えないかと思って……」
母「あら、そう。じゃあ小屋を用意しなきゃね」
タロウ「飼ってもいいの?」
母「もちろんよ。放っておけないでしょ?」
母、にっこりと笑う。
前シーンの「母が犬アレルギーで難しそう」という予想に反しているため「?」となります。何か理由があるのかもしれませんし、母はタロウのいないところでこっそり捨てにいくかもしれません。さいごのにっこりが怖くも見えてきて、次の展開が気になります。「ストーリーを前に進める」というのは観客が「次どうなるか知りたい」と感じるのと同じです。
【対策3:キャラクターを見せる】
重複情報が「ストーリーを停滞させる」といっても、もちろんケースバイケースです。。
たとえば「公園で犬を拾うシーン」のあとにハナコのシーンがいくつか入っていて「タロウが家に帰るシーン」が後回しになっていたなら、観客はタロウのことを少し忘れている可能性もあるので、思い出してもらう意味で「拾ってきたんだ」と言わせて、ストーリーのつながりを意識してもらいます。これは前にリマインドとして紹介したものです。
他にもキャラクターを見せるのであれば、シーンの目的が変わります。
また、タロウが家に帰ってきたところから始めます。
例4
○タロウの家・玄関・中
タロウ、子犬を抱えて入ってくる。
母が出てくる。犬を見て、
母「タ、タロウ、どうしたの? その犬?」
タロウ「うちで飼えないかと思って……」
母「ダメに決まってるでしょ。捨ててきなさい」
母、靴を履いて、
母「仕事行くから、夕食は冷蔵庫。帰りは深夜だから鍵は締めておくのよ」
タロウ「うん……」
母「その犬は、元の場所に返しておきなさい。いい?」
タロウ「……」
母、家を出ていく。
扉が閉まったあとの静寂の中、犬が鳴く。
「母が捨ててきなさいと言う」という展開は前シーンの予想通りですが、まったく印象が変わります。これは母のキャラクターと、その母に対するタロウのキャラクターを見せるシーンになっているので、シーンの意義がちがうのです。「飼えるかどうか」とは別の意味で、この母子や犬がどうなっていくのか「次どうなるか知りたい」と思わせます。
【大切なのは……】
物語に正解はないので、とにかくケースバイケースです。対策方法は無限にあります。
ただ、大切なのは観客・読者の感情ということです。よく言われる「じぶんの書いたものを、時間をおいて読んでみなさい」は観客・読者の視点で読んでみるということに他なりません。
緋片イルカ 2019/10/19
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