キャラクター概論35「言動決定要素⑥目的:主人公のWANT」

これまで言動決定要素について順番に考えてきました。今回から最後の「目的」について考えていきます。

【構成上のWANT】
物語全体の構成をみたときに、主人公には中心となる「目的」(ハリウッドでは「WANT」と呼びます)があります。
たとえば過去にタイムスリップしてしまう話であれば「未来に戻る」。
そのために行動して葛藤するのがアクト2(ビートでいえば「バトル」。くわしくは構成を考えるシリーズをご覧下さい)です。

これは物語全体だけではなく、シーンごとにも小さな「目的」があります。
「未来に戻る」というのが大きい目的であるとしたら、それを達成するためにまず「科学者を探す」という小さな目的があるのです(物語全体で構成があるように、シーンの中にも構成があります。シーンを構成する要素については「ミニマムビートシート」をご覧下さい)

【シーンにおけるWANT】
物語で目的のない主人公などいないと言えます。
一見、何を目指しているかわからなかったり、受け身で振り回されてるように見える主人公もいますが、シーンごとの「目的」はもっています。

具体的なシーンでみてみましょう。

パターンA
男が歩いていると、老婆に話しかけられる。
老婆「すみません、駅はどっちでしょうか?」
男「この道をまっすぐですよ」
老婆「ありがとうございます」

「目的」の見えずらいシーンです。つまらないシーンともいえます。
しかし男に目的がないかというと、そんなことはありません。
道を歩いていたのですから、どこかに向かっていたはずです。「目的」が読者に見えずらいだけです。
これは作者が未熟で書き方が悪い場合もあるし、ミスリードするために隠しているのかもしれません。

パターンB
男が時計を気にしながら、早足で歩いていると、老婆に話しかけられる。
老婆「すみません、駅はどっちでしょうか?」
男「えっと、この道をまっすぐですよ」
老婆「ありがとうございます」
男「お気を付けて」
男、笑顔で返してから、また時計を見る。

ちょっと文章を足すだけで、どこかに向かって急いでいることは伝わります。
「目的」がはっきりすると、それを妨害するものが現れるだけで葛藤が生まれます。
急いでいる男にとっては、老婆は障害となるのです。
また、それでも親切に教える若者の人柄も出ます。

あえて隠している例もみてみましょう。

パターンC
男が歩いていると、女性に話しかけられる。
女性「すみません、駅はどっちでしょうか?」
男「この道をまっすぐですよ」
女性「ありがとうございます」
男「お気を付けて」
男、女性の後ろ姿見つめて、追いかけるように歩き出す。

道を聞かれた段階では男の「目的」は見えませんが、追いかける不自然な動きから男の「目的」が想像できます。

このように構成全体だけではなくシーン内における「目的」は、とても重要な要素です。

次回……キャラクター概論36「言動決定要素⑥目的:敵対者のWANT」

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緋片イルカ 2019/09/14

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