映画『星を追う子ども』(三幕構成分析#60)

※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。

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※あらすじはリンク先でご覧下さい。

【ログライン】

自分の居場所を探すアスナ。ある日、襲ってきたケツァルトをきっかけに地下世界アガルタから来たシュンと出会う。そのシュンが死んだと聞き、死んだ妻を忘れられない教師森崎と共に死者を甦らせるためにアガルタへと向かう。旅を通じて生死や別れに触れ、自分の寂しさに気づくことになる。アスナ・共に冒険したシュンの弟シン・森崎、それぞれが故人の死を乗り越えていく。

【ビートシート】


Image1「オープニングイメージ」:「鉱石ラジオ」
アスナは1人で山を駆け上がり、秘密基地で父親から譲り受けた鉱石ラジオを聞く。
そこから不思議な音楽が聞こえる。
この後「あれから聞こえないね。あの音」というセリフが表すように、音楽が聞こえてからの時間経過のシーンが入る。
CC「主人公のセットアップ」:「家事をし、友達とも距離を置く」
秘密基地から帰ってから洗濯を取り込み、食事を作る。お風呂後のような描写の中もあるで母親の姿はない。帰宅直後に消し忘れの照明の明かりに母親を期待したところからも、普段から母親がいない生活をしているのが伺える。
翌日に米の購入・風呂掃除・洗濯している部分からも家事はほぼアスナがやっている印象が強くなる。
先生から友達との下校を推奨されて、友達から誘われても断ってすぐに家事をし、秘密基地へ向かう。人と距離を置くが、電車の中の人々を眺めるというシーンもあり、寂しさを抱えているのが想像できる。
Catalyst「カタリスト」:「鉄橋でケツァルトルに遭遇する」
秘密基地へ向かう際に瀕死のケツァルトルに遭遇する。これをきっかけにアガルタから来た少年シュンと出会うきっかけになる。
シュンのクラヴィスが光るとケツァルトルは絶命する。
電車が近づき、死骸落ちる。アスナとシュンもその場を離れる。
Debate「ディベート」:「シュンのセリフ」
アスナが起きると秘密基地だった。
シュンは「この山に近づかないほうがいい」と告げる。
翌日アスナは学校を休み、秘密基地へ行く。自分だけの場所が欲しくて作った秘密基地。したいようにしたい。そう言うとシュンは共感する。
→ここがアスナの1つ目のWANT「自分だけの場所を求めている」に該当する。

ケツァルトに負わされたけがをアスナは手当し、仕上げに自分のスカーフを結ぶ。
シュンは鉱石ラジオに使われている医師がクラヴィスであること、自分がアガルタで歌った最期の歌を聞いたのがアスナだということを知り、アスナに祝福を与える。
アスナは額へのキスに驚き、シュンに惹かれ「また明日」と約束する。
→シュンに惹かれることでWANTが少し変化し「自分だけの場所(人)を求めている」になっているように感じた。
Death「デス」:「シュンの訃報」
母親が電話を取ると、アスナのスカーフを巻いた男子の遺体が川で見つかったという内容だった。
朝からシュンのためのお弁当を用意していたアスナが、夜にずぶ濡れで帰ってくる。母親は訃報を告げる。
→惹かれていた相手が来ないどころが死んだと聞き、現実逃避するような言動を見せる。
シュンを「自分だけの場所(人)」として拠り所にしようとしていたのが死により叶わなくなる。

授業でモリサキから死者復活の神話を聞き、モリサキを尋ねアガルタの詳細を聞く。
秘密基地に行くとシュンにそっくりのシンに出会う。アスナはシンをシュンとしか思えず近づくが「あいつはいない。起きたことはもう忘れろ」と突き放される。
→本当は生きているのではないかという希望を壊される。
PP1「プロットポイント1(PP1)」:「洞窟に入る」
アガルタを認知している集団アルカンジェリがシンを追う。アスナも共に逃げる。
洞窟の中に入りクラヴィスの力を借りて岩で入り口を塞ぐ。
→神話の天の岩戸・黄泉の国への道などを彷彿させ、これから別世界に行く準備。

門番とされるケツァルトルと遭遇し、シンは殺さないように(クラヴィスを近づけないように)するが、追ってきたアルカンジェリに殺される。
→ここで最初のケツァルトルが何故死んだのかがわかる。クラヴィスは生死をつかさどる鍵。

シンがアガルタへと戻り、モリサキ・アスナもアガルタを目指す。
→異世界へと入る。
Pinch1「ピンチ1」:「アスナの両親」
妊婦の母親とそれに寄り添う父親。2人は生まれてくるアスナの幸せを願う。
それを見たアスナは「そろそろ生まれなくちゃ」と目を覚ます。
→両親のセリフに祝福・生れ落ちるだけで幸せなど出てくる=生まれる(出会い)
Pinch2の別れと死者復活への疑問へのフリ。
MP「ミッドポイント」:「死者復活の方法の存在」
途中助けた子供マナの祖父から方法があることは聞き出せた。
→目的として据えていた死者復活が不可能ではないとわかるシーン。
Fall start「フォール」:「死者復活を止められる」
このシークエンスでは常にアガルタの生死の概念が説明されている。
マナの祖父も「死者と己を憐れみ続けるのは間違っている」と方法の仔細は話さない。
→不可能ではないのにやり方がわからない。
Pinch2「ピンチ2」:「別れについて」
ミミとの別れ。死者を復活させることへの疑問。
→生死・出会いと別れ。Pinch1のウケ。
PP2(AisL)「プロットポイント2」:「崖から降りれない」
崖(インステラ)を降りきった先に生死の門がある。
森崎は躊躇なく降り始めるが、アスナは恐怖で諦める。
→シュンを復活させるという目的が達成できない。できない自分に落ち込む。
死者復活への強い意志はなく、シュンと出会ってからの時間からいっても軽薄な行動だったのが明確になる。
森崎にマナの祖父の元へ向かうように言われているにも関わらず、動けない。
DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「アスナの回想」
イゾクから逃げながら、アスナが回想する。
シュンが祝福をくれ、母親も友人もシン・森崎も自分を気にする言葉をかけてくれていた。
アガルタに来た理由はただひとりになるのが寂しかっただけだと気づく。
→心のどこかでシンがシュンではないかと望んでいたり、「自分だけの場所(人)」を失った状態でいたくなかったからだと理解したように思えた。
BBビッグバトル:「生死の門」
森崎が生死の門に辿り着き、船がインステラに留まる。
ミミを吸収したケツァルトルが現れ、アスナとシンを下まで送り届ける。
生死の門では妻のリサを復活させるために肉の器を用意しなければならない森崎がいた。
アスナは肉の器にされ、リサが蘇る。アスナは死者の世界でミミとシュンに別れを告げ意識を取り戻す。同時にリサが消え、森崎は愛を過去形で告げることができた。
→アスナがリサの器になることで、アスナはシュンに別れを言えた。これは心の拠り所を作ることで孤独を癒すという行為にさようならできたシーン。
リサが消えることで森崎も「愛している。愛していた」と告げ、過去形にすることができるようになっている。
森崎を激励していることで、シンも死を乗り越えているのがわかる。
image2「ファイナルイメージ」:「それぞれの道を歩む」
代償のために視力を失った森崎を支えながら来た道を引き返す、アスナとシン。
アスナは現実世界へ。森崎は留まり、シンはシュンと同じ場所にアスナのスカーフを巻いている。
→死を乗り越えたことで、それぞれの道へ進むことができている。
エピローグ:
アスナは日常に戻っている。「いってきます」を言う顔は、憂いや迷いがない顔をしている。

【感想】

話の内容は自分の大好きな王道ファンタジー。
ところどころジブリを彷彿するシーンがあったのもまた面白かったです。
分析としてはMPをどこにすればいいか、かなり悩みました。
アスナの物語だけなら、そもそも非日常に行きたいという気持ちがあったから旅が楽しい!となっている部分だよなぁ……と。
アスナのキャラクターアークに引っ張られないように後半は3人分書き出して、映画キャッチコピーの「それはさよならを言う物語」というのも参考にして「死者復活の方法が存在するとわかる」部分にしてみました。
キャラクターの心情の変化が剛速球だったのと、話の内容が密すぎてついていけない部分のある大変な作品でした。

(雨森れに、2022.9.16)

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『映画『星を追う子ども』(三幕構成分析#60)』へのコメント

  1. 名前:緋片 イルカ 投稿日:2022/09/20(火) 17:51:37 ID:bcb884085 返信

    分析ありがとうございます。

    雨森さんの分析はwantの変化をしっかりととるように分析されているので、読んでいて流れを掴めている印象があります。この作品はかなり昔に見たので、内容をまるで覚えていない+ファンタジー設定が言葉だけでは理解しづらいのですが、それでも、ストーリーの流れがよくわかる分析だと感じました。(※分析は作品を見ていない人にわかるように書く必要はないので、ファンタジー設定の説明が不足という意味ではないです!)

    邦画はビートを踏まえていないこと多いため、そもそも曖昧という可能性もありますが、PP1としている「洞窟に入る」の目的が「生き返らせたい」などであれば、MP「死者復活の方法の発見」というのは妥当な捉え方だと思います。66%は遅いと思いますが、まさに邦画ならではと感じがします。

    ミッドポイントが遅いというところから前後の展開に無理やテンポの悪さが生じていないかという分析までできると、分析からリライトへとつなげていけます。

    そもそも分析をお願いしている目的は、リライト能力向上のためですので、ぜひ一歩進めてみてください!

  2. 名前:緋片 イルカ 投稿日:2022/09/20(火) 18:03:30 ID:bcb884085 返信

    追伸:音楽での時間経過は『君の名は』以降ですね笑

  3. 名前:川尻佳司 投稿日:2022/10/24(月) 22:48:50 ID:520dbeca9 返信

    あまりに宮崎駿の作品に似せていたので、どういう意図なのか戸惑いましたが、監督が間口を広げるためアニメの伝統である世界名作劇場の作風で作ったというインタビューを読み、理解しました。

    ビートについて以下のように考えてみました。

    Image1:「明日奈線路の音を確認、鉄道橋渡る」「秘密基地」「鉱石ラジオ」

    CC:~8分「ひとり家事、亡父、孤独」山村で暮らす明日奈はただ一人の家族である母とはすれ違い、友達と付き合わず孤独で、ラジオを通して別の世界に憧れています

    Catalyst:14%10分「シュンと出会う」(ジャンルのセットアップ:ファンタジー)

    Debate:18%14分~「シュンともう一度会うべきか」

    Death:25%23分「シュンの祝福と死」シュンから祝福を受けますが直後に彼は死にます、このままでは彼女は「静止―死」です、生きる喜びとは同時にその死を受け入れることであると彼女は学ばなければいけません

    PP1:25%23分「シュンの訃報」第2幕に入り、明日奈はシュンの死を受け入れられず、アンチテーゼ、死者の世界への旅が始まります

    Battle:28%24分~「シュンが来ない」「シンとアルカンジェリの戦い」「ケツァルトルとの戦い」明日奈がシュンの死を受け入れられないその葛藤です。妻の復活を願う森崎やシンと出会い地下世界アガルタに向かい、死者を復活させようという者たちとそれを阻止する者たちの戦いとなります

    Pinch1:36%35分「シンと出会う」明日奈はシンをシュンと呼び、その死を受け入れられていません。アルカンジェリに襲われ、洞窟へ行き、MPに向かいます

    MP:48%48分「アガルタ到着」鉱石ラジオで聞いていた憧れの場所に来ることが出来ました「まやかしの勝利」です

    Fall start:60%60分「シュンの腕が落ちる悪夢」危険度アップです、地上と地下の交わりを好まない夷族に襲われます

    Pinch2:「マナの祖父と出会う」死者を復活させることに疑問をいだきつつ、生死の門へPP2に向かいます

    PP2(AisL):76%87分「崖から降りれない」険しい崖に阻まれ生死の門にたどり着くことができません

    DN:78%91分「夷族に襲われる」なぜアガルタ、アンチテーゼの世界に入ったか、ずっと寂しかった、生きる喜びを感じられなかったからだと気づきます

    BB(TP2):「シンはシュンではない」シュンの死を受け入れる戦いです
    prepare「生死の門へ」
    start「森崎がアガルタの神にリサの復活を願う」
    twist「明日奈の肉体を奪ってリサが復活」
    solution「シンがクラヴィスを破壊」明日奈はシュン、ミミと別れます
    BF「リサは消え、明日奈が復活」死を受け入れるジンテーゼです

    image2:「明日奈は地上へ帰る、母に送られ卒業式へ」

    もう少し主人公への感情移入があるシーンが出来ればと思いました。森崎はまやかしの師の役割ですが、森崎の方が主体的過ぎるような気がします。宮崎作品をモデルにするのであればそこまで模倣してほしかったです。

    他人の肉体の器を借りて魂を入れるかわりに目を失いますが、まさにこの映画のことだと感じました。そういう意味では他山の石なのですが、しかし、ここまでパズルを埋めるようにしっかりと完成させるのはすごいエネルギーです。そして、もっとすごいのはその反省の上に、この後に「言の葉」や「君の名は」へと続けたことです。時代を作る人というのは間違い方も何もかもすごいです。