映画『夜のあぐら~姉と弟と私~』(三幕構成分析#98)

※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。

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【ログライン】

父(岸部一徳)を憎んでいた秋子(井上真央)は実家の相続を拒むが、借金で差押えられ、父のびわジャムを手に入れ父を許す。

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「満月のもと、住宅に忍び込むキャッツアイ」真夜中、秋子と姉・春子(尾野真千子)がかつての実家に忍び込み、サスペンスになる。しかし、実家の作りに秋子は記憶が薄いようだ。春子は金庫破りに挑む。なぜ金庫破りすることになったのか、一ヵ月前の大晦日、ピアノの下で眠る秋子の携帯に春子から家族会議の招集がかかる。パチンコ玉が落ちてくる。

CC「主人公のセットアップ」:「パチンコ店でアルバイト」短大を卒業後、ピアノの講師になり上京した秋子。両親の離婚によって幼くして別れた姉や弟に関してどこか疎い。家族との思い出は忘れてしまっているようだ。今秋子はパチンコ屋でアルバイトしていた。

「ジャンルのセットアップ」「ホームドラマ」)

Catalyst「カタリスト」:「遺言作戦 台本」大晦日の家族会議で秋子と雪雄(村上虹郎)は春子から1月2日に父から遺言があるから来るよう言われる。実家はこどもたちに譲るという父の言葉を後妻のミドリ(南果歩)に聞かせるのだという。後妻といえども本妻のミドリは相続人だ。果たしてうまくいくのか。15分たったところで、春子から実家を相続するための嘘の台本が送られてくる。

Debate「ディベート」:「遺言作戦をするか」台本ではフィアンセがいて実家で富裕層向けにピアノ教室を開くことになっている秋子。雪雄はミドリを突き飛ばした過去があり、行く気はないようだ。秋子はミドリに会いに行くのを迷うが、意を決する。台本を映す携帯を横に挑むが、手ごわい父とミドリ。春子はすでに帰ってしまったようだ。

Death「デス」:「遺言作戦はしない」結局遺言作戦は実行せずに帰る秋子。台本を映した携帯を忘れていたほどだ。中を見られたのか、ミドリに結婚しないのかと聞かれ、秋子はしないと答える。そして、ミドリから無理にお年玉を持ち帰らせられる。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「お年玉はいらない」21分たったころ、春子の元に来た秋子はお年玉を父に返すよう春子にお雑煮とともに返す。春子はミドリのせいで実家を1/3切り売りして借金を返すと、交渉が決裂したため先に帰ってしまったことを話す。

Battle「バトル」:「実家はいらない」「雪雄と対立」父を許すことが出来ず、帰路、秋子は春子に実家の相続はしないと告げる。秋子が家に戻ると、雪雄は働かずに父のお金でゲームし、家は荒れている。苛立つ秋子は「いつまで甘えてんのよ」と言うと、雪雄は出ていく。

Pinch1「ピンチ1」:「パチンコ店、後輩に任せて雪雄を探しに」秋子は春子から雪雄がいじめによって高校を辞めたことを知り、秋子のお陰で口を利くようになったと聞かされる。パチンコ屋のバイト中、秋子は後輩の安藤からゲン担ぎのパチンコ玉がついた自転車の鍵を借りて、雪雄を探しに行く。

MP「ミッドポイント」:「実家の土地権利書を奪う案」父の容態が変わり、手術の延期に家族が集まると、父の新たな愛人・橋田(川面千晶)が登場する。実家が半分以上取られる可能性が出て、「危険度がアップ」する。雪雄は冗談で実家の土地権利書を奪うことを提案するが、春子は真に受けて本気で金庫破りを計画する。

Fall start「フォール」:「春子離婚の危機」秋子がパチンコ店の屋上にいると、かよ(林田美優嘉)が電話で離婚の不安を訴え、「道端のリンゴ」が転がりだす。春子は金庫破りのためにキャッツアイのまねをしている。

Pinch2「ピンチ2」:「パチンコ店、後輩に任せて姉を助けに」秋子は雪雄から春子が実家にこだわる理由を秋子とやりなおしたいのでは言われる。ピンチ1の対で、春子の仕事を代わるのに安藤は交換条件にバンドの練習に参加するよう言って、姉の確変を祈る。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「金庫破りを諦める」「父の死」鍵を回すだけでは開かなかったため、金庫ごと持っていこうとする春子だが、秋子は脚がつり、とても運ぶことはできなかった。遂に秋子はやめると告げ、春子が実家にしがみつくことを非難する。しかし春子はしがみつかなければ家族は壊れてしまうという。パチンコ玉が落ち、泣く春子。そこへ雪雄が現れ、かつて三人が最後の夜に言ったセリフを言う。そして父が亡くなったことを知らせる。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「父の葬式」父の乗る飛行機を見送り、おにぎりを食べる母子の回想。父はいつもいなかった。秋子は帰りたかった。飛行機が飛んで行く空に向かって煙が出ないと、秋子はかよと母(手塚理美)と火葬場にいる。

BBビッグバトル:「ピアノとびわジャム、実家の差し押さえ」秋子は捨てられたと思っていたピアノが実家にあったことを母に尋ねる。母は秋子が実家に戻った時のために置くよう父に頼んでいたのだ。そして、好きだったびわジャムは父が作っていたことを知る。父を憎もうとしていたが、かわされてしまった秋子。その後さらに借金が判明して実家は差し押さえられてしまう。差押えの前に一家で食事をとると、父の最後のびわジャムを見つける。秋子はびわジャムパンをほうばって泣く。春子が家族みなで父のジャムを相続することを宣言する。

image2「ファイナルイメージ」:「びわの木」幼かったころ、父にさよならと言えなかった秋子は、家族の音頭を取って「さようなら」と言い、他の家族は「いただきます」といって、びわジャムを分かち合う。秋子は手を挙げて父を送る。庭にはびわの木が茂っている。

【感想】

「好き」3点 「作品」3点 「脚本」3点
遺産相続の争いを巡るドラマだが、争いよりも、そこに関心を持たない秋子が巻き込まれることを通して幼い頃に別れてしまった二人の姉弟との関係性についてドラマを作っている。
したがって、一番の課題は主人公のアークと実家を守るメインプロット、父を許すサブプロットの相乗効果が得られにくいことだ。メインプロットを動かす姉の春子のアークを主人公のアークと絡めとるために、かよとの関係を使っているが、それだけでは物足りなく感じた。
やはりセオリー通りに主人公の動機をストーリーに貫通させることが必要なのだと思う。
シーンごとでは過去の傷のために抑えられながらも姉と弟を助けに行く秋子の肯定的な姿はとても良かった。離れてしまった姉弟との微妙な関係性に着目しているところがユニークで面白い。
全体として役者の演技がとても良く、フィナーレの父を許すカタルシスはとても共感させられる。

(川尻佳司、2022/12/9)

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