映画『裏アカ』(三幕構成分析#69)

※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。

※あらすじはリンク先でご覧下さい。
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【ログライン】

仕事が上手くいかない伊藤真知子(瀧内公美)はSNSの裏アカウント投稿をきっかけにゆーと(神尾楓珠)と出会う。しかし、ゆーとから一度きりと振られ、その埋め合わせに、さらに裏アカウント投稿にハマる。一方仕事は充実していき、取引先の原島がゆーとと知り、再び会うが、彼の人生には何の価値も無いという考えについていけず、裏アカウントを止める。しかし、新ブランド披露会で、真知子は裏アカウントをバラされ、ふさぎ込むが、ゆーとの残した言葉に人生は自分次第で変えられるのだと学ぶ。

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「泥土に液体が流れる」「衣類を手に涙を流す真知子」不穏なBGM。ぬかるんだ泥土に得体の知れない液体がゆっくりと流れていくクローズアップのショット。夜、雨が降っている。コンクリートの室内にカゴ一杯の衣類。それを手にして笑いながら涙を流す真知子。

CC「主人公のセットアップ」:「初めて夜の東京を歩いた頃、何でも出来るような気がしてた」会議で意見は無視され、バイヤーが買い付けた商品に不満を隠せない真知子。かつては真知子がバイヤーだったのだ。年下の店員に比べ彼女のSNSのフォロワーは少ない。そこで、匿名の裏アカウントmarchとして下着姿を投稿すると、瞬く間にフォロワーは増えていき、沢山の反応が。真知子は思い出す、初めて夜の東京を歩いた頃、自分には何でも出来るような自信があったことを。
「ジャンルのセットアップ」「裏アカウント投稿の依存」)

Catalyst「カタリスト」:「ゆーとから会いたいという誘い」手ブラの投稿でさらにエスカレートする真知子の裏アカウントに、「ゆーと」という年下男性らしき匿名アカウントから実際に会いたいとメッセージが送られる。彼のプロフィールには「おもしろきこともなき世におもしろく」とある。これがこの映画のテーマだ。世の中は変えられなくても自分次第で面白く生きることはできる。

Debate「ディベート」:「ゆーととSNSのやりとり」会いたいというゆーとに真知子は自分のことを打ち明ける。恋人がいないこと。自分に素直になれない性格であること。何もうまくいかず、つまらない毎日であること。これが真知子の抱えている問題だ。彼女は自分に素直になり、自分を受け入れることを学ばなければならない。そんな真知子とゆーとは同じことを感じていると共感する。真知子とゆーとのやりとりはこの映画のBストーリーだ。

Death「デス」:「ゆーとから再び会いたいという誘い」真知子とゆーとはお互いに満たされない思いを抱いていることに共感し、再びゆーとから会いたいと誘われる。画面上でAとBのストーリーの交差が暗示され、店の売上悪化に謝る佐伯を真知子はかばう。店の売上は自分たちみんなの責任だと。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「待ち合わせるmarchとゆーと」待ち合わせ場所でついに実際に会った真知子とゆーと。外見はお互いに大丈夫だ。

Battle「バトル」:「marchとゆーとのデート」タクシーの中でゆーとは真知子に敬語を使ったら罰金100円というゲームを持ち掛ける。徐々に打ち解けていく2人。裏アカウントを通して出会った二人のラブストーリーはこの映画の「お楽しみ」でもある。ゆーとは真知子を都会の洗練さとは対照的な大衆食堂に連れて行く。お互いの心を包み隠さず、あけすけに表す人たち。停電などのハプニングもあり、2人は近づいていく。そしてベッドシーン。ゆーとは真知子に自分を解放するようにいう。

Pinch1「ピンチ1」:「真知子がゆーととの性行為中にアパレル店の自分を認識する」ゆーとが真知子との性行為をスマホで撮影していると、AとBのストーリーが交差し、部屋の窓にアパレル店に立つもう一人の真知子が現れる。真知子はきらびやかだが空虚だった自分を知る。
別れ際、真知子がまたメールすると言うと、ゆーとは一度きりの出会いだと別れてしまう。再び満たされなくなってしまった真知子はゆーとから送られた性行為の動画をきっかけに、代償として他の男たちのとの行為の投稿を繰り返すようになる。

MP「ミッドポイント」:「百貨店に真知子の提案が通る」真知子は百貨店とのコラボ案が通り、「まやかしの勝利」を手に入れる。AとBのストーリーが交差し、百貨店の本社の担当して紹介された原島はなんとゆーとだった。

Fall start「フォール」:「フォロワーから住所特定の脅迫」 真知子は裏アカウントの男との性行為の投稿を繰り返し、フォロワーはついに1万人を超える。沢山の反応の中で、あるアカウントから真知子は住所特定の脅迫を受け、危険度がアップする。

Pinch2「ピンチ2」:「ゆーとと再び会う」百貨店での原島との出会いにより、ゆーとにもう一度だけ会うことを願う真知子。二人は再び、空き室で会うことになる。そこで真知子はゆーとの本当の姿を知る。彼は人生には何の意味もないと考えていた。意味のない人生、おもしろきこともなき世の中で、彼にとって真知子は裏アカウントでセックスに興じる相手の一人に過ぎなかったのだ。真知子はそこに本当の自分はいないと知るのだった。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「真知子が裏アカウントを削除する」ゆーとと別れた真知子は自身の裏アカウントを削除する。そして、百貨店との新しいブランドの披露会が始まる。彼女は新しい人生のスタートを切るのだ。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「新ブランドの披露会で接待する真知子」華々しい新ブランドの披露会で、真知子は客人を接待する。原島は仕事で成功した真知子に一緒に喜べばいいのだろうが、自分にはわからないと告げる。彼女はゆーとや裏アカウントを失ったが、仕事の成功を手に入れ、自分を取り戻したように見える。

BBビッグバトル:「会場にmarchのSEX動画が流れる」新ブランドのイメージ映像の直後、PCが乗っ取られ、marchのSEX動画が流れる。必死に止める真知子だが、動画は止まらない。真知子のインスタと照合する動画。真知子は原島を犯人だと思い、怒りをぶつける。原島は自ら地獄、意味のない人生を欲しているのだと。原島は否定し、真知子は何もわかっていないという。会場は騒然とする。真知子は会場でmarchは自分だと告白する。自分が必要とされたかったこと、それは自分には何もないからだと言う。真知子は自分を受け入れた。皆に謝り、泣き叫ぶ真知子を佐伯が介抱する。
空き室で女と原島。真知子が吐息で描いた花の絵を見て、女との行為を止める原島。彼も人生は地獄だと逃げていた自分を認め、変わったのだ。
真知子の家の扉前で心配して声をかける佐伯、犯人は同僚の岡田だったと告げる。真知子はゆーとのアカウントが無くなっていることを知る。マンションに引っ越した原島と妻。業者から100円のお釣りをもらう原島。そして、別の場所で桜を見上げる真知子。二人の顔がイマジナリーラインで向き合う。

image2「ファイナルイメージ」:「橋の上、夜明けに照らされ見上げる真知子」自宅にふさぎ込んでいた真知子は原島が犯人ではなく、裏アカウントもやめたこと知ると、外に出て、ゆーとと行った大衆食堂に行く。そこでゆーとのプロフィールにあった「おもしろきこともなき世に」の言葉を発見する。世の中は変えられなくても、人生は自分次第で変えられる。そして、女将が客を見て、人間はいつも変わらないのに今の自分を嫌うものだと話す。真知子は川にスマホを捨て、夜通し土手を走る。真知子はこれまで鬱積したものを吐くように、急な激しい運動で吐いてしまう。見上げた真知子の顔は夜明けの光に照らされる。

【感想】

SNSの裏アカウントを題材に依存症の岐路としてしっかりとプロットがつくられている。後半、ゆーとを初めとするBストーリーにやや説明的な感じを受けるが、よくまとまっている。主人公が社会的生活を大きく失うので、ラストにはもっと救われた感じが欲しい。

(川尻佳司、2022/10/2)

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